二十五話 意味のない後悔でもやめられない
幼児性というか、いい大人が赤ん坊のように異性に甘えるみたいな話を私も前世で聞かなかったわけではない。その異性が幼女であるようなシチュエーションも創作の中ではあったように思う…………しかしそれが男女逆転して親友の話として聞かせられるのはなかなか精神に来るものがある。
「そんな顔をするな…………だから話したくなかったんだ」
「…………そうでしょうね」
考えてみればマナカは自分からショタコンであることを私に明かした。それは私にアキを紹介させる理由付けでもあったのだろうけど、同時に本命を隠すためでもあったのだろう。
実際私は親友がショタコンだったという事実に衝撃を受けて、それ以上の追及はしなかった。
「そう言えば前世では父親はいなかったんだっけ」
「ああ、それに私はこんな性格だからな。頼るよりは頼られることが多かった…………別にそれが辛いと思ったことはなかったのだがな」
実際それは強がりでもなかったのだろうと思う。私の知る限りタカナはタフな女だった。どんな苦境にあっても弱音を吐かずやるべきことをやれる女だ…………ただ、それでも求めるものはあったのだろう。
自分の足でちゃんと立つことのできる人間でも、時には誰かの胸に頭を預けたくなるものだ。ましてや普段から頼られる側で弱みを見せられない人間ほど、頼れる相手を見つけた時の依存も大きくなるだろう。
「よりにもよって少年相手に父性を見出さなくてもいいでしょうが」
「仕方ないだろうが、胸に響いてしまったんだから」
「初対面の時では、ないのよね?」
「それはもちろんだ」
頷くマナカにほっとする。初対面で碌に話さないまま少年の外見の相手に父性を見出したとか言われたらレベルが高すぎて私にはついていけなかったところだ。
「念を押して行っておくが彼は精神年齢的には私たちより年上で人生経験も豊富だ。徒弟という扱いにしたから話す機会も多くて…………それでな」
「この人なら安心して身を任せられるって思っちゃったわけね」
「…………あの当時は私も精神的には不安定だったからな」
「あんたが?」
私は思わずマナカを見る。
「あのなあ、私だって鋼の精神を持っているわけじゃないんだぞ」
「あんたの精神の頑丈さはチタン合金くらいあると思ってたわよ」
それが私の正直な評価だった。
「…………私だってへこむ時くらいあるぞ」
「いつよ」
「見送った仲間たちがお前を除いて皆死んだ時だ」
「あー…………」
しまった、完全に地雷を踏み抜いた。
「お前があれだけ気落ちしたんだ、私も同様に気落ちするのは当然のことだろう?」
「まあ、それはそうね…………」
アキに会う前の自分を思い返せばそれ以上何も言えなかった。
「でもあんたそんな態度おくびも出さなかったじゃない」
「あれだけへこんでいる当事者のお前の前で、そんな態度できるはずがないだろう」
それはその通りだった。もしもあの当時の私にタカナがそんな態度を見せていたら私は恐らく彼女をなじっただろう…………お前は魔王討伐に来なかったくせに、と。
「私も行くべきだった…………行かなくともせめて私の力で皆の安全を確認するべきだったと後悔している」
「…………それを止めたのは私達全員よ」
タカナは魔法使いとしての戦力としても大きいが、何よりもそのチート能力を活用した後方管理がもっとも適正として大きかった。だから魔王討伐へ同行しようとする彼女を私たちは全員で止めたのだ。
「第一私たちの安否なんて知ろうとしたあんた死んでたでしょ」
タカナの力はノーリスクではなく対象の正しさの判定に必要な情報を全て自身に集めてしまうというリスクがある…………下手をすればその処理に脳が耐えきれずに死ぬのだ。
だから私たちは人の生死に関わるような判定をタカナにはさせないようにしていたんのだ。
確かに誰かが死ぬことを想定してそれが正しいかを判断すれば、実質未来予知のような使い方をタカナのチート能力はできる。しかしその判定には様々な可能性を網羅するための膨大な情報を必要とし、タカナへの負担は非常の大きなものとなるのは明らかだった…………下手をすれば誰か一人の判定を行うだけでも死にかねないと私たちは判断したのだ。
「私一人が死んで済む方が犠牲は少ない」
「私たち全員とは言わないけど、あんた一人が死ぬだけでも大損害でしょうが」
魔王討伐に参加した私たちは戦力としては大きかったが、逆に言えばその価値は戦力にしかなかったともいえる。
私たちはそれぞれ個性的なチート能力を持ってはいたが戦力として見るのなら代わりの補充ができないものではなかったのだ…………しかしタカナは違う。単純な比較ができるものではないとはいえ、それでも私たち半数分くらいの価値はあった。
「それに、死ぬ人間がわかってたら魔王討伐なんて行けるわけないじゃない」
あの時の私たちには魔王討伐に行く選択肢しかなかったのだ。私たちも頑張ってはいたが所詮は個の戦力。戦線全体では徐々に押されておりやがてじり貧になるのが見えていた。
だからこそ少数の精鋭による敵の総大将の暗殺という賭けに出たのだ。
けれどその結果が事前にわかってしまってたとしたらどうだろう?
私以外の全員が死ぬとわかっていたら?
誰だって自分が死ぬとわかっていて行きたくはないだろう。だからといって死なないとわかった私だけが行くことになれば私が死ぬだけだ。タカナの判定は私たち全員で魔王討伐に行った際の判定なのだから、条件が変われば結果も変わる。
つまるところあの時タカナにその判定をさせたところで、彼女が死ぬリスクと引き換えに私たちの決意が鈍るというデメリットしかもたらさなかったはずなのだ。
「だからあんたが気にすることなんてないのよ」
タカナに責任は何もない…………それは私と死んでいった仲間たちの総意だ。むしろ彼女が後ろに控えてくれていたからこそ私たちは安心して死地へ挑めたのだから。
「ならそれはそのまま君に返そう」
一息吐いて、タカナは私を見つめて言う。
「ただ一人生き残ったからといって、君が死んだ彼らの責任を負う必要はない」
「…………」
流石は私の親友。的確に反撃してくる。
「君が魔王を討つことを諦めていないのは、その負う必要のない責任を負ってしまっているからじゃないのかい?」
「…………その通りよ」
私は認める他ない。アキとの出会いで私の精神は持ち直したが、それで別に私の中の魔王に対する憎悪が消えたわけではない。生き残った私には死んでしまった仲間たちの代わりに魔王討伐を果たす義務がある…………彼らは望まないだろうけど、それを果たさない限り私は本当の意味で前には進めないのだ。
「それと同じだよ」
端的にタカナが言う。
「この点での言い争いは不毛のようね」
私はそれを認めて息を吐く。私が自分の感情を棚上げできない以上、それをタカナにも強要することはできない。
「…………二人とも諦めるっていうのは?」
「「それはない」」
別に本気で言ったわけではないだろう。ただ黙ってもいられなかったアキへと私たちは同時に否定を口にする…………例えその方が幸せな道に近いのだとしても、私たちは諦めることだけは出来ないのだ。
「話を戻しましょうか」
アキもそれで押し黙ったようだったので私はそう口にする。
「横道に逸らしたのは君だろうが」
「だから私が戻してるんじゃない」
うん、正しい。
「…………概ね話しただろう」
「まだ全然よ」
そう、まだまだ全然だった。
「だってあんた、まだ全然惚気てないじゃない」
それこそが今日の主目的なのだ。
話させないままで終わるわけがなかった。
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