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7-4 作業

恒星暦569年9月11日

メダリア星系 巡航艦ジャマイカ


 エルフ達の監視任務を終えて惑星メダリアに向かう巡航艦ジャマイカでは、地上に劣らない大混乱が発生していた。

 民間人を乗艦させるよう命じられたのは12時間前。割当は3000人。宇宙空間を長く航行する戦闘艦だけあり、各種用途のための液体や気体の貯蔵庫といった場所を利用すれば広さはある。

「交戦1回分の液体、気体を残し、残りは居住区とすること。割当人数は3000人、家族構成は添付データのとおり。」

 だが、3000人を乗せるとなれば、3000人分のトイレ、3000人分の入浴施設、3000人分の食事スペースを設置しなければならない。集団トイレ、集団浴槽なら、機動歩兵の居住区を参考にある程度機械的にできる。今回は家族毎に貯蔵庫だった施設を居住可能な空間とした上で居住施設を用意せよとの指示が来ていた。

 その上で家族ごとの居住区を区切る通路や広場、空調施設を設けなければならない。居住施設だけではない。寝具や食器、果ては洗濯ばさみやヘヤピンといった小物まで準備が必要だった。


 全体的な作業としては、艦内のアンドロイド達に建設関係のソフトをインストールし、艦内工作施設でパーティションを作成して、独立空調装置を作成して、持ち込んで、建設用機材を作成するための工作機械を作成して、貯蔵庫をいったん空にして、空気を充填して…

 で、今ここで求められる作業は、貯蔵庫内での環境整備よね。貯蔵庫が空になった事を確認し、清掃を行い、次ぎの作業が可能な状態にする。

 ランドーは、広い空間を見渡した。アンドロイド達はやることをやっている。

「何が起きているのですか?」

 簡易宇宙服姿で作業を指揮するランドーに、同じく簡易宇宙服姿の小太りな兵の一人が近距離通信系無線で尋ねる。戦闘時や船内空調システム外での作業時に装着する宇宙服でも分かる体系の差だった。空調システム外ではあるが船体内での作業であるため、バイザーは透明となっており、ニキビが目立つ幼い顔がよく見えた。

 知らんがな。

 心の中で吐き捨てた後、眠気覚ましの薬を奥歯で噛み割る。背筋があまりの不味さに震え、暫く時間が稼げた。

「まあ、ボランティア活動じゃないのは確かだよね。」

 暗に、命令だからつべこべ言わずに下士官の指示に従い動け、そう伝えているが、この兵にはそのような言葉は通じない。当直である程度親しくなったつもりの兵の勘違いと違い、この若者は、指揮下に入った直後からこの口調だ。

「そりゃそうですよ。」

 艦内からかき集められてきた「優秀な」人材ばかりで作業をしなければならないため、噛んで含めるように説明が必要だった。下手をすると手を抜くどころか、破壊工作までしかねない「じんざい」が何人かいる。

 話しかけてきているのもそういう「じんざい」だった。あまりに酷いので、アンドロイドが監視と後始末のため普段から3体あてがわれている。今回は、5体あてがわれていた。アンドロイドも艦内工作施設で組立可能だが、無限に素材があるわけではない。

 困ったランドーは作業を実際に動かす下士官に視線を送った。だが、下士官も「優秀な」人間があてがわれている。何かで挫折し、気持ちを切り替えれば良いのにそのまま不貞腐れている「じんざい」。後始末のためのアンドロイドは不要だが、監視のためのアンドロイドが必要なタイプだ。

 ランドーが担当しているのも最下級士官という理由からだった。それより酷い能力の持ち主でもない限り、専門的知識は少なく、元気だけはある。あとは艦長の意向だった。偉くなりそうだから、経験を色々積ませなくてはならない。優秀な部下に囲まれていては、偉くなった際、それを基準に判断することになる。だが、ほとんどの兵はランドーが今相手している兵と五十歩百歩だし、下士官も気難しい。

「理由が分からないとやる気になれないんです。」

 でた、理由病。

 ランドーは、口を尖らせて理由を求める兵のニキビの一つに焦点を当てた。 アンドロイド兵が必要なのは、彼らは理由を聞かないからだ。

 イエス、サー。アイアイ、サー。良いからやれ、はい分かりました。

 しかし、人間であると教育からか理由を知りたがる。全てを理解できるわけではないのに理由を聞きたがり、理解できないと説明が悪いと泣き叫ぶ。

 良いから作業しろ、こちらだって理由を聞いていないんだ。

 心の中で兵のニキビを8つほど潰してから、ランドーは口を開いた。

「そっか~。でも、こちらも君たちに伝えられるようなことは聞いていないんだ。残念なんだけどね。」

 表情を保ち声の調子に苛立ちを混ぜないようにするには努力が必要だった。

「中尉、いけていないですね。」

 昔なら、この瞬間上官侮辱で鞭打ち24回くらいかな。でも、兵のなり手のない今なら、譴責がいいところ。

 心の中で1からゆっくり数字を数えながら、古代の帆船小説を読むのが趣味だったランドーは思った。駄目、頭に血がのぼる。もう5つ数えないと。

「それくらいにしろ。」

 流石に下士官が間に入る。名前を覚える気にもなれない兵は、不貞腐れたようにはぁーい、と作業に復帰した。

 内心が出ないように気をつけながら、下士官に軽く頷き感謝の意を示す。 


 全体的に作業は、順調に進んだ。

 倉庫内の真空と異物の有無を確認したのちに独立空調装置を設置し、という作業は難しいものではない。戦闘時に被害を受けた場合、船体を修復し、居住可能な空間に戻す作業と本質では変わらない。船内空調システムが切断された際、基地帰投まで長期の行動が予想される場合、切断されたシステムの先で独立空調を設置することも想定内だった。特に空気漏れには迅速な対応が求められることから、独立空調設置の作成、設置はあれよあれよと言う間に進んだ。

「いやー、ヘルメットを脱げるようになってありがたいですよね。」

 人間の仕事、と言えばアンドロイド達の作業を「監視」し、作業の結果を「確認」すること。観測機器が整備されている機関室であれば機関制御室か制御盤で実施できる作業であるが、倉庫内にちょっとした「街」を創る作業であるため、監視装置のかわりを勤めることだった。

 倉庫内の灯火の色が変わり、空気の充填率が基準値を超えた事が表示されると、名も覚える気になれない兵がヘルメットを令無く取り、話しかけてくる。

「忙しいのにヘルメットなんて被ってられ無いっすよ。」

 下士官は何をしている!

 心の中で吐き捨てる。

「現在、作業中。休憩場所を除きヘルメットの脱装は安全管理上許可されていない。各員は改めて安全管理を徹底すること。」

 馴れ馴れしく話しかける声を無視して指揮下にある全員に安全管理規定を遵守させるよう再周知を行った。

 マチダの奴は憲兵だから、こんな連中の相手をせずに済むんだよな。機動歩兵や艦隊から選ばれし下士官や兵だけがいる憲兵。転科して上手くやっているよ。今頃は地上で優雅に座って珈琲でも飲んでいるのだろうか。

 メダリア沖に戻ったら、休暇を取って地上に降りよう。そして、奴と遊んで、飲んで、この作業のことを忘れてしまおう。

 次の作業の段取りを考える前に、ランドーは少しだけ現実逃避をした。

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