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『ちゃんと愛してたのに』  作者: 設楽理沙


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12/13

12 ◇今までありがとう

12 ◇今までありがとう


 彼の気持ちは痛いほどわかるし──これで本当の意味で痛み分けになるなら臨むところだ。

ここのところの数回のデートで私はちゃんと彼に向き合ってきた。


 楽しい時間として過ごしてきた。


 だから、彼が憎しみを抱えて私と会っていたことはとても残念ではある。

 でもそこのところはしようがない。

 因果応報というヤツだ。


 私がいろいろな思いで考えを巡らせながら彼に対峙していると彼が言った。


「何、そのリアクション。俺が言ったことちゃんと聞こえた?」


 私は『うん』と頷いた。


「わかったから──。今までありがとう」


          ◇ ◇ ◇ ◇



 俺が今後もう会わないと、突然言ったのに、真理恵は驚いた様子も見せず

怒りもしない。


 悟った風な仙人のような僅かな笑みを浮かべているだけ。

 そして、おれに『ありがとう』と言う。


 俺はカッとなった。



          ◇ ◇ ◇ ◇



 私が『今までありがとう』と言うや否や、彼が動いた。

 どうやら私に近づくみたいだ。


 逃げる?


 身体は一歩も動かなかった。

 私はただ、瞼を閉じるしかなかった。







「これで禊は済ませた。俺はやっぱり真理恵が好きだ。俺と結婚して」


 私は彼に強く抱きしめられていた。


 彼は『もう会わないと』言い、その後で私にプロポーズしてきたのだった。


『私のしたことを許してくれるの?』なんてことは聞かない。

 許さなくてもいい。それでも私のことを好いてくれるのなら、それでいい。


 私は返事をした。


「うん。うれしい」




 秋色に染まったメタセコイアが空高くそびえ立ち、その梢は陽光を受けて黄金色にきらめいている。


 見上げれば、枝葉の隙間から覗く青空が鮮やかで、木漏れ日が揺れるたび、

森全体が柔らかな光に包まれる。

 

 真っすぐ続く並木道には静寂が満ちていた。

 その静けさが心に積もっていた重荷を少しずつほどいてくれるようだった。



 美しい紅葉のなか、私たちはしばらくベンチに座り静かな時を過ごした。

 もう言葉は余り必要なかった。





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