二十四話 性癖は重複するもの
「これは言い訳のつもりではないが、私は別にクリムに一目惚れしたわけではない…………もちろんその外見に戸惑いはしたがな。だが誰だって魔王と戦う最前線の戦場にあの年頃の少年が参加したいと言い出せば戸惑いはするはずだ」
「まー、そりゃそうでしょうね」
タカナの言にマナカが同意する。僕らで置き換えてみればアリサがいきなり魔王との戦いに行きたいと言い出すようなものだ。まともな良識があれば動揺するし止めようと考えるに決まっている。
「だが彼はただの少年ではなく転生者だった。普通ならそんな子供が志願してきても門前払いにするところだが、戦力の再編に備えて私たち以外の転生者の存在も連合軍の内部では周知させ始めていたからな。それで私の所まで話が来て直接面談を行うことになった」
マナカたちの話によれば僕らのような直接転生組と違い、こちらの世界で生まれ直した現地転生組に関しては情報を公開していなかったのだという。それは直接転生組もそういう可能性を神様から提示されたというだけで、その選択肢を実際に選んだ転生者がいるかどうかを直接確認できていなかったこともある。
それに彼らがまだ生まれただけのような時期にその話が広まれば間違いなく迷惑になるのは明らかだった。下手をすればその時期に生まれた赤子は将来に有力な戦力となる転生者の可能性があるからと、権力者だけではなく敵側の魔族にだって狙われる可能性だって出てくるのだ。
だから直接転生組は現地転生を選んだ者たちが存在する可能性があると自分たちでは共有しながらもそれを周知はさせなかった。しかし魔王討伐で主だった戦力であった転生者が全滅してしまったことでやむを得ず情報を解禁し、将来の戦力となりうる現地転生組の情報を集め始めていたらしい。そこにクリムはやって来たようだった。
「正直に言えばあちらかやって来るのは想定外だった。出来るだけ現地転生組の情報を一般には明かさず彼らを見つけるのにどういう方法があるかを模索していた時だったからな」
もちろん一般に周知させて探すのが一番早いが、それはやはりリスクが大きい。穏便に彼らを見つける算段を話し合っていたところにいきなりクリムはやって来たらしい。
「当然というか彼の連合軍への参加を最初は反対した。いくら転生者であろうとも現在の年齢が幼いのは事実だからな。現地転生組の捜索を話し合ってはいたが、それはあくまで将来的な戦力として確保するためであっていきなり戦力に組み込むつもりはなかった」
もちろん状況によるだろうけど、幸いにして現状戦線は膠着状態で彼らが成長する時間を待つ余裕はあったのだ。
「別に戦場に出さなくても所属させて訓練させておけばよかったんじゃない?」
「もちろんそういう案は出たが目立つからな」
正規兵の中に子供が混じっていればそれは目立つことだろう。そしてそれに対して何故と疑問を持たれればそこから現地転生組の存在が発覚してしまう可能性はある。もちろん連合軍だって情報統制はするだろうけれど、人の多く集まる場所では発覚のリスクが常に存在してしまうものだ。
「ならアリサみたいに自分の徒弟って扱いにすればいいじゃない」
「ああ、まさにそういう提案を当人からされた」
どうやらその展開はクリムにとって想定内のものであったらしい。
「私としては現地転生組の受け入れ態勢…………彼らをひとまとめに隠して訓練できるような場所を確保するまでは、いかなる形であれ転生者を受け入れるつもりはなかった。魔族から転生者の存在が警戒されていることを考えればそれくらい慎重な方がいいと思っていたからな」
「でも最終的には受け入れたのよね」
「彼の熱意に負けた形になる」
それくらいクリムはタカナへと自身の参戦を訴えたということなのだろう。
「そこからは彼の護衛も兼ねて常に行動を共にすることとなった」
「…………それで惚れちゃったわけ?」
「そういうことになる」
頷くタカナの頬は赤くなっていた。
「自分でも戸惑ったものだ…………まさか自分にこんな性癖が隠れているとはな」
「そりゃそうでしょうよ」
呆れるようにマナカはタカナを見る。なにせ相手はまだ幼い少年だ。いくら転生者であるとしてもその外見が大きな足かせになる…………そういう性癖でもない限り恋愛対象には思えないだろう。
「勘違いを正しておくがクリムの外見に惚れたというのは方便だ…………いやもちろんそこに惹かれた部分がなかったと言われればゼロではないのは認める。なにせ彼は誰もが振り返るような美少年だったし半ズボンがよく似合う男だったからな」
「あんた否定するつもりあるの?」
僕らからすればド直球にそういう性癖があるようにしか聞こえない。
「外見じゃないならどこに惚れたのよ」
一応言い分を聞くつもりなのかマナカは尋ねた。
「ありきたりになるが内面ということになる」
「まあ、他に言いようは無いわよね」
それはある意味万能の答えだった。
「子供みたいな言い訳だね!」
「実際その通りではあるが子供に言われると流石にへこみそうだ」
不意に無邪気な感想を挟んだアリサに、タカナはダメージを受けたように眉をしかめる。
「あんたは黙っているだけでいいって言ったわよね?」
「ごめんなさーい。静かにしてます」
睨むマナカにアリサは白々しく反省したような仕草を見せる。彼女は悪戯っ子というかマナカに対する反骨精神が強いので隙あらばこういう態度を見せる。隣にイリーナもいるし、こういう場では強く自分を叱って時間を使えないことも見越しているのだろう。
「マナカ、いい。事実であるのは確かだ」
「…………後でしめるからね」
当人がいいと言うならこれ以上ここで責めることはしないが、マナカもそれで忘れてやるつもりはさらさらないようだった。
「それで話を戻すが…………つまるところさっきも言った私の性癖の話だ」
「それ友人としてはあんまり何度も聞きたくない単語なんだけど」
「私だって言っていて恥ずかしくないわけじゃないぞ?」
まあ友人同士であれば絶対にしないという会話ではないだろうが、こういう場で話すべきでない話題なのは確かだろう。
「あんたがショタコンだっていうのはもう十分理解してるわよ」
「だから、それが違うといっている」
え、違うの。
それは多分僕だけではなくこの場の全員が思ったことだろう。
「あんたが自分でそう言ったんじゃなかったかしら?」
「だからそれは方便のようなものだったと言ったはずだ…………そうでもなければ君もすんなりとアキと私を会わせなかっただろう」
「そうね、結局は会わせたことが間違いだったわけだけど」
マナカの目が冷ややかなのは結果としてこんな有様になっているからだ。
「そのことに関しては私も謝罪する…………君の物言いを甘く見ていたのは確かだ。しかし私のその性癖にしたってアキには当て嵌まっていないと思うんだよ」
結局はそれと関係ないところで僕に惹かれてしまったのだとタカナは言う。
「具体的にどんな性癖なわけよ」
半ばもう面倒そうにマナカが尋ねる。この話題を長々と続けさせたくないという気持ちが見えるようだった。
「ファザコンだ」
「はあ?」
「だからファザコンだといっている」
繰り返しタカナが口にする。
「ええとつまり…………あんたはその外見がまだ幼い少年の相手に父性を感じたってわけ?」
「そういうことになる」
タカナは迷うそぶりもなく頷いた。
レベルが高すぎる…………多分僕とマナカは同じ思いだっただろう。
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