桜の木の下で……(9)
[春美]:「……思い出した、何もかも」
[杏花]:「春美お兄ちゃん」
[春美]:「杏花……」
[杏花]:「やっぱり、記憶障害で思い出せなかったんだね……」
[春美]:「悪かった、今まで冷たくあたってしまって」
[杏花]:「ううん、仕方ないよ。むしろ謝らないといけないのは私のほう。ずっと、私のせいで苦しめてたんだから」
[春美]:「お前は何も悪くない。俺が、全部悪いんだ。許してくれ」
[杏花]:「最初から、私は怒ってなんかないよ。怒ってたんなら、こんな風にして出てこないもの」
[春美]:「……ありがとう」
[杏花]:「よかった、仲直りすることができて」
[春美]:「本当に、今まですまなかった」
[杏花]:「だからいいんだって。お兄ちゃん、気にしたら負けって言葉があるの知ってるでしょう? 今は正にそれだよ。私は気にしてないんだから、お兄ちゃんも気にしないの。いいね?」
[春美]:「あ、ああ。分かった……」
[杏花]:「はい、この話はおしまい。次に、今だからお兄ちゃんに聞いておきたいことがあります」
[春美]:「ああ、何だ?」
[杏花]:「お兄ちゃん、医者になる夢はあきらめちゃったの?」
[春美]:「あ……それは……」
[杏花]:「あの時私に言ってくれたことも、思い出してくれたんだよね?」
[春美]:「ああ。思い出したよ」
[杏花]:「だよね? じゃあ言ってみよう。お兄ちゃんの夢は何ですか?」
[春美]:「……医者になって、みんなの命を救うこと」
[杏花]:「そうよね。忘れてはいないよね? 前聞いたときは様子があれだったから聞けなかったけど、全てを思い出したのなら覚えてるよね? 私と交わした約束を」
[春美]:「ああ。覚えてるよ」
[杏花]:「ならよかった。……それで、まだその夢は追いかけてるの?」
[春美]:「…………」
春美、杏花から目を逸らす。




