↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EDGE ―光と闇の約束―  作者: 岩梨
第四章 交錯する宿命
37/93

36. 誇りと驕りと

 

 小さな街を出て二週間。


 四人は、広大な森林地帯に差しかかっていた。



 一般の旅人が避ける険しい森は、追っ手の目を眩ませるには好都合だった。

 だが、足を踏み入れる前に、カインは三人を呼び止めた。


「ここは昔、仕事で来たことがある。植物系の魔物が多くてな。実戦慣れしてねぇ奴には厄介な場所だ」

「厄介?」


 レミが首を傾げる。


「木や蔦に擬態してる。通り過ぎようとした途端、四方から襲われることもあるんだ」

「……普通の植物と、見分けがつかないんだね」

「ああ。俺が先頭で道を切り開く。みんなは自分の周囲の警戒に集中しろ。フェイは最後尾を頼む」

「了解。本職に任せるヨ」


 カインの的確な指示に、レミとフェイは静かに頷いた。異論などあるはずもない。

 彼の判断は極めて合理的であり、何よりこの過酷な森を実際に攻略した経験があるのだ。一流のファイターであるカインが警戒を促している以上、素人が出しゃばる隙などなかった。フェイが「頼むぜ、大将」と肩をすくめる。


 レミも頷いたが、リシェイは頬を膨らませた。


「なーんでアタシまで守られ組なの! カインと同じファイターなのに!」

「お前、まだ単独で実戦を完遂したこともねぇだろ」

「たまたま機会がなかっただけだもん!」


 道中で経験は積んでいる。だが、常に仲間との連携があっての戦いだ。

 今回は強さ以上に慎重さが要る。背後をフェイに任せるのも、その観察力と判断力を買ってのことだった。


「今回は言うことを聞け。安全な場所に着いたら、組み手はいくらでも付き合ってやるから」


 リシェイは不満げに口を結び、レミの隣へ並んだ。


 薄暗い樹海を、方位磁石と木漏れ日を頼りに進む。


 腐った植物の淀みから生じた魔物が、周囲の緑に紛れていた。

 蔦が襲いかかり、地表から根が伸びる。そのたびに、カインの剣が閃いた。


 真紅の瞳を宿す影響なのか、その感知能力は常人を遥かに超えている。

 背後から迫る気配にも振り向かず刃を突き立て、足元の根は踏み潰した。


 無駄に動き回らず、常に己の有利な間合いへ敵を引き込んで屠っていく洗練された剣技。普段は皮肉屋のフェイでさえ、この瞬間のカインには素直な敬意を抱いていた。


 しかしリシェイは唇を噛んでカインの背中を見つめていた。



「もう……アタシだって!」



 制止を振り切って飛び出し、ダガーを振るう。

 カインが相手をしていた魔物の一体が、甲高い声を上げて消えた。


 転がった魔水晶を拾い、リシェイは振り返った。

 褒め言葉を待つ顔が、カインの冷たい表情を見て強張る。


「……なんで前に出た?」

「なんでって……」

「自分の身を守ることに専念しろって言ったよな」

「でも、一人で倒せたじゃん。結果オーライでしょ?」


 カインは、彼女を見下ろしたまま低く言った。


「馬鹿か、お前は」

「馬鹿じゃないもん!」

「今のは俺が引きつけておいた敵だ。見えてる奴を斬るだけなら簡単だろ。踏み出した足元に罠があったら、どうするつもりだった?」

「気づくよ、アタシだって! その、きっと……」

「自分の力を過信するな!」


 リシェイが涙目で睨み返した。



 レミは思わず足を踏み出しかけたが、フェイに腕を掴まれる。


「今はカインに任せな」

「でも……」

「警戒もせず飛び出したリシェイが悪い。一人の油断で、仲間が死ぬこともあるんだヨ」


 フェイの声は静かだった。


 己の力を信じることと、過信して危険を軽視することはまったく違う。可哀想に見えるかもしれないが、フェイは全面的にカインの言い分に賛同していた。


「危険な現場は、オレにも身近だから分かる。悪気がなかったじゃ済まないんだ」

「……うん」

「カインだって、好きで嫌われ役をやってるわけじゃないさ」


 レミは胸を痛めながら、足を止めた。カインがただ感情的に声を荒げている訳ではない事は充分にわかったから。



「アタシだって戦えるもん! 今まで頑張ってきたじゃん!」


 リシェイの声が震える。しかしカインの眼差しは冷ややかなままだった。


「向かってくる敵を倒すだけじゃないって、最初に言っただろ。危険を理解して戦うのと、感覚だけで突っ込むのは違うんだよ」


 堪えきれず、リシェイの目から涙が落ちた。

 カインは腰に手を当て、溜息をつく。


「都合が悪くなると泣くのか? これだから威勢だけの半人前は……」

「泣いてない! ほっといてよ!」

「放っといたら、お前が突っ走って全滅するから言ってんだろ。自分の行動で、仲間がどんな犠牲を払うか分かってんのか!」

「犠牲なんて出てないじゃん!」


 一人で倒したのに。

 どうして、少しも認めてくれないのか。


 リシェイは涙を拭い、憧れていた相手を睨みつけた。



「カインなんて……大嫌いだっっ!!」



 カインは目を伏せた。

 嫌われたくなくて黙るつもりはなかった。センスがあるからこそ、未熟な力を過信して死んでほしくない。大切なのは好き嫌いではないのだから。


「……話にならねぇな。『誇り』と『驕り』はまったく別もんだ。お前はただ、威張って戦いごっこがしたいだけなのか?」



後ほどつづきを何回か更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。