25. 残された者と侵入者
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カインたちが飛び出してから二週間後のデュロアル本部、地下訓練場――。
乾いた銃声が響き、弾丸が的の中心を撃ち抜いた。
階段の踊り場からその姿を覗いていたメルは、思わず見入った。
(かっこいいなぁ……)
事務仕事を鮮やかに片づける姿も素敵だが、静かに銃を構える姿も絵になる。
街にもファンの多い彼を間近で見られるのは、同じデュロアルの仲間ならではの役得だった。
「そこは冷えるでしょう? 僕も休憩にするから、どうぞこちらへ」
「す、すみません! お邪魔するつもりじゃ……」
「気にしないで。紅茶でいいかい?」
気づかれていたことに慌てながら、メルは訓練場へ足を踏み入れた。
ウィリスは自分にはコーヒーを、メルには温かい紅茶を淹れた。
前線に出る戦闘要員ではないが、いざという時に備え、銃の訓練は欠かさない。フェイに護身用の拳銃の扱いを教えたのも彼だった。
「ウィリスさんって、本当に何でもできますよね」
「メルこそ、また新しい技能資格を取ったんだろう? おめでとう」
「えへへ、頑張りました!」
元学者のウィリスは、東方のイェシャン大陸出身だ。幼少期から共通語と故郷の言葉を学び、どちらも流暢に操る。
ルディナスとの出逢いを機に安定した地位を捨て、デュロアルの立ち上げに加わったという経歴も、メルには憧れだった。
「私も、ウィリスさんみたいに頼られる人になりたいです」
「光栄だな。僕も負けていられないね」
穏やかな笑顔に、メルも笑みを返した。紅茶を一口飲んでから、ふと静かな訓練場を見渡す。
「……みんな、急にいなくなっちゃいましたね。カインさんたち、無事にレミさんを見つけられたんでしょうか」
「彼らなら、きっと追いついているよ」
「そうですよね。それにしても……あの侵入者、何者だったんでしょう」
「それは僕も気になっているんだ」
ウィリスはカップを置き、わずかに表情を引き締めた。
***
あの日――カインたちがデュロアルを飛び出してから、およそ一時間後のことだった。
活気に満ちていた仲間たちが去り、しんと静まり返った指揮官室。ルディナスは残された書類の整理を終えると、軽く目を閉じてふぅと息を吐き出した。
「……女性の部屋に勝手に忍び込むなんて、感心しないわね」
次の瞬間、ルディナスは机のペーパーナイフを掴み、振り向きざまに背後の気配へ向かって鋭く放った。
だが、ナイフは虚空をすり抜け、カツンと音を立てて壁に突き刺さる。
「……それは失礼」
影の中から現れたのは、青い髪の青年――ヴァートだった。
ヴァートは軽やかに着地すると、ルディナスの正面へと立ち塞がった。突如現れた怪しげな侵入者に対し、ルディナスは顔色ひとつ変えず毅然と対峙する。年若い女性でありながら、その佇まいには揺るぎない上に立つ者の風格があった。
「何の用……って訊くだけ野暮かしら」
「ああ、その方が手っ取り早くて助かる」
「そう。でも私に訊いたって無駄よ。何も知らないもの」
ヴァートは冷ややかな瞳で彼女を見据えると、大気から禍々しい光の槍を練り上げた。
鋭利な刃を喉元へ突きつけられても、ルディナスは眉ひとつ動かさない。その黄金混じりの茶色の瞳が、無言の圧力を突きつけていた。
この手の人間は、どれほど苛烈な拷問にかけようと決して口を割らないことをヴァートは瞬時に悟った。
「ルディナスさん!」
「指揮官っ!」
異変を察知したデュロアルのメンバーたちが、次々と部屋になだれ込んでくる。
ヴァートは先ほど投げられたナイフの軌跡に密かに目をやった。ナイフは見事な精度で壁の『非常警報装置』を貫いていたのだ。一筋縄ではいかない組織だと改めて認識する。
だが、いくら人数が集まろうと、彼らを振り切ることなど容易かった。駆けつけたウィリスをはじめとするメンバーが銃口を向け、いつでも引き金を引けるよう構える。だが、ヴァートの表情には怯みの一片すら浮かばない。
「ならば……人質でも取って喋ってもらおうか?」
「随分と舐められたものね。ここにいる全員が私の誇りよ」
ルディナスは毅然と言い放った。仲間を見捨てて保身に走るような卑怯者はデュロアルには存在しないし、脅しになど屈しない、と。
揃ったメンバーの瞳にも、一心同体の揺るぎない覚悟が宿っていた。
――刹那。
背後から迫る凄絶な殺気を察知し、ヴァートは反射的に大きく後方へ跳んだ。
「……外したか」
低い掠れ声が響く。
ルディナスはその声の主へ視線を向け、目を細めた。
「ゼロ……!」




