↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/39

4-4 救助

恒星暦569年8月13日

惑星メダリア 大洋


 惑星メダリアには、大洋があった。自転により星はまわり、衛星により汐の干満があり、恒星から与えられる熱と地下から伝えられる熱により対流が生じる。

 それは、地球の大洋を捜索する人間であれば、悪夢としか言えないような世界だった。南極大陸以外まともな大陸が無い状態の地球のような世界なのだ。風は何処までも走り、波は大きくなる。波は遠方にうねりをもたらし、複雑な海面模様をもたらす。

「捜索機01から捜索救難本部、救難カプセル上空に到達、生存反応まだあります。これより救助にかかる。」

 捜索機は、当然ながら垂直離着陸が可能な機体だった。だが、波が10m、うねりが8mあるような状況で垂直離着陸能力をどう使うかを決めるには想像力が必要だった。

「どうやってすくい上げる?」

 生存者が確認されている救難カプセルの上空を旋回させながら、パイロットのムンはコックピットまで顔を出してきた救助員に顔を向けた。

 救助員も難しい顔をしている。

 もし、これが平穏な海であれば、低空から飛び降り、救助カプセルに泳いで向かうことだろう。

「空中から吊り上げます。」

 事故から5日、救難カプセルの生命維持装置がまだ機能しているとしても、この大時化の大洋ではすごい衝撃が発生しているはず。急がなければカプセルが破損して、救助できる命が救助できなくなる。

 ついさっきまですぐ近くにあったカプセルが、波とうねりのせいでもう20m近く離れている。中にいる人間は、強烈な体験をしていることだろう。

 天候の回復も期待できない。これから低気圧が接近し、最大瞬間風速70m、波は20m、うねりも10mになる、と予想されている。

「どうやってすくい上げる?」

 高度な自動操縦装置と地上時代の回転翼機操縦士が聞いたら泣いてうらやましがるような出力で捜索機は救難カプセルの上空に居続けている。

「任せてください。私は昔から金魚すくいが得意なんです。」

 救助員はにやりと笑うと操縦士の隣の席に座り込んだ。地上時代なら副操縦士が座る席は、マニピュレーターを操作するための席になっている。救難カプセルと捜索機の質量比から、救難カプセルをキャッチしたとしても即墜落、という事態はない。あとはセンスと残飛行時間だった。

「どれくらい大丈夫です?」

 捜索機が離陸したのは、かつての地球であれば南極大陸外縁からカムチャツカ半島先端程離れた所だった。

「エネルギーなら気にしなくてもいい。現在、燃料補給機の支援を要請している。2時間までなら大丈夫だ。」

 むしろ、低気圧の接近の方がムンには気がかりだった。ここで救助し損ねると、往復のタイミングから次に接近できるのは3日後。低気圧の中救難カプセルの中身がどうなるか容易に想像できる。

 というより、既にカプセルの中は酷いことになっているようだった。カプセルの中の人間は、既に衰弱している。ヘルメットを取ってしまっていたらしく、かなりの衝撃を頭部に受けているようだった。早急に救助し、大陸の病院に運ぶか、強襲揚陸艦に収用して貰うしかない。

「10分ください。」

 救助員は暫く目を瞑ったかと思うと、かっと目を見開き、マニピュレーターの操作を始めた。

「救難カプセルとの距離を一定にすることはできますか?」

 目を離さずにムンに早口で言う。

「何メートルがいい?」

 自動操縦装置でできないわけがない。波を上からかぶらないようギリギリの高度以上かどうか。

「25メートル。できそう?」

「余裕。」

 そうは言いつつ、ムンは地表だけでなく、周囲にもレーザー測距モードを設定した。たまに来る大波に対応するためだ。

「…セットした。」

 ムンは集中する救助員に囁くように言葉をかけた。

 救助員は口をきかない。救難カプセルにフックがかけられそうな所を探す。

「アーム伸ばします。爆弾倉は解放のまま。」

 機体中央の爆弾倉は、ミッションパックとなっており、今回の捜索においてはアームと磁気フックが備えられていた。

「許可する。」

 自動操縦装置から手を離し、周囲を確認する。大波はまだ来そうにない。救助員の動きを確認する。迷いのない操作だった。

 波で救難カプセルが持ち上がる。救助員は器用にジョイスティックを操作してするするとアームを伸ばすと、救助カプセルの脱出ハッチにフックを引っかける。

「あげて。」

 ムンは頷くと推力をすぐにあげ、海面から離れる。救助員はアームを短くしていく。

「安全確認。」

 操縦士の責任で救難カプセルを機体の中に入れる前にカプセルの周辺に異物がないかを確認させる。銀色に輝く救難カプセルに異物は確認されない。

「安全確認ヨシ。これより爆弾倉に入れます。」

「許可する。」

 アームが縮み、爆弾倉に救難カプセルを収納する。洗浄剤がアームとカプセルに扮さされる音が機内に響いた。

「よくやった、お疲れ様。さて。」

 救助員を労った後、洗浄が終わった救難カプセルに接続されたケーブルから救難プログラムに情報が入力されていく様をムンは眉をしかめて見つめた。

 まずい。

「緊急事態宣言。」

 通常の帰投ルートではなく、もっとも近くの救急施設に接近するために緊急事態を宣言する。

 一番近いのは、救難カプセルを発見した強襲揚陸艦だった。強襲揚陸艦の当直士官に連絡し、軍医の手配と救急施設の利用を依頼する。すぐに許可が出た。 ゆっくりと上昇すると、雲の上にでる。そこから水平飛行にうつり暫くして強襲揚陸艦が見えてきた。機体の操縦権を求める信号が発信される。

「もうそうろそろかな。救助したんだ、連邦軍だってうまい飯を食わしてくれるだろう。」

 ムンは、傍らの救難員に声をかけた。

「良いな、貴男は。」

 救難員はポリポリと肌を掻いた。垢ではない何かが落下する。

「止めとけ、劣化するぞ。乗艦したらシャワーを浴びられるように交渉する。」「約束ですよ。」

 救助員は美味しそうにエネルギーカプセルをすすると、救難カプセルの中で意識を失っている遭難者の情報を眺めた。

「人間って良いな。僕たちならこれくらいのダメージだと確実に廃棄処分だし。」「そうは言うな。さあ、飲み終わったら搬送の準備だ。カプセルの中はすごい臭いになっているはずだ。爆弾倉って脱臭装置はついていたか?」

 アンドロイド救助員をムンは慰めると、操縦権を奪われた機体に強襲揚陸艦にゆっくりと近づく様を無感情にただ眺め始めた。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。