桜の木の下で……(10)
[杏花]:「追いかけて、ない?」
[春美]:「たまに、それ関係の本は読んだりはしてるが……医学部に入ってない時点で、もう俺は……」
[杏花]:「無理なんじゃないかと?」
[春美]:「あ、ああ……」
杏花、春美の顔をのぞき込むようにして。
[杏花]:「何か、お兄ちゃんらしくないな~。医学部に入れなかったからあきらめちゃうなんて~」
[春美]:「それだけが理由じゃない。倍率とか、難易度とか、どれをとっても俺にくぐりぬけれるものじゃ……」
[杏花]:「それは、決定事項なの? 誰かにそう言われたものなの?」
[春美]:「そういうわけじゃないけど……」
[杏花]:「なら、まだまだ可能性は残ってるよ。お兄ちゃんなら、絶対に乗り越えられるはずだよ」
[春美]:「だ、だけど……」
[杏花]:「私、思うんだ。夢って、あきらめないで追いかけ続ければ、いつか叶うものなんじゃないかって。お兄ちゃんは、不屈の精神を持ってるから、きっと叶えられるはずだよ」
[春美]:「…………」
[杏花]:「どんな人生を歩んでもお兄ちゃんの自由だけど、夢をあきらめてしまうのは、お兄ちゃんらしくないって、私は思うな~」
[春美]:「……」
[杏花]:「ちょっと、考えてみてほしいな。お兄ちゃんの力は、こんなものじゃないはずだから」
[春美]:「……」
[杏花]:「大分、話が逸れちゃったね。この桜の木の話だったよね」
[春美]:「ああ、そうだったな」
[杏花]:「今だから言うけど、私が幽霊として戻ってきた理由は、お兄ちゃんを元気にさせるためだったんだけど、この桜が咲くところも見れたらなーって淡い期待は持ってたの。私が生きてる間、一度も花を咲かせなかったからね」
[春美]:「だから、お前はここにいたのか」
[杏花]:「そういうこと。こっちの世界にお邪魔してから毎日のようにこの桜の木を眺めてるんだけど、全然咲く気配はないよね…」
[春美]:「何か、解決方法はないのかな?」
[杏花]:「単純に考えれば、桜の花が咲けば、切られなくなるかもしれないよね」
[春美]:「そうだな。段階的な話なら……」
[杏花]:「それか、署名を集めて切られないように申請してみるか……それくらいかな。誰でも思いつくような方法で悪いけど、私の頭だと、これが限界」
[春美]:「いや、それが一番有効的な考え方だと思う。市のほうも本意ではないみたいだし、署名って手段は効果的なはずだ」
[杏花]:「本意じゃないのなら、しなければいいのにって思うけど、市を活性化するためには、仕方ないことなんだろうね」
[春美]:「そうだな。……とにかく、この桜の木が切られないように、俺にもできることがあることが分かっただけ収穫だ。ありがとう、杏花」
[杏花]:「いえいえ、どういたしまして」
[春美]:「なら、早速仲間を呼んで計画を……」
[杏花]:「お兄ちゃん、この木のためにアクションを起こそうとしてるの?」
[春美]:「ああ、そうだけど」
[杏花]:「そう…なんだ」
[春美]:「二十年近くも同じ時間を生きてきたからな。それに……お前も、この桜の木を守ることを望んでる。結局、杏花が望んでることは、俺の望みでもあるから、何とかしたいって思うんだ」
[杏花]:「お兄ちゃん」
[春美]:「これじゃあ、アクションを起こす理由として足りないか?」
杏花、首を横に振り、笑顔になって。




