桜の木の下で……(8)
[杏花]:「――お兄ちゃん、元気出して」
[春美]:「下手な同情はやめろ。余計に辛くなる」
[杏花]:「そんなにヘコむことないよ。今回はたまたま悪かっただけだと思うよ。きっと次は大丈夫だよ」
[春美]:「……その台詞は、もう聞き飽きた。やっぱり、俺なんかじゃダメなんだよ。俺なんかじゃ、夢は叶えられないんだよ」
[杏花]:「そ、そんなことないよ! どうしたの? 急にそんなこと言い出して……いつものお兄ちゃんらしくないよ」
[春美]:「お前はいいよな? 成績が悪くたって、特に何も言われないんだから。それを言われる俺の気持ちなんて、分かるわけない」
[杏花]:「そ、そんな……」
[春美]:「やっぱり、夢は夢なんだよ。簡単に叶えられるようなもんじゃないんだ。増して俺の夢なんて、叶えられる人は既に将来を約束された人だけ。俺は、そんな将来を約束されるような男じゃないんだ」
[杏花]:「か、叶えられないって決まったわけじゃないよ。そんなこと、言わないでよ」
[春美]:「……二言目には決まったわけじゃない、決まったわけじゃない、もう十分なんだよ!」
[杏花]:「…………っ!?」
杏花、ひどく驚く。
[春美]:「お前だって、本当は思ってるんだろ? 俺には医者にはなれないって、でも本当のことを言えないから、そうやって励まそうとするんだろ?」
[杏花]:「だ、誰もそんなこと言ってないよ! 私は本当に、お兄ちゃんならなれるって信じてるよ」
[春美]:「軽々しく、信じてるなんて口にするんじゃねぇよ。今の俺にとって、その言葉がどれだけ辛い言葉なのか分かってんのか」
[杏花]:「辛い、言葉?」
[春美]:「お前のその言葉は、俺を激しく苦しめるんだよ。自分の馬鹿さ加減が身に染みるんだよ。だから、軽々しく信じるなんて言うな! なれないもんはなれないんだよ!」
[杏花]:「そんな……まだまだチャンスは残ってるよ。だから、あきらめちゃダメだよ。春美お兄ちゃんなら、絶対に大丈夫だよ!」
[春美]:「まだそれを言うのか。俺のこと大して知りもしないくせに知った風な口を聞くな」
[杏花]:「知ってるよ、私、春美兄ちゃんのことなら何でも知ってるよ。どんなことがあってもあきらめない、どんな困難にぶつかっても立ち向かう勇敢なお兄ちゃんだって」
[春美]:「俺は、そんな男じゃない」
[杏花]:「卑屈になっちゃダメだよ!」
[春美]:「黙れ、お前に俺の気持ちなんて、分かられてたまるか」
[杏花]:「お兄ちゃん……」
[春美]:「もう、お前とは……絶交だ。二度と、俺の前に姿を見せんな」
[杏花]:「お、兄ちゃん……」
[春美]:「その数日後、杏花は交通事故に巻き込まれて亡くなった。二度と杏花と会えなくなった俺はその日からずっと、自分を責め続けた。責めて、責めて……責め抜いて……そして……」
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