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2-6 打合

恒星暦569年8月1日

旧自治都市メダリア 第13独立憲兵隊


 エライ人の視察がある場合、警備実施計画の策定は避けられない。その場あわせの箇所は多分にあるが、その場あわせを前提とする警備実施計画はかなりややこしい事態を惹起する原因となる。

 エライ人の偉さが高くなるほど、警備実施計画は緻密となり、関与する関係者の数は増える。関与する関係者の数が増えるほど、意思の整合が重要となる。特に関与する機関が普段から良好な関係を保っていない場合、意思の整合の重要性は増す。

 惑星メダリアは、いかなる意味でも警備実施が困難な惑星の一つだった。

 まず、地元都市の警察組織が存在しない。地元の広域警察組織は存在しているかもしれないが、連邦に反感を抱いている。惑星メダリアでの反連邦感情はいまだ高レベル。おまけに旧自治都市には元軍人がゴロゴロ転がっており、先の騒乱で用いられた武器や弾薬回収は十分ではない。もちろん、反連邦主義者の活動は活発である。とどめにエルフたちの影響を受けた人間の存在が否定できなかった。

 1か月前の高等弁務官暗殺未遂事件は、メダリアにいる連邦職員にいまだメダリアは危険地域であることを思い知らせていた。メダリア派遣第13独立憲兵隊を構成する8つの憲兵分隊では毎日損害が発生している。大抵はビショップやメーテル達であったが、先日のように実際に人間の戦死者が発生することも珍しい話ではなかった。

 だが、メダリアの外ではその認識は共有されていない。

 政権とは距離を置く連邦代表議員の一人が、「いまだに戦時下に置かれているのは連邦政府の懈怠であり、メダリアにおける諸戦時規制は不必要な規制である。」という前提のもと、視察をすると言い出したのだ。

 そして、その議員を載せた宇宙船が、超光速航行を終えて通常空間に入ってきた、という連絡が届いていた。

「以上が、トン連邦代表議員の視察行程となります。」

 早朝から始まっている警備実施前事前打ち合わせ会議の場で、隊長付きから視察行程が説明される。今回の周辺警護担当の分隊は第6分隊。ケンタは、応援要員として駆り出されていた。

 コルドバ広域警察組合との調整の結果、警備実施の分担は決まっていた。今回も身辺警護局からの職員派遣はなかった。憲兵隊は議員の周辺を警護することとなっていた。コルドバ広域警察組合の分担は道路や施設の警戒。

 連邦高等弁務官の視察に準じた役割分担だ。

 問題は、コルドバ広域警察組合がまじめに役割を果たすことが期待できないことだった。先日の高等弁務官案説未遂事件も、コルドバ広域警察組合が事前の役割を適切に果たしているならば駐車している車両が爆発し、装甲車が巻き込まれることなどなかったはずだ。


「ちょっといいか、マチダ中尉。」

 ケンタは大尉の階級章をつけた中年女性に呼び止められた。白髪が目立つようになった黒髪、きつい目つき。第6分隊長。

「はい、なんでしょう、ペローシ分隊長。」

 部内の打ち合わせのため、ケンタもペローシ大尉も制服を着用している。ペローシ大尉の黒い襟章の13Iという数字はまだ新しい銀色だった。7月の半ばに異動してきたばかりだった。記憶が正しければ、艦隊の兵からの叩き上げ。憲兵一筋のはずだ。

「先日の高等弁務官襲撃の件で確認したい。」

 会議の場に使われていたのは講堂だった。勤務時間前からの会議ということで、会場にはコーヒーサーバーが設置されており、その横にはサンドイッチやクッキーといった軽食が盛られている。単身赴任や独身者が多い第13独立憲兵隊の世帯事情を勘案して、隊長はよく早朝から会議を開いていた。今回も、分隊長以下単身や独身ばかりであることを見て取ると、会議開始時間を朝の7時に設定している。

 ケンタは、朝食のサンドイッチに伸ばす手を止める。皿にはまだ何も載せていなかった。

 食事に手を伸ばしているときに話しかけてくる上官には気を付けなければならない。よほど相手のことをおもんばかる余裕がないか、そもそもおもんばかる気がない時だ。

 士官学校で先輩に言われた言葉を思い出す。

「なんでしょう。」

 ケンタの声に警戒の色がこもる。今は休憩時間。別に一分一秒を争う時ではない。休憩時間として今は朝食をとることを期待されている時間だ。先輩が口にしたことが正しいとしたら、相手はこちらを人間扱いしていない、といったところか。

「お前はどうして被害を受けた車両に人員を派遣しなかった。」

 お前呼ばわり、ますます警戒しないといけない。

 ケンタはゆっくりと皿を置いた。その間にどう返事をすれば、この悪意を持って接してくる人間をやり過ごすことができるか考える。

「…死んだ人間に力を注ぐのは資源の無駄ですから。」

 せめて野菜ジュースを口にする時間が欲しかった。あと10分で食事時間は終わる。ここで会話に巻き込まれたら、空腹で午前中を過ごさなければならなくなる。

 予想通り、大尉の血圧が上がり始めたようだった。早く解放してもらいたいが、礼儀正しく発言を待つ。

「…お前は本当にそんなことを思っているのか?」

 きっちり5秒後、低い声で確認される。目つきも変わってくる。

 ああ、よく自制しました。

 ケンタは、よくされるが、何時もその意味が分からない質問に笑顔で応じた。

「もちろんです。我々は生きた人間と使える資器材を前提に行動をしなければなりません。」

 何時ものとおり、相手が何故かまた血圧を上げ始めている。

「…お前は、部下の遺体をどう思っている?」

 何時ものような質問だった。

「可能なら回収したいですが、優先順位は任務遂行の方が高いですね。」

 そう、自分も時間が有り余り、資機材に余裕があるならば部下の遺体を回収したい。だが、この呪われた地では、部下の遺体を回収するための人員資機材に余裕はない。自分は、自治都市軍に追い回されているときにそれを痛感し、その原則を守らなかったせいで貴重な部下を何人か喪った。

「そんなんじゃ駄目だ。」

「おっしゃるとおりです。次に余裕があれば、きちんと派遣します。」

 慇懃に同意する。何故か知らないが、いつもこれで相手は更に血圧を上げるのが常だった。

「お前!」

「…お話は以上でしょうか、休憩の時間もあと少ないので失礼します。」

 

「マチダ中尉、君、もう少し下士官出身の士官に上手く接しなさい。」

 応援要員の交代を告げられたのは、夕方のことだった。士官学校出身の分隊長が苦笑いを浮かべて説教する。分隊長は占領開始以来この星に赴任していた。

「はあ。何か意味不明に悪意を向けられたんです。」

「…まあそう言うな。だが、もう少し如才なく動くこと。警備実施で勢力が減るから、君にはその分しっかり働いて貰うよ。」

「ははっ。」

 ケンタは、敬礼し、答礼を待ってから回れ右をして分隊長室をでた。

 サトコちゃんからの連絡に気がついたのは、昼食を食べるタイミングだった。

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