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6-2 調査

恒星暦569年8月30日


 宇宙は広く、人類種の居住惑星に限らず人類種が手を伸ばした惑星は数多い。このため、重爆撃期にある惑星もあれば、10万年以内に超新星爆発がある、と予測されている赤色巨星の近くにある惑星もある。

 ということで、人類居住惑星に小惑星が落下することは、珍しいことであるが、絶無ではない。

 このため、無人島に小惑星の破片が落下したとしても、大々的に学術調査団が派遣されることはなくなっていた(何しろ、宇宙に行けば小惑星は沢山転がっている)。隕石や小惑星が地上に落下した際の成分分析から小惑星や隕石の構造を推測する、という研究分野はとのうの昔に消滅していた。

 ただ、防疫、対エルフ対策の観点からの調査は継続して実施されている。宇宙空間に漂う有機物の中には、人類種に悪影響を及ぼすものは確実に存在しているし、エルフ達が「何か」を送りつけてくる可能性は否定できない。とはいえ、長命なエルフ達と異なり、短命な人類種が忘れっぽいことは事実である。


 天空から何かが落下して、航法支援施設が故障することは、アンドロイド達が対応できる程度にはマニュアル化されていた。

 まずはアンドロイド達が航法支援施設の故障信号を受け(正常信号の停止を受け)、被害を調査する。その後、無人重機を使って施設の補修を行うことになる。

 先日までの嵐でアンドロイド達が施設の補修に向かえたのは、正常信号の停止を受けてから1週間後だった。航法支援施設のメンテ用アンドロイドは、予算の関係から軍のメーテルやビショップの払い下げを用いる事が多い。今回も多分に漏れず、軍から払い下げられ、新たな記憶を注入され(戦時には、払い下げられたアンドロイドは軍に徴用されるため、軍用の記憶野は維持されている)、酷使されていた。

「これはまた酷い状況だね。」

 低軌道衛星経由で航法支援設備付近の画像を確認している担当が呟く。少しやつれた感のあるメーテルが示したのは、1メートルほどの隕石が時速300キロほどで命中した痕跡だった。

 マニュアルに従い、アンドロイド達がドローンを放ち、各種被害状況を撮影、データは転送され、人間が解釈できる情報として処理される。

 無人島にある航法支援施設はある程度の自然現象に耐えられるようになっているが、無線アンテナは隕石の直撃に流石に耐えられるようにはできていない。そして、その無人島全てを耐候性施設に改造するほど行政は金持ちではない。

「ざっとどれくらいだろう?6メートル?」

 無線アンテナに衝突してアンテナを破壊した隕石は付近の土砂に命中し、学者であるなら直径6メートルほどのクレーターと言うより窪みというだろうものを創っていた。

 担当者の独り言にあわせて処理された情報がモニターに映し出される。

「で、これが隕石?」

 ビショップが指をさす姿をメーテルが記録する。本当なら四散しているはずの隕石が不自然に形状を維持したまま、クレータの底に鎮座していた。人間である担当者が確認するなか、バックグラウンド処理で、過去の行政からの通達集を含め、データベースをもとにシステムが情報を処理し、関係先に情報を伝達していく。忘れっぽい人間と違い、コンピューターは指示された行為を忘れることはない。

 ただ、先の独立闘争の結果、惑星防空システムは機能していない。もちろん、地上の連邦高等弁務官事務所にはリアルタイムで情報はアップされる。しかし、艦隊防宙システムへのアクセスは、連邦高等弁務官事務所経由であり、セキュリティー上の問題から、6時間に一度と限定されていた。

「隕石という割には、変な形だね。まるで卵みたいだ。」

 担当は科学への知見が特になかったため、隕石が形状を維持したままクレータの底に鎮座していることやクレータと隕石の大きさの関係に違和感を感じなかった。

 学術的に隕石の価値はなくなったとはいえ、経済的には隕石の価値は未だ残っていた。自宅に隕石が落ちた場合、落下した隕石を売り払うことで自宅の修理費用は相殺されるどころか、大抵黒になる。

「卵形隕石、か。好事家が喜びそうだ。」

 あとで隕石を回収することを指示するとして、担当は施設の損害状況調査をアンドロイド達に指示する。


 施設の損害は、アンテナまわりが主だった。画像の解析、信号の停止状況から必要な修理部品、それを工作する機材、必要なアンドロイド数が計算される。つい最近、叛乱が発生していただけあり、復興についての実績が積み重なっており、その手の計算はすぐに終了する。

 結構な費用だった。

 復興特需がまだ終わっていないため、無人重機のレンタル料、輸送手段である垂直離着陸機のレンタル料、コンクリートミキサー車のレンタル料…

 ただでさえ全てのレンタル料が高めのこの辺境惑星では、叛乱鎮圧後の復興特需が発生している。このため、最近はレンタル費用は宇宙平均の3倍近くかかっていた。しかし、通信施設管理を委託している連邦高等弁務官事務所は、宇宙平均で仕様書を作成し、見積を依頼し、入札をかけていた。叛乱前に結ばれていた長期管理委託契約であるため、叛乱後のレンタル料高騰は見込まれていない。

「どうやって費用を抑えようか。」

 見積を眺めて暗然とした担当は、意識を卵形隕石に戻した。この手の落下物について、所有権は土地所有者に帰す。このため、上手くいけばこの復旧費用についても黒までは行かなくても、かなりの抑制が見込まれる。そして、費用の抑制については、担当の勤務評定に響くため、かなり真剣に考えるべきことだった。

 まず、隕石の落下報告を行政に提出する。これはシステムが自動作成してくれるので、コストはかからない。次ぎに、この卵形隕石を回収する。これも修理用の資機材を無人島で使用しているため、機体重量オーバーとはならない。あとは、卵形隕石を売却すること。

「オークションかな、それとも買い取りかな。」

 一般にはオークションが高値で処分できるが、オークションは客がつくかが分からない。何しろ、この惑星でお金を持っている階級は先の叛乱である程度の損害を被っている。

「買い取りかな…」

 オークションに比べ最悪1割程度でしか処分できないが、在庫リスクは先方持ち。

 担当者は、過去の処分履歴を検索した。会社が委託契約を受けた過去10年、隕石を発見したのは4件。オークションが2件、買い取りが2件。ただ、オークションを行った際、他の出品者と出品時期が重なり、2件とも担当者はタイミングを、と叱責され、買い取りはちょうど好事家が欲していたことから、比較的高値で処分でき、担当者は評価されている。

「メーテル、もう一度隕石の画像を撮ってくれるかい?」

 担当者は、無線越しに指示を出す。

 そして、後悔した。

「おい、どうした!」

 画面に映っていたのは、妙な何かが、ビショップに張り付いている姿だった。感情のないアンドロイドだが、注意喚起のため、語調を変え報告する。

「報告です、隕石が割れて中から妙な生き物が!」

 エルフに比べると物忘れが激しい人類種であっても、流石に手順を忘れない。担当者は、息を吸いながら咄嗟に非常連絡装置を励起した。

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