5. 帰りを待つ仲間たち
一方、遠く離れたセンティアル大陸――人材派遣組織『デュロアル』の拠点では今日も大きな声が響き渡っていた。
「ねえウィリス、もう良いじゃん! こんな勉強しなくってもさぁ〜」
四方を本棚に囲まれた部屋の真ん中で、リシェイは課題の本を放り出して大の字に寝転がった。短い赤茶の髪を揺らし、活発そうな顔をあからさまに歪めている。
「いけませんよ、リシェイ。本は大切に」
ウィリスは苦笑しながら本を拾い上げ、表紙の埃を払った。柔らかい薄墨色の髪に、若草色の瞳。怒鳴ることのない穏やかな彼に、リシェイはよく懐いていた。その気安さからか、勉強中もつい甘えが出てしまう。
「知らぬことで命を落とすこともあります。特に、僕たちの仕事ではね。ルディナスさんが君に学ばせようとしているのは、それだけ期待しているからですよ」
「う……ちぇ~、分かったよぉ」
にっこりと爽やかな圧をかけられ、リシェイは素直に降参して課題本を開き直した。
――リィン……リィン……。
静寂を破り、仕事机の上に置かれた『伝声機』の台座で、魔水晶が淡く青白い光を明滅させた。ウィリスは受話器を持ち上げる。
「はい、ウィリス=サクヤです」
「あっ、ウィリスさん!? 私、メルです!」
受話器の向こうから、切羽詰まった少女──メルの声が飛び込んできた。
「カインさんたちが乗る予定の船は、もう着いてるんです。でも、お姿がなくて……。リーンからの便は、今日はあと一本しかないそうです。そちらに連絡は入ってませんか?」
「……港で待機してください。無理に動いてはいけませんよ」
ウィリスは優しく宥めて通信を終えると、小さくため息をついた。
ルディナスを筆頭に、腕利きの何でも屋として名を馳せつつあるデュロアルだが、主要な面子のスケジュールの管理を一手に担うウィリスにとって、現場のトラブルは一番の頭痛の種だった。
「メル、どうしたって~?」
「……カインが何かやらかしたようですね。帰還の時間を過ぎても、港に現れないそうです」
「あはっ! やっぱりあの依頼人、怪しいと思ったんだよ〜! 前もゼロがすっごい不機嫌になって帰ってきたもんね!」
「笑い事ではありませんよ。あちらの大陸とは、通常の伝声機では連絡の取りようがないんですから……」
ウィリスは眉間を押さえ、困ったように思案する。
遠く離れた異国で、今は仲間が無事であることを祈るしかなかった。




