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5-1 勾留

恒星暦569年8月16日

惑星メダリア メダリア派遣第13独立憲兵隊留置施設


 深夜に業務が及ぶ際、留置施設で泊まることはよくあった。だから、狭さもベッドの硬さにも慣れている。機動歩兵として実戦経験も積んだことから、これより処遇の悪い場所で過ごしたこともある。

 だが、プロポーズの結果を聞きに行き、さあOKをもらえるという会話の最中にあのペローシとコウサカに邪魔され、反逆と連邦代表議員殺人の容疑でシーラと逮捕されたあとの留置施設は、最低だった。


 ケンタは3日目になる取り調べを終えたあとの疲れから、ベッドに寝転がり、天井を睨みつけていた。自殺防止のため、ベッドも含め繊維は一切存在せず、産まれたままの姿だった。エアコンがちょうど良く効いているため、風邪を引くことはない。

 今思い出してもムカムカする。

 ケンタは、ヤンセン家での出来事を思い出していた。どうもその時のことを考えると、目が冴えてくる。

 ちょうど良いムードだった。

 手を繋ぎ、良い雰囲気だった。応接間に二人きり。跪き、貴女を幸せにする、と誓った。シーラも何となく雰囲気に流されていた。あと10秒ではい、という回答がもらえただろう。

 その雰囲気のままに、だから、と続けようとした瞬間、あの腐れ外道どもがやってきた。

「シーラ・ヤンセン、マチダ・ケンタ、お前達を反逆罪と殺人罪の容疑で逮捕する。8月13日1452時」

 あの中年女と愚か者が令状を突きつけながら応接間に入ってきた。

 絶対、我々の付き合いに嫉妬しての行動に違いない。

 ケンタは、唇を噛みしめた。

 あの二人、どちらも結婚指輪をはめていなかった。きっとヒトが幸せになることを積極的に邪魔する類いの人種に違いない。

 抵抗はしなかった。

 そのような馬鹿な真似はしない。下手に動くと、合法的にいたぶられる。彼らからすれば、脳さえ残っていれば幾らでも身体再生できるのだから。

 屈辱的な身体拘束と身体検査をニヤニヤするコウサカにされ、目の前ではペローシにシーラが身体検査をされる。

 目でどういうこと、と訴えられても、ケンタにはどうも返事することもできなかった。ただ、陸戦部隊の兵士なら分かる手信号をさっと送っただけ。

 既に司法当局と被疑者とのゲームは始まっている。反逆と連邦代表議員殺人という意味不明なゲームを仕掛けられたのなら、それ相応の対応をしなければならない。

 幸いなことに、ペローシ大尉もコウサカ軍曹も気がついていない。

 シーラの母親は仁王だちになり、憲兵達を睨みつけたが、手は出さなかった。

 それでいい。

 お義母さん、という単語はまだ使えないが、コルネリア、と呼ぶ気にもなれない女性の姿をケンタは思い浮かべた。

 あの時何か行動に移していたら、容赦なく射殺されただろう。反逆罪という犯罪はそれ程の重みのある犯罪だ。


 それにしてもの調べは温かった。

 そのまま考え続けたら怒りでどうにかなりそうだったので、違うことを考える。

 まだ、憲兵学校の取り調べ実習の方が厳しかった。あいつら本当に取り調べる気があるのか、という程。

 まあ、無いだろうな。

 取り調べをした面々を思い出しながらケンタはため息をついた。皆知り合い。この呪われた星で1年は過ごしている。分隊長のペローシ大尉やあのコウサカ軍曹と違い、現実を知っている。

 ペローシ大尉やコウサカ軍曹は調べをしようにも、会話すらまともにすることができなかった。48時間とそのあとの24時間をどう使うかも分かっていなかった。あれでコウサカが軍曹を名乗るあたり、やはり奴は思想警察からの出向者なんだろう。ペローシ大尉も兵卒からの叩き上げの割には、調べもまともにできないとは。吐け、と吠えるだけなら犬でもできる。

 検事の調べも当然ながら甘かった。何せ、あの検事はケンタの知り合いだった。一緒に飲んだことすらある。ケンタがこの呪われた地の独立闘争に何の関心も持っていないことを彼はよく知っている。

 結局、この72時間でサインした書類は、身上に関する調書だけだった。あとは全てサインを拒否し、ペローシ大尉やコウサカ軍曹に対しては、口すらきいていない。

 このまま2期勾留を打つつもりだろうか。

 明日になれば、裁判所に行き、裁判官と話をする。裁判官もこの狭い星では知り合い。義理の祖母に目をつけられることを考えればよほどの証拠が無い限りまず勾留を認めないだろう。そして、自分には証拠はない。

 となれば、軍の犯罪をでっち上げるとか。それなら、軍法会議となるので軍の司法手続きとなる。だが、ペローシ大尉がどうこう吠えても隊長がサインをするとは思えない。軍法会議を仮に開けたとしても、判士は艦隊士官。この証拠で祖父の面前でまともな会議が維持できるとは思えない。

 あの二人は何を考えてあんな愚かな行動を取ったのだろう。

 考えてもどうしようもないことを考え続けていることに気がつき、ケンタは鼻で自分を笑った。

 どうせ、外ではコウサカ軍曹あたりが監視カメラで二人を監視している頃だろう。という事は、暗視カメラでシーラの肢体を眺めているのだろうか。

 やってられん。

 ケンタは目を瞑り睡眠を取ることを決心し、30秒も経たないうちに静かな寝息を立て始めた。眠りに落ちるまで、シーラが虚偽の自白をするとは思いもしなかった。


 シーラは、というと48時間の取り調べを思い出し、ぞっとしていた。自殺防止に全ての服を奪われ、ベッドの上に丸まっているがどうも睡眠を取れそうになかった。

 コウサカ、という男は最低だ。ひたすら怒鳴り続けていた。

 もし、逮捕される前にケンタの「砲撃アリ。耐久セヨ。」、という手信号を見ていなければ心が折れていたことだろう。

 ペローシ大尉とか言う身体検査をした中年女には嫌悪感しか抱けなかったが、あのコウサカの怒鳴り方は異常だった。

 すぐに母が用意してくれた弁護士が接見してくれ、休憩時間のようなものを与えてくれなければ、48時間続く砲撃に似た苦痛に耐え忍びきることはできなかっただろう。 

 だから、もあったが一切コウサカやペローシの調べにはサインはしていない。いや、ひたすら黙秘していた。砲撃の最中に鼻歌を歌えるのはケンタくらいだろう。あの戦役の際に傍受した波にケンタの鼻歌が聞こえてきた際は自治都市軍の幹部の多くは心が折れそうになったものだ。

 そのあとの検事の調べはコウサカの調べに比べると天国だった。ただ事務的に名前や生年月日、これまでの経歴を聞くだけ。流石にそれくらいの書類にはサインをする。肝心の被疑事実については、一切知りません、で通したが。

 明日はどうなるのだろう。検事のように淡々と話が進むのか、ペローシのように意味不明なことを聞いてくるのか、コウサカのように喚き散らすのか。

 考えれば考えるほどシーラは眠れない気がしてきた。

 明日が終わったら、コウサカが脅したように10日ずつの20日の勾留となり、その後裁判中も起訴後の勾留をされるのだろうか。

 自分は独立戦争敗北後は反連邦活動にはできるだけ距離を取っていたつもりだけど、どう判断されるんだろう。

 心配だ、眠れない。

 そう思いながら、シーラは意識を失って眠りについていた。 

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