↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDGE ―光と闇の約束―  作者: 岩梨
第六章 癒しの代償
83/91

82. ゼロとルディナスの契約


 伝声水晶が再び光った時、ルディナスはまだ執務室にいた。



 開いた蓋の内側に、淡い緑色の光が浮かぶ。呼び出してきた相手を確かめ、椅子へ座り直した。



「頼まれたものは渡した。これで異論はないだろう」



 低い声が聞こえた。


 ゼロには、対になる伝声水晶を二つ持たせていた。


 一つをカインたちへ渡し、途絶えていた連絡を繋ぎ直す。それが、ルディナスから頼んだことだった。


「ありがとう。久しぶりに皆の声も聞けたし、安心したわ」


 笑い声の絶えない通信だった。カインは相変わらず口が悪く、フェイはそれをからかい、リシェイも元気そうだった。


 その傍らに、ゼロもいた。


 彼らへ追いついたのは偶然ではない。道中で仕事をこなしながら、その足取りを追っていたことも、ルディナスは承知していた。


 それでも、実際に顔を合わせればと思っていた。

 ともに暮らし、剣を教え、仕事を任せてきた相手だ。離れて報告を受けるのと、その声を聞き、目の前に立つのとでは違うかもしれない。


「……それで、これからどうするの?」


 短い沈黙の後、ゼロが答えた。


「そろそろ奴も痺れを切らすはずだ。動きがあるまで、現状の監視を続ける」


 予想していた返事だった。

 それでも、胸の奥が冷えた。


「どうしても、続けるのね」

「そのために来た」

「……まだ、あの人のことで貴方は――」

「俺の意思だ」


 遮る声に、迷いはなかった。


「デュロアルに加わる際の条件を、忘れたわけではないだろう」


 忘れるはずがなかった。


 復讐に必要なことには協力する。そう約束しなければ、彼を引き止められなかった。


 九年前、無謀に向かっていけば、今度こそ命を落とすと思った。手の届くところに留めるために交わした契約が、今は、自分の手まで縛っている。


「……貴方は馬鹿よ。本当に、どうしようもない馬鹿」


 声が震えた。

 抑えようとするほど、喉が強張った。


「貴方のしようとしていることを、正しいとは思わない。どれだけ理由があっても、馬鹿げた自己満足だと思っているわ」

「承知している」


 怒りも反論も返ってこなかった。


「何を犠牲にすることになっても、俺は目的を果たす」

「仲間を傷つけることになっても?」


 返事を待つ間、机の縁へ置いた指に力がこもった。


「カインたちに会ったでしょう。あの子たちが、貴方を見てどれだけ――」

「真実を聞き出し、奴を討つ。そのために、あいつらには餌になってもらう」


 机を叩いて立ち上がっていた。



「ヒュウキ!!」



 大きな声が、静かな部屋へ響いた。


 カインたちの動向を教えたのは自分だ。助けるためだけに追うのではないと、分かっていた。それでも、あの子たちを可愛がっていた彼なら、会えば踏みとどまるかもしれないと思った。

 危険を前にすれば、身体が動くのではないかと。


 その期待を、彼はたった一言で断ち切った。



「……悪いとは思っている」



 絞り出すような声だった。


 何も感じていないわけではない。そのことが、かえってルディナスを苦しくさせた。


「悪いと思うなら、やめて。あの子たちは貴方を信じているのよ」

「俺が奴の前へ差し出すわけではない」

「襲われるのを待つのでしょう? 貴方の望む機会が来るまで、助けずに」


 沈黙が落ちた。


 否定してほしかった。そこまで見捨てるつもりはないと、いつもの不機嫌な声で言い返してほしかった。


「……目的を果たした後、できる限り救助はする」

「その時まで、皆が無事でいる保証は?」

「ない」


 ルディナスは唇を噛んだ。


「あの娘がどうなるかだけは、俺にも分かりかねる」


 先ほど聞いた、レミの声が蘇った。


 早く旅を終わらせ、皆がいつも通りの生活へ戻れるように頑張る。そう言っていた少女を、彼は同じ場所で見ていたはずだった。


 助けられないかもしれないと理解した上で、それでも待つというのか。


「貴方……本当に、それで……」


 言葉が続かなかった。


 止める言葉なら、幾度も尽くしてきた。怒りも、懇願も、彼は聞いた上でここにいる。


「……悪いな」


 低い声が聞こえた。



 直後、魔水晶の光が消えた。




 ルディナスはしばらく立ち尽くし、やがて、ゆっくりと椅子へ座った。


 契約を結んだ日から、こうなる可能性はあった。それでも、デュロアルで過ごした年月が、彼の中に別のものを育ててくれると願っていた。


 育たなかったわけではないのだろう。

 ただ、それを後回しにできてしまう。


 閉じた伝声水晶を握ると、冷たい縁が掌へ食い込んだ。ゼロを失わせまいとした自分の選択が、今度は、ほかの者を失うことへ繋がろうとしている。


 ルディナスは顔を上げた。


 カインたちは次の村を経て、オルケルグシティへ向かう。

 

 人も情報も集まる街で、ライフェンがどう動き、ゼロがいつ動こうとするのか。

 もう、彼一人の判断に預けておくことはできなかった。



 机へ伝声水晶を置き、傍らの地図を引き寄せる。


 十一年前、何が起きたのか。その全てを、ルディナスも知っているわけではない。けれど、あの日を境に立ち止まったままの男が、今、何をしようとしているのかは分かっていた。



 レミが研究所を脱したことで、長く膠着していた状況は変わった。彼女を追う者も、その動きを待ち続けていた者も、既に動き始めている。


 十一年前から続くものに、今度こそ終わりをもたらせるのか。



 ルディナスは地図へ目を落とした。



 その答えを、ただ待つつもりはなかった。




これにて6章終了です。

読んでいただき、ありがとうございます!


キャラや用語で確認したい事があれば、活動報告の記事をご参照ください。


それぞれの思惑やカインとレミの関係の進展を引き続き見守っていただければ嬉しいです。


ちょっとずつ以前の話の伏線回収や、これから起こる事についても要所に散りばめてます。

7章もお付き合いいただければ幸いです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。