二十七話 それでもさらに上をいく
「まとめるわね」
私は頭痛を堪えながらとりあえず状況を整理しようと試みる。
「タカナの彼氏は現地組の転生者で前世の年齢も合わせると私たちより年上。タカナはそんな彼に心中を労わられて父性を感じて…………そしてそんな彼が小指をぶつけて悶絶した姿にぐっと来て恋心を覚えたと」
まとめていて私は頭が痛くなってきた…………我が友人ながらレベルが高すぎる。最初とし下に惹かれたと聞かされた時も実は父性を感じていたのだと聞かされた時も一応は納得できたが、そんな彼が苦痛に悶えた時に一番惹かれたのだと言われてどう反応すればいいのか。
「そんな顔しないでくれ、あの時は私もそんな自分に驚いた」
「そりゃそうでしょうよ」
ただ、多分マナカはすぐに冷静さを取り戻しただろうと私は思う。
「それで結局気持ちとしてはどれが一番大きいわけよ?」
容姿なのか父性なのか被逆心なのか。
「全部、だろうな。彼に父性を覚えたからこそその弱みにギャップを覚えたのだろうし、彼の容姿が年齢相応であったならそれを見てもお労しいとしか思えなかっただろう」
老人が痛みに悶絶しているのを見て喜んでいたらただのやばい人だ。それがまだ幼い少年であったからこそ可愛らしいと思えたのだろう…………いやそれも十分やばい人だと私は思うけれど。
「それでその後はあんたから言い寄ったわけ?」
「ああ、全力で口説いた」
「…………相手も困惑したでしょうね」
「それは仕方ないことだ」
タカナは否定しなかった。
「最初はずいぶんと躱されたよ。なにせ彼は人生経験豊富だから私の突飛な反応にも動揺せずに落ち着いて諭してきた」
話を聞く限りそのクリム御大は出来た人物のようだし。そりゃまあまずは諭そうとすることだろう…………どう考えてもタカナの行動は問題でしかない。
「それに彼は前世では結婚もして子供までいたそうだからね」
前世では結構な年齢という話だったからおかしくもない話ではある。しかしそうなると色々確認しておきたいこともあった。
「一応確認しておきたいんだけど、その彼の前世での死因って何だったの?」
「大往生だったそうだよ」
「…………それは羨ましい限りね」
私もそうであるしアキもそうだから、転生者は皆前世で不慮の死を遂げていると思ったがそうではないらしい。単純にあの時期に死んで転生する意思のある人間を選んだだけなのだろうか。
「そう言えばマナカの死因って…………聞いていい?」
すると少し躊躇いがちにアキが尋ねてくる。人の前世の死因を尋ねるなんて私を含めて失礼極まりない質問だけれど、アキのそれは周知になってしまっているしなんならタカナへと教えたのは私だ。彼を咎める権利はない。
「私はまあなんていうか普通よ…………交通事故」
こんな言い方をするのもなんだが、単なる不慮の事故だ。轢き殺してくれた相手には多少の恨みはあるが、こうして転生した状態にあるとそれも薄くなっている。
「私は病気だ。若年性の癌だった」
「そうだったの?」
「ああ」
思わず確認してしまった私にタカナは頷く。全くそういう話題がなかったわけではないが、死んだ仲間たちともあまり前世の死因について話すことはなかった。話して楽しい物でもないし何となくタブーの雰囲気があったのだ…………だからタカナの前世での死因も私は今初めて知った。
「この中だとアキが一番悲惨な死因ね」
別に順列を決めるわけではないが何となく口にする。アキの死も不慮のものではあるのだけど、他人の悪意…………いや好意か。ともあれ恣意的に殺されているという点では一番悲惨な死因になるだろう。
「マナカ、無神経だぞ」
「あ、ごめん」
「…………事実だし別にいいよ」
そう言ってはくれたもののアキの表情はよろしくない…………後できちんと謝罪して埋め合わせをしておこう。
「えーっと、それであんたは前世で満足して死んで…………いい意味で枯れた人をどうやって口説いて恋人にしたわけよ?」
とりあえず私は話題を本筋に戻して逸らした。
「どうやって、と言えば若さに任せた情熱としか言いようがないな」
「つまり全力で押したってわけ?」
「ああ」
頷くタカナに私は顔をしかめる。中身はともかくまだ幼い少年を全力で口説くタカナという絵面は、まだタカナの外見が成人手前であるという点を除いてもあまりよろしいものではないだろう。
それが連合本部の外に漏れることはないにしても、内部で噂になるだけでも大問題である。
「心配せずとも隠蔽は完璧にやっているよ」
「…………ならいいけど」
タカナが言うなら漏れはないのだろう。その点が信用できるのだけは救いだった。
「それで結局クリムはあんたの勢いに負けたってわけ?」
「そういうことになるな」
枯草に情熱で火を付けたと言うところだろうか。人生経験で負けている相手には下手に策を弄するよりも単純に攻めた方が有効だったのだろう。
「決め手としてはやはりあれだな、彼の今世での立ち位置を付けたことがうまく働いた」
「具体的には?」
「さっきも言ったが彼はこの世界の住人として生きることを決めていた」
「そう言っていたわね」
私たちと違って現地の人間から転生したクリムは、自分はこの世界の人間であるという認識の元に生きることに決めていたようだ。私たちの場合は前世からの人生の続きだが、クリムにとっては新しい人生なのだ。
「しかし彼は私の好意を断るのに前世での人間関係を用いていた」
「ああ、そういうこと」
「うむ、その矛盾を私は突いた」
この世界の人間として生き直すことを選びながら前世のことを理由に断っていては矛盾している。もちろん前世のことを完全に忘れろなんて言うのは無理な話だが、前世で妻帯者だったことを理由にこの世界での出会いを無碍にするのは道理に合わないだろう。
「そうしたら彼も呆気にとられたような顔を浮かべてね、それでいい具合に心境の変化が生まれたのか最終的には私の好意を受け入れてくれた…………もちろん恋人関係になるまでにはまだまだすり合わせが必要だったけれどね」
「そりゃそうでしょうよ」
二人の場合はただ恋人になりましたじゃすまない。その関係を隠すことも含めて話し合うべきことは多いだろう。
「そこから先は…………まあ、普通に恋人として過ごしていただけだよ」
特筆すべきものはなく現在に至る、ということらしい。
「こんなところだが、何か聞きたいことはあるかい?」
「とりあえず私は無いわ」
答えながらアキの方を見ると彼も首を振る…………アリサたちに関しては確認する必要はないだろう。聞くべきことは充分に効けたと私は思う。
そして改めて思うのはタカナのいくつもの性癖の重なり合ったクリムへの好意…………それをぶち抜くアキの魅力の異常さだった。
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