その後 1.二人
母の生まれた村は、始終、花の香りがした。
どこを歩いていても、何かしらの香りがする。
砂浜を歩きながら、何処までも続く水平線を見つめた。海原は昼過ぎの日射しに、キラキラ輝く。
「…海って、広いなぁ」
同じ様に海に目を向けたアスールが、大きく伸びをしてそう口にした。
「そうだな…」
母の親族には会えた。息子だと名乗ると、とても喜び歓迎してくれた。トエルノからは遠い。田舎の噂話など、王都へ届くはずもない。
「なぁ、もうちょっとゆっくりしたらさ。──戻るだろ?」
「なんだ。もう飽きたのか?」
「違うよ。ただ、さっき酒場で嫌な噂を聞いたから…」
村の酒場で船乗りの男が、外海に面する国が、トエルノを狙っているらしいと話しているのを耳にしたのだ。
それで、今までののんびりとした空気が、いっぺんに飛び去ったらしい。
「勿論、帰る。ここでのんびりしすぎて、帰ったらトエルノがなくなっていたのでは笑えないからな」
「俺達だけじゃ、どうにもできないかもしれないけど、何かはしたいから…」
「分かってる。ここを出る前にあの船乗りの男に詳しく話を聞こう。港に住む連中なら、もっと違う情報を持っているかもしれない」
「ありがとう。カリマ…」
「約束だからな? セリオンを守るためだ」
アスールは笑うと、
「…カリマ。大好きだ」
そう言って、カリマに抱きついてきた。砂浜には二人きり。カリマもそっとその背に腕を廻すと、
「お前の頼みは拒めない。──好きだ。アスール」
「うん…」
照れ臭そうに笑んだアスールは、伸びをしてカリマにキスをする。
甘い花の香りが、鼻先を掠めて行った。
ー了ー




