第6話:大森林討伐と一目惚れした魔獣
そして数日後――
ついに、オーグの街の命運を分ける『大森林討伐作戦』の火蓋が切って落とされた。
「野郎共ッ! 街道を脅かすクソ共を一匹残らず叩き潰すぞ! 前衛、突貫ッ!」
ギルドマスター・バッカスが、戦斧を掲げて怒号を上げる。密集陣形を組んだ冒険者部隊が、一斉に大森林へ踏み込んでいった。俺は予定通り、指揮官や補給隊が詰める最後衛の本陣から戦況を見守っていた。
「あ、マルク先生!」
後衛の物資搬送部隊から駆け寄ってきたのは、先日鑑定したミミィだった。
「ミミィさんか。元気そうだな」
「はい! 先生のアドバイス通り森の動物たちと触れ合ってたら……なんだか身体の動かし方が分かってきたんです!」
自信なさげで泣き虫だった姿は、微塵もない。生き生きとした笑顔を浮かべている。足取りが軽快になったせいで、ショートパンツから覗く太ももと、揺れるヒップラインの破壊力が大きく跳ね上がっていた。
(……ゴクリ)
俺は喉を必死に抑え、咳払いを一つした。
(いかんいかん、戦場で煩悩に負けてどうする。集中、集中だ……)
雑念を振り払い、前方の戦局へ意識を切り替える。森の入り口付近では、オーグの主力であるLv.3の冒険者たちが前衛ラインを築いていた。飛び出してくるゴブリンやワイルドボアを、順調に撃退している。
今回は地方都市の防衛戦規模ということもあり、王国正規軍からの派遣はわずか5名の騎士団員だけだった。その騎士たちは後方の天幕の前で腕を組み、高みの見物を決め込んでいる。
(まあ、前衛が決壊した時のための予備戦力か、あるいは最後に美味しい手柄をさらうための待機組ってところか)
地方ギルドと騎士団の冷え切った関係を感じつつ、俺はふと視線を彷徨わせた。
(そういえば……あの酒屋で見かけた、ミラとかいうデカい女戦士はどこにいるんだ?)
前線から後衛まで見渡すが、あの目立ちすぎる巨躯は見当たらない。
(酒屋でぶつかった時の筋肉のバネからして、あいつの主脈は間違いなくLv.3はあるはずだ。巡礼には来てなかったが……)
一体どんなスキルツリーを持ち、どんな枝脈を伸ばしているのか。
(機会があれば、ぜひとも【深淵透視】であいつの深淵をいろいろと調べてみたいもんだな……)
探究心を疼かせ、俺は森の奥を見つめていた。
◇
ズォォォォォォンッ……!
大地を揺らす重い振動が、足裏に伝わった。焦げた硫黄のような匂いが鼻を突き、森の奥から耳をつんざく咆哮が轟く。
巨木が紙細工のようにへし折れた。
木々の隙間から姿を現したのは――全身を黒紅の甲殻で覆った、規格外の魔獣だ。頭部から突き出た、二本のねじくれた角。溶岩のように赤い双眸。
(嘘だろ!? 誰か呪いの召喚アイテムでも使ったのか!?)
最後衛の陣地からその姿を捉え、俺は内心で冷や汗を流した。前世のMMO『マスターズ・レギオン』には、高レベルモンスターを強制出現させる悪ふざけのアイテムがあった。酔ったプレイヤーがふざけて街中で使い、居合わせた者もろとも一瞬で細切れにされて全滅する。
その阿鼻叫喚の筆頭看板モンスターこそが、あの『デス・オーガ』だ。
「おのれ、地方の雑魚狩りと思えば、化け物が現れたか!」
高みの見物を決め込んでいた王国騎士団の5名が、色めき立って剣を抜いた。
「我らに続け! 国家の騎士の武威を見せてやる!」
隊長の号令とともに、銀の甲冑を纏った騎士たちが一斉に突撃していく。鋭い刺突と連携剣撃が、デス・オーガの脚部に叩き込まれた。巨体の進撃が、一瞬だけ押し留められる。
「よし、足は止めたぞ! 我らが時間を稼いでいる間に、冒険者どもは迎撃の陣形を再構築しろ!」
隊長が誇らしげに、後方へ向けて怒鳴る。
だが――。
ブオッッ!
デス・オーガは痛がる素振りすら見せず、巨大な片腕を横に薙ぎ払った。ハエを払うかのような、何の工夫もない一振り。
ドガァァァンッ!
「がはっ……!?」
重装甲の隊長の身体が、くの字に折れ曲がった。音を置き去りにして、遥か後方の巨岩へと叩きつけられる。鎧の破片が散らばり、隊長はピクリとも動かなくなった。
デス・オーガは最初から、本気など微塵も出していなかったのだ。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!?」
「た、隊長が一撃で……!?」
「化け物だァ! 逃げろォォォッ!」
前衛の冒険者たちが、一瞬でパニックに陥った。武器を投げ捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始める。
「逃げるなッ! 隊列を崩すな馬鹿野郎共ッ!」
バッカスの怒号も、恐怖に呑まれた烏合の衆には届かない。
(まずいな……ここで俺の【技能深淵化士】の能力を使うか……!?)
俺は歯を食いしばった。この能力は、おいそれと世間の目に晒していい代物ではない。機密保持が徹底された『教会直属騎士団』が同行していれば、口封じも可能だ。だが今回の遠征には、地方ギルドと王国騎士しかいない。
グオオオオオッ!
逃げ惑う冒険者たちを踏み潰し、デス・オーガがバッカスと俺のいる本陣へ真っ直ぐ突進してくる。
激しい地響きが、膝をガタガタと震わせた。
「くそっ、ここまでか……!」
バッカスが死を覚悟して斧を構えた、その刹那――。
ドッガァァァァァンッ!
金属音が響き、二人の眼前へ巨大な影が割り込んできた。
「……え?」
土煙の向こうに立ち塞がっていたのは――あの酒屋で遭遇した、規格外の女戦士・ミラだった。丸太のような両腕で大槌を構え、デス・オーガの突進を真正面から受け止めている。
「グ……ル……?」
自分とタメを張るほどの巨躯が、突如として目の前に現れた。デス・オーガは目を丸くして、動きを止める。
激しい肉弾戦が始まるのかと、俺は息を呑んだ。次の瞬間。スッ……と、デス・オーガの全身から凶悪な殺気が消え去った。
「……グル?」
オーガは困ったように、巨大な爪で頭をボリボリと掻いた。そして足元に咲いていた黄色い小花を、極太の指先でそっとちぎり取る。
ズシン……
デス・オーガは、静かにその場へ片膝をついた。
そして、恥ずかしそうに頬を赤らめながら、小さな花を両手でミラへ差し出したのだ。
「え……? あ、あの……えっ? えっ……!?」
大槌を構えたまま、ミラは顔を真っ赤にしてパニックに陥っている。あまりにシュールな光景に、乾いた呟きしか出てこない。
「……は? まさかあいつ……ミラに惚れたのか……!?」
AIに書評頼んだら、このシーンがベストシーンだそうです。
まだ序盤も序盤なんですが‥‥。
マルク達の冒険が少しでも気になる方は、評価、ブックマークお願いします☆
カクヨム様でも掲載させていただいております。
是非、応援お願いします。




