↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDGE ―光と闇の約束―  作者: 岩梨
第六章 癒しの代償
74/83

73. 俺を選んで


 レミは微塵の躊躇もなく言い切った。


 フェイもリシェイも「えっ?」と目を丸くして固まった。

 カインも表情だけはどうにか取り繕っていたが、胸の内側では、足場を失ったような絶望が一気に広がっていた。



 ──マジかよ。



 『あり得ない』

 しかも、そんなに迷いなく即答するか?



 ほんの少しくらい、期待してもいいのではないか。

 自分が彼女にとって、他の仲間とは違う存在になれる可能性があるのではないか。


 そんな淡い夢を見ていた自分が、ひどく惨めだった。



 レミが自分を肯定してくれたことも、褒めてくれたことも、結局は「私以外の誰かと幸せになってね」という意味だったのか。

 自分は、別の誰かへ送り出されるだけの存在なのか。


 他のどんな女性に好かれようが、どうでもいい。

 レミにそう思ってもらえなければ、世界中のすべてから愛されたとしても、何の意味もなかった。



 肩を落としたカインの耳に、レミの口から思いもよらない言葉が飛び込んできた。



「だってカインは、私が相手じゃ嫌なんだもの。無理だよ」



「「「はぁぁぁぁぁッ!?」」」



 珍しく三人の声が、完璧に重なった。



 カインがレミを嫌がる?

 どうしてそうなる。


 むしろカインの頭の中には、レミ以外の選択肢など一ミリも存在しない。彼女以外の誰かを思い浮かべようとしても、そこにはいつもレミの顔が浮かぶというのに。


「ち、ちょっと待て! どういう意味だそれ!?」

「えっ? 教会で訊いたでしょ?」

「え……!? あ、ああ……!?」



 必死に記憶を手繰り寄せると、ある日の出来事を思い出した。



 光神ハーヴェルを祀る教会で、救済の聖地へ行く以外に幸せになる道はないかと話した、あの時だ。



 好きな相手と結婚する幸せもあるのではないかと、ものの例えで言うと、レミは「カイン、私をもらってくれる?」と、冗談めかして訊いてきた。

 なのに、自分の気持ちを認めるのが怖くて、「やめとけ」と突き放してしまった。

 更には「他の男にしておけ」とまで言った。


 とんでもない過ちに一気に冷や汗が流れる。



「あの時、カインすごく困っていたでしょう? 好きな人がいるってことは、私じゃ嫌なんだなって思って」


「嫌だなんて、一言も言ってねぇだろ!?」



 思わず声が裏返った。



 誰が他の女なんて好きになるものか。

 あの時は、自分の中から溢れ出した感情を認めたくなくて、言葉を濁しただけだ。


 なのに、その曖昧な返事が、レミの中でははっきりした拒絶になっていた。



 まずい。



 自分の所業が、今になって特大のブーメランになって返ってくるとは思わなかった。

 自分で突き放したせいで、レミは自分を選択肢から外している。


 まだ何も始まっていない。

 それどころか、始めるための入口にすら立てていない。むしろ閉め出しをくらい、立たされているのは窮地だと理解した。


「そうじゃねぇよ! 俺は……っ!」

「え……?」

「あの時の答えの訂正!」


 この誤解を解かなければならない。そうしなければレミの中で、自分は「嫌がる相手」として固定されてしまう。


 ほとんど告白兼プロポーズのような言葉になる。言った瞬間、彼女の顔から笑顔が消えるかもしれない。

 それでも今ここで言わなければ、入口は永遠に閉ざされることだけは避けねばならない。


 カインは、逃げ道を捨てるように腹を括った。



「レミが俺を選んでくれるなら、俺は絶対にお前を世界一幸せにする! 他の奴なんて選択肢に入れるんじゃねえよ!」



 一気に言い終えた途端、胸の奥が大きく跳ねた。

 心臓が狂ったように打ち鳴らされ、耳の奥まで鼓動が響いている。


 怖くて、レミの顔をまともに見られない。

 拒絶されたらどうする。

 困ったように笑われたら。


 それでも、もう引っ込めることはできなかった。



 傍で見守るフェイとリシェイは、興味津々に身を乗り出して二人を交互に見つめている。

 他人の恋となると、実に気楽な野次馬だった。



「じゃあ、カインが私を選んでくれたら、私はカインが幸せになれるように、精一杯頑張るね」



 レミの返答は、あまりにも柔らかかった。


 フェイとリシェイが、そろって固まる。

 カインも、しばらく息をするのを忘れた。


 拒絶ではない。

 けれど、求めていた答えとも違う。


 ……これは、了承ということなのだろうか?



 期待していいのか。

 それとも、また自分だけが都合よく受け取ろうとしているのか。



「マ……マジで……!?」


 確かめずにはいられなかった。


 カインは思わず、レミの華奢な両肩を力任せに掴んでいた。

 レミの青い瞳が驚きに見開かれる。やがて目を細め、愛おしそうに微笑んだ。


「うん! カインのお嫁さん候補の片隅に置いてくれるなんて、すごく嬉しいな。……でも、私のことは気にしなくていいからね?」

「いや……片隅じゃなくてだな……」

「本番で、その好きな女の人?に告白する時、頑張ってね」


「……はぁぁぁぁぁ……」


 カインはその場にガックリと崩れ落ちた。



 違う。

 そうじゃない。



 自分が言っている「好きな女」は、目の前にいるレミのことだ。

 世界一幸せにしたい相手も、他の奴なんて選ぶなと言いたい相手も、最初から彼女しかいない。


 なのに、レミは自分を応援している。

 自分ではない誰かに告白するために、頑張れと微笑んでいる。


 候補には入れたらしい。

 だが、その相手が自分自身だとは、まだ夢にも思わないようだった。


 フェイとリシェイが、ポンと彼の肩に手を置いた。


「……ドンマイ、頑張れヨ……」

「……不憫すぎて涙出てきたよ……」

「……そりゃどうも……」


 投げやりに返しながらも、カインは拳を握った。


 ここで諦めたら、本当に終わる。

 レミが恋という概念を知らないなら、これから知ってもらえばいい。

 自分が彼女にとって何なのか分からないなら、分かるまで傍にいる。


 恋という概念そのものを知らない彼女に、この想いが届く日は来るのだろうか。

 しかも、自分たちには聖地行きというタイムリミットまである。


 ライフェン博士との宿怨を解決し、彼女が聖地へ行かずに済む道を見つけ、愛の意味を理解してもらう――難題は山積みだった。


 それでも、諦める気なんてなかった。

 聖地行きの問題を解決して正式に告白したとして、振られたって諦めない。


 何度拒まれても、彼女が自分を恋愛対象として見られなくても、絶対に振り向かせてみせる。


 カインは、胸の奥に残った痛みごと、強く抱きしめるように決意した。



 少し拗ねてそっぽを向くカインの横顔を、レミは愛おしそうに見つめていた。

 膝の上で小さな手を組み、レミは自分でも分からない感情を、ゆっくりと言葉にした。


「……どんな風に感じたら、自分の『一番』になるのか……私にはまだ分からないけれど……」



 カインに、そんなにも深く想われる女の人は、本当に幸せな人なのだろう。

 羨ましいと思う。



 その羨ましさが、なぜ自分の胸に生まれたのか。

 レミ自身にも、まだ分からなかった。


 ただ、カインが誰かを想って苦しそうにしているのを見ると、胸の奥が少しだけざわめいた。


 レミはその感情に名前をつけることなく、そっと胸の内へしまい込んだ。



続きは夕方ごろ更新します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。