↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDGE ―光と闇の約束―  作者: 岩梨
第四章 交錯する宿命
41/91

40. 蜂蜜色の髪の旅人


 癪ではあったが、カインの泥臭くも切実な本気が、偏屈な老婆の胸をわずかに打ったのだ。



 二人は跳ね起きると、心からの感謝を込めて深々と頭を下げた。


 これでようやくレミを救うことができると、安堵の表情を浮かべた。

 ……だが、当の魔工師は困ったように首を捻り始めた。


「って言ってもねぇ。肝心の材料がどこに生えているのやら……」

「はい?」

「森に生えてることくらいは分かってるし、現物を見れば判別はつくよ。でもねぇ、場所を特定できてるわけじゃないんだ。さっきも言ったろう? 需要がないから取りに行かないってね」



 すぐに薬を作ってもらえると思っていたリシェイが、素っ頓狂な悲鳴を上げた。


「えぇぇ~っ!? じゃあどうすればいいの! あんな広い森をしらみつぶしに探してたら、レミの時間がなくなっちゃうよ!」

「それにねぇ、冗談じゃなくて本当に腰の調子が悪いんだよ。長時間歩くなんて御免だね。……もし『解毒水晶』の群生地まで分かってるってんなら、連れて行ってもらって鑑別してやってもいいんだがねぇ。……そうでなきゃ、先にアタシがくたばっちまうよ」


 今度の言葉には嘘偽りがないことは分かった。

 だが、どちらにせよ完全に行き詰まってしまったことに変わりはない。


 カインは苛立ちのままに自分の頭を激しく掻き毟った。


「くそっ……! ここまで来て八方塞がりかよ!」


 リシェイもどうすればいいのか分からず、俯いてしまった。



 その時、魔工師の老婆が何かをふっと思い出したように、手をポンと打った。



「そういえば……あのお方なら、ご存知かもしれないねぇ!」



 二人は老婆の言葉に弾かれたように顔を上げ、すかさず身を乗り出した。


 まだ希望があるというのか。一縷の望みでもあるなら何にだって縋り付きたい。

 老婆の肩を掴む勢いで迫った。


「『あのお方』って誰だ!? 地理を知ってる奴がいるのか?」

「確証はないけどねぇ」

「もう時間がない。打てる手は全部打ちたいんだ! 教えてくれ!」


「それじゃあ……」と老婆はゴホンと咳払いをし、二人は生唾を飲み込んで次の言葉を待った。

 すると老婆は、うっとりとした表情で遠くを見つめ、お世辞にも甘いとは言えない不気味な声で語り始めた。



「そう……あれは突然の出会いだったねぇ……。高貴なあのお方との、愛のめもりある……」



 その空気感から、無駄に長いノスタルジーが始まることを察知した二人は、青ざめて叫んだ。


「あんたの愛のメモリアルを全部聞いてる時間はねぇんだ。手短に話してくれ!」

「ショートカットで〜〜〜!!」


 焦り狂う二人を見て「せっかちなガキどもだねぇ」と溜息をついた老婆は、要点だけを口にしてくれた。


「以前、魔水晶のストックが切れかけた時にね、私も重い腰を上げて森へ入ったんだよ。でも久しぶりだったもんだから、場所を忘れてしまってねぇ。魔物に襲われそうになり動けなくなっていたところを……」


 身振り手振りを交えて語る老婆に、二人はイライラと足を踏み鳴らす。


「あのお方が、倒れていた私を鮮やかに救い出してくださったのさ! あのお気高く麗しいお姿は忘れられないねぇ……」

「……で、その人と魔水晶に何の関係があるんだ!?」

「最後まで聞きッ! ……群生地の場所を忘れたと言ったら、あのお方が正確な場所を教えてくださったのさ。森の地理にも詳しく、戦闘も魔水晶の知識もずば抜けて長けた御人だったよ」

「よし、そいつに聞こう! で、その人はどこにいるんだ!?」

「旅の途中で一昨日着いたと言っていたからねぇ。まだこの街の近隣には留まっていると思うんだが……」


 魔工師は言葉を途中で切ると、何やら不気味な笑みを浮かべた。


「もしその魔水晶と一緒にあのお方をここに連れてきてくれたら、薬の精製代金はタダにしてあげるよ。運命の再会……胸がときめくねぇ」


「その条件、乗った!」と即答すると、老婆は満足そうにその人物の特徴を教えてくれた。



 得た情報を頼りに、カインとリシェイは跳び出すように街の雑踏へ駆け出していった。



 ***



「ねぇカイン。その人、どこにいると思う!?」


 大通りを走りながら、リシェイが隣を並走するカインへ問いかけた。己の長年の放浪経験から推測し、カインは素早く思考を巡らせる。


「放浪の旅をしていて、腕の立つファイターだってんなら……向かう先は宿か、ギルドか、それか酒場だな」

「酒場?なんで?」


 酒場は街の中で最も生の情報が集まる場所だ。裏社会や訳ありの依頼に通じる情報網も集まりやすい。

 どんな目的で旅をしているかは分からないが、何らかの情報を求めて酒場に足を運んでいる可能性がある。



「とりあえず、一番近い酒場へ向かうぞ!」



***



 賑やかな大通りの一角に、樽と酒瓶が描かれた木製看板が掲げられていた。


 レンガ造りの落ち着いた重厚な佇まいは、一目で未成年お断りの雰囲気を放っている。

 リシェイが一人で入れば即座に摘み出されるだろうと判断し、カインが先に入って店主へ「酒は飲ませない」と筋を通すことで、二人で店内に足を踏み入れることができた。


 酒場とは言っても、大声が飛び交うどんちゃん騒ぎのビアホールではなく、静寂と高級感が漂うオーセンティックなバーに近い。

 昼下がりの今は客の数もまばらだった。



 初めて足を踏み入れる大人の空間に、リシェイは興味津々で目を丸くして周囲を見回していた。カインは「落ち着け」と彼女の頭をぽんと軽く叩き、店内を観察した。



 二人は客席の中から、魔工師の老婆から聞いた特徴を持つ人物を探した。


 老婆の話によれば、こうだ。



 背丈と年齢はカインと近い。

 腰まで伸びた蜂蜜色の金髪は、まるで黄金の糸のように美しく輝いている。顔立ちは女性顔負けの気品ある美貌で、透き通るような鋭い青い瞳が印象的。


 そして腰元には、高純度の魔水晶が贅沢に埋め込まれた美しい装飾剣を携えている――。



 褒めちぎるような内容に、本当にそこまでの人物が存在するのか疑わしかった。老婆の思い出補正が相当にかかっている可能性が高い。


 主観的な情報は割り引き、外見の特徴だけを頼りに視線を走らせた。



 リシェイの視線が、店の最奥にある小さな丸テーブルへ注がれた。


 中央の広い席がいくらでも空いているというのに、あえて陰になった端の席で、一人静かにグラスを傾けている客がいた。


 後姿ではあったが、その髪は綺麗な蜂蜜色で、腰のあたりまでゆったりと伸びている。そしてテーブルの脇には、息を呑むほど美しい装飾剣が立てかけられていた。


(間違いない……! 絶対にあの人だ!)


 確信を抱いたリシェイは真っ先に駆け出し、その人物の背中へ声をかけた。


「あ、あのっ……!」


 不意に背後から声をかけられ、その客はグラスを置くと、優雅な動作でゆっくりと振り返った。



 ――瞬間。



 その透き通るような鮮やかな青い瞳に、吸い込まれるような錯覚を覚えた。




本日、お昼頃に続きを更新します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。