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スキルダイバー~追放された深淵の鑑定士は最強レギオンを作り上げる~  作者: 国木田。
下位鑑定士と少女たち

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第8話:BANG!! QUEEN

「はぁっ……あぁっ……身体が、熱くて……破裂しそう……っ!」


 荒い呼気に合わせて、革鎧の補強バンドがギチギチと音を立てる。膨張した太ももと大臀筋が、見る者を圧倒する光沢を放っていた。


(……戦況分析どころか、男として目のやり場に困るなこれ……!)


 俺は動揺を抑え込み、ミラの背中へ叫んだ。


「ミラ! 後で身体がとんでもないことになるかもしれないが、絶対に俺に文句は言うなよ――っ!」


「えっ……!? ど、どういうことですか!?」


「いいから前を見ろ! 押し返せ!」


「うおおぉぉぉっ!!」


 膨れ上がる筋力に戸惑いながらも、ミラは大槌を真上へ突き上げた。


 バキィィィンッ!


 オーガの巨腕が跳ね上げられ、体勢が大きく崩れる。


「グルァッ!?」


「すごい……あんなに重かったのに……!」


「油断するな! 大振りの右が来る、半歩引いて左へ回れ!」


「はいっ!」


 俺のナビゲーションを受け、ミラは太もものバネを活かして地を蹴った。オーガの剛腕が空を裂き、突風がミラの長い髪を揺らす。


「今だ、懐へ飛び込んで脇腹を突け!」

「いっけぇぇっ!」


 鋭い踏み込みとともに、大槌の石突がオーガの脇腹へ突き刺さった。


 ドスッ!


 鈍い破砕音が響き、巨鬼が呻きを漏らして後退する。


「私……戦えてる……!? 身体が大きくて不器用だからって、ギルドでもずっとお荷物扱いだったのに……!」


「お前はお荷物なんかじゃない! 世界最高の才能を持った戦士だ! 自信を持て!」


「先生……っ!」


 ミラの瞳に、強い光が宿った。

 だが、手負いのデス・オーガが最後の狂乱を発動させる。


「グガァァァァァッ!」


 オーガは両拳を地面へ叩きつけ、大地を粉砕する衝撃波を放った。土煙と岩塊が吹き荒れ、視界が完全に遮られる。


「きゃっ!? どこから来るの……!?」


「上だ! 跳躍して叩きつけに来る! 新しく解放された枝脈【爆砕連撃】で迎え撃て!」


「これでぇぇぇっ!」


 降下してくる巨躯に対し、ミラは下段から大槌を豪快に振り抜いた。


 ドゴォォォンッ!


 一撃目がオーガの右膝を粉砕する。反転した二撃目が、その顎を跳ね上げた。


「トドメだミラ! 最大の枝脈《サブライン・スキル》――【剛力破砕】を叩き込めぇぇっ!」


「これで……沈みなさいよぉぉぉっ!!」


 ミラの全身の筋肉が躍動し、黄金の闘気が渦となって大槌を包み込んだ。


 ドッガァァァァァァァンッ!


「ギギャ……ガハッ……!?」


 大槌が、デス・オーガの胸板のど真ん中を直撃した。


 衝撃波が背中へ突き抜け、黒紅の甲殻が内側から弾け飛ぶ。巨体が紙屑のように宙を舞った。大森林の巨木を五本へし折り、後方へと叩きつけられる。


 ズズゥゥゥン……


 凶悪な魔獣すら、赤子のように粉砕してみせた破壊力。土煙の向こうに、黄金の闘気の残滓を纏って立つミラ。その偉容を目にした瞬間、俺の脳裏を電撃のような戦慄が貫いた。


(……ベルヘルム……?)


 前世の記憶が、鮮烈にフラッシュバックする。かつて『マスターズ・レギオン』で、自軍の『四天王』の一角に君臨した破壊の化身――『剛鎚兎耳女帝 ベルヘルム』。画面越しに心血を注いで育てたその姿が、恐ろしいほど鮮明にミラと重なって見えた。


 血の匂いが漂う中、デス・オーガは痙攣を一つ残して、完全に動かなくなった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 大槌を地面に突き立て、荒い息を吐くミラ。


「ふぅ……完璧な勝利だな、ミラ」


 俺が駆け寄った、その瞬間だった。ミラの全身を包んでいた黄金の光が、フッと霧散した。


「え……? 身体が、きゅうに……重――」


「……ひゃああぁぁぁぁっ!? ぎゃあぁぁぁ痛い痛い痛いっ!」


 ミラが悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。


「うわっ、危ない!」


 俺は慌てて彼女の身体を受け止めた。だが、規格外の重量と柔らかい肉体が、俺の全身を容赦なく押し潰す。


「痛い痛い痛い! 全身の筋がちぎれちゃうぅぅっ!」


「うぐっ……お、重い……! ミラ、ちょっとじっとしてくれ!」


 押し当てられた胸元の柔らかさと、生々しい体温。俺の理性は激しく揺さぶられた。


「うぐぐ……せ、先生ぇ……身体が痛くて動けないですぅぅ……」


「……すまないな、ミラ。これがさっき言った『後でとんでもないことになる』の正体だ」


 ゲームとは違い、この世界の【経験値注入《エクス・インジェクション》】は永続する強化ではない。生身の肉体と主脈には、鍛錬で徐々に広げていくべき許容量がある。外から注ぎ込んだ経験値は、一時的に潜在能力を強制開花させているだけの時限措置に過ぎないのだ。


 ミラがLv.5の力を維持できるのは、戦闘中のわずかな時間だけ。効果が切れれば、主脈は急速に元のレベルへ収縮する。そして、許容限界を超えた代償は、効果が切れた瞬間に筋組織と神経系へ反動として襲いかかるのだ。


「君の身体に起きたのは、急激な限界突破に伴う【筋繊維の過剰負荷】……分かりやすく言えば、超絶な筋肉痛と神経疲労だ」


「き、筋肉痛……? でも、こんなの……痛すぎますぅぅ……!」


「何年もかけて広げるべき主脈を、一瞬で跳ね上げたんだ。元に戻る時、引き伸ばされた筋肉や神経が一斉に悲鳴を上げているのさ」


「そ、そんなぁ……私、死んじゃうんですか……!?」


「死にはしないよ。ただ、個人差はあるが、丸二日から三日は指一本まともに動かせなくなる」


「ふぇぇぇ……っ! に、二日もですかぁ……!?」


 涙目で俺の胸にしがみつき、身体を震わせるミラ。その一部始終を――本陣裏の茂みの陰から、息を呑んで見つめる影があった。


「す、すごい……本当に、あの怪物を一人で倒しちゃった……」


 俺の安否が心配になり、こっそり引き返してきていたミミィだった。王国騎士団すらあしらったデス・オーガを、ミラが単騎で粉砕した信じられない光景。そして何より――彼女に謎の光を注ぎ込み、的確な指示で最強の戦士へと仕立て上げた、しがない下位鑑定士のはずの青年。


「マルク先生……一体、何者なの……?」


 ミミィは高鳴る胸を両手で押さえた。畏怖と憧れに瞳を潤ませ、俺の背中をじっと見つめ続けている。


(……さて、見とれている場合じゃないな。急いで後片付けをしなきゃならん)


 俺は気を取り直し、デス・オーガの死骸へ近づいた。


(この世界の連中に、俺の能力やミラの急激な成長を知られるわけにはいかないからな)


 ナイフを取り出し、最も価値の高い【真紅の魔核】と、希少素材の【獄鬼の角】を切り取って懐に隠す。さらに、オーガが暴走の末に自滅し、ミラが相討ち覚悟で最後の一撃を叩き込んだように見せかける。周囲の地面に、大槌を引きずった偽装の打撃痕を刻み込んでいった。


「よし……これで辻褄は合うはずだ」

「うぅ……私を置いていかないでくださいぃ……」


 ミラを木陰へ運び終えた頃、草木をかき分ける慌ただしい足音が響いてきた。


「おい! 地響きが止まったぞ!」

「まさかミラがやられたんじゃ……うわあああぁぁっ!?」


 恐る恐る戻ってきたバッカスと冒険者たちが、現場を見て一斉に腰を抜かした。


 目の前には、胸部を粉砕されて絶命したデス・オーガの巨体。木陰で息も絶え絶えのミラと、衣服を汚して平然と佇む俺の姿。


「お、おいおいおい……あのデス・オーガが……死んでる!?」


 バッカスが戦斧を取り落とし、目を剥いた。


「先生! 無事だったのか!? 一体何が起きたんだ!?」


「ええ、なんとかね。オーガが足元を崩した隙に、ミラさんが捨て身で大槌を叩き込んでくれたんですよ。奇跡的な相討ちでした」


 俺は何食わぬ顔で嘘を並べ立てた。


「ミ、ミラが……あの化け物を……!?」

「す、すげぇ……あの巨女、とんでもない戦士だったのか……!」


 冒険者たちが歓声を上げ、倒れ伏すミラを英雄を見る目で見つめ始める。


「うぅ……痛いですぅ……」


 泣きじゃくるミラを担架に乗せ、討伐部隊は熱狂の中で帰路についた。その喧騒の中、俺は一人、自らの手のひらを見つめていた。


(主脈Lv.8の勇者候補、か……エレオノーラ(マスター)にどう報告したものかな……)


 波乱に満ちた大討伐は、こうして幕を閉じた。

筋肉痛って辛いよね。


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カクヨム様でも掲載させていただいております。

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