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スキルダイバー~追放された深淵の鑑定士は最強レギオンを作り上げる~  作者: 国木田。
動乱のレッドアイズ

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第58話:反撃の狼煙《バトル・タクト》

 ズズズズズズズズッ……!!


 大迷宮『黄昏の巨石回廊』の第4層全体を根底からへし折るような、狂暴な大地震が発生した。中ボス部屋『巨石の広間』の出入口という出入口が、紫黒の魔導結界によってバキンと塞がれる。


「ひっ……!? な、なんだこの揺れは!?」

「結界が破れない! 前方への扉も、後ろの通路も完全に塞がれたぞ!?」

「おい、空間転移スクロールを使え! 早く地上へ――」


 貴族の魔導士たちが青ざめ、高価な脱出用スクロールを破り散らした。だが、強力な呪詛の干渉で淡い光は一瞬でかき消され、術式は完全に不発に終わる。


 騎士団の通信宝珠も、黒いノイズを撒き散らすばかりで沈黙していた。外部との連絡を断たれ、冒険者や騎士たちは完全な密室に閉じ込められたのだ。


「……くそっ、やっぱり来やがったか」


 足元の石畳から、地脈エネルギーを強引に吸い上げる異様な脈動が伝わってくる。俺は奥歯を強く噛み締めた。


 前世のレイドギミックが、鮮烈に脳裏をよぎる。


(この吸い上げられ方……オーグの小型杭とは比べ物にならん。最深部で【大型魔力励起杭】が本格起動しやがったんだ……!)


 この結界は、単なる足止めではない。


 広間全体を『生贄の檻』に変え、王都の精鋭冒険者たちの魂と生命力を根こそぎ苗床にする、巨大な儀式結界そのものだった。その時――中央に鎮座していた『エンシェント・ゴーレム』に、決定的な異変が生じた。


 ゴオオオオオオオッッ!!


 結界から溢れる汚染魔力を浴びたゴーレムの巨体が、苔むした岩肌からドス黒い赤熱の光を放ち、暴走状態へと変異していく。


「グオオオオオオッ――!!」


 狂乱したゴーレムが両腕を地面に叩きつけ、広間全域に地割れと衝撃波を撒き散らした。


「ひぃっ!? ボ、ボスが狂暴化しているぞ!」

「落ち着け! 我が『白銀の聖剣』の騎士たちよ、陣形を整えろ!」


 功を焦ったジュリアスが、剣を振り上げた。


「この程度で取り乱すな! まずは目の前の中ボスを速攻で叩き潰し、我がクランの武威を示すのだ! 突撃せよッ!」


 号令を受け、金糸の甲冑の貴族騎士たちが一斉にゴーレムへ斬りかかった。


 だが――。


 ドッゴォォォォンッ!!


「ぐわぁぁぁぁっ!?」

「ぎゃあああっ!」


 ゴーレムの剛腕が一薙ぎした瞬間、貴族騎士たちの重装盾が粉々に砕け散った。騎士たちは紙屑のように吹き飛び、壁へ激突する。


 ジュリアスの顔から、一瞬で血の気が引いた。


「な、なんて威力だ……!? 前衛が一撃で全滅しただと……!?」


 陣形が崩壊し、広間がパニックに包まれかけた――その刹那。


 ドガガガガガガアンッッ!!


 ゴーレムの暴走すら前座だと言わんばかりの爆発音が、大空洞の頭上から響き渡った。天井の岩盤や壁面が、内側から何十箇所も同時に爆砕する。土煙と瓦礫の雨の向こうから――ギチギチ、シャシャッ、ギシャァッ……と、無数の節足や甲殻が擦れ合うおぞましい異音が、大空洞全体を埋め尽くした。


「な、なんだ……!? 天井から、何かが降ってくるぞ……!?」

「ひ、ひぃぃぃぃっ!? 化け物だァァァッ!」


 瓦礫の向こうから現れたのは、自然界では絶対に有り得ない異形の軍勢だった。


 昆虫の外骨格に、猛獣の筋肉と大顎、爬虫類の猛毒の尾を縫合された――数十、数百頭規模の『人造キメラ軍団』。赤く狂乱した無数の複眼が、閉じ込められた人間たちを飢餓に満ちた視線で見下ろしていた。


「……本命のお出ましだな」


 俺は息を呑みつつ、大盾を構えるアークたちの前に立った。狂信者たちが放った人造の悪夢。逃げ場のない檻の中で、本当の死闘が幕を開けたのだ。


 ギシャァァァァァァッッ!!


 天井の亀裂から、数百頭もの人造キメラの大群が津波のように雪崩れ込んできた。昆虫の甲殻、猛獣の四肢と大顎、爬虫類の毒の尾。自然の法則を冒涜するように継ぎ接ぎされた怪異が、狂化の咆哮と紫黒の毒霧を撒き散らし、広間全域へ殺到する。


「慌てるな! 重装兵は盾を並べろ! 後方魔導士、火炎と氷結の一斉掃射用意!」


 『白銀の聖剣』のサブリーダー・ジュリアスが、即座に怒号を飛ばした。


「撃てぇぇぇぇっ!」


 無数の魔導弾幕が、先頭のキメラたちに着弾して爆炎が巻き起こる。ジュリアスの的確な指示で、初動の突撃はある程度食い止められていた。


 後方からその戦況を見つめ、俺は小さく息を吐いた。


「……なんだかんだ言って、ジュリアス個人は腐ってもドラグニール家の血筋だな。腕も立つし、指揮も悪くない」


 だが同時に、彼に従う貴族騎士たちのツリーの致命的な欠陥も看破していた。


(……取り巻きの連中がついていけてねぇ。主脈のLv.こそ高いが、枝脈が驚くほど貧相だ)


 自己流の鍛錬と、表面の数値しか読めない鑑定士に頼ってきた連中の限界だった。型通りの攻撃しか持たない彼らにとって、複数の属性耐性を持ち、不規則な軌道で暴れる人造キメラは最悪の「天敵」だった。


 ガギィィィンッ!


 キメラの甲殻が貴族たちの魔法を弾き飛ばした。昆虫の跳躍力で盾壁を飛び越え、後衛へ肉薄する。


「ぎゃあああっ!? 魔法が効かないっ!」

「毒針を喰らった! 身体が……痺れて動けないっ!」


 毒と奇襲を受け、防衛ラインは瞬く間に各所で決壊し始めた。


「おのれ、不甲斐ない奴らめ……! ドラグニールを……『白銀の聖剣』を舐めるなァッ!」


 ついにジュリアスが自ら剣を抜き、金糸の魔力を滾らせて最前線へ躍り出た。電光石火の三連撃が閃き、飛びかかってきたキメラの頭部を一瞬で両断する。凄まじい闘気と、鬼気迫る武勇だ。


 その背中を見たアークが、思わず声を漏らした。


「……さすがはジュリアス兄上だ。あの気迫と剣のキレ、紛れもなく本物だ……!」


 だが、ジュリアス一人が奮戦しても、戦況の悪化は止まらなかった。貴族騎士たちは次々と毒に倒れ、広間の中央では暴走したエンシェント・ゴーレムが猛威を振るっている。


 ドッゴォォォォンッ!!


「ぐあぁっ!?」


 ゴーレムの衝撃波の余波を受け、ジュリアスすら体勢を崩して膝をつく。キメラの大群と暴走ゴーレムに挟まれ、白銀の聖剣は壊滅寸前まで追い詰められていた。


 しかし――そんな地獄絵図の中で、ただ一箇所だけ、鉄壁の静寂を保っている陣営があった。


「アーク、ガイン、ヴォルク、円陣防御! 隙間を絶対に開けるな!」

「応ッ! 一頭たりとも通さねぇよ!」

「【体軸維持】――【完全受け流し】ッ!」


 アークたちの盾壁がキメラの爪牙を弾き返す。ミャロがばら撒く持続霊気が、毒素を瞬時に分解していく。ミミィと白銀が足元を凍結させ、飛び込んできた個体をミラの大槌とライラ、ロイスの短剣が冷静に粉砕していく。


 レッドアイズだけが、傷一つ負わずに戦線を維持していた。


「ひ、ひぃぃぃっ!? な、何なんだよあの化け物たちは……!?」


 その背後で、ネロが腰を抜かし、顔面を蒼白にしていた。


「鑑定眼が通用しない……弱点も行動パターンも全然分からないじゃない! 嫌よ、死にたくない、誰か助けてぇぇっ!」


 狂乱して逃げ出そうとするネロを一瞥し、俺は静かに意識を集中させた。


(さて……そろそろ、この大混乱を力ずくでまとめ上げる番だな)


「ぎゃあああああっ!」

「結界が破れない! 退路がないぞ!」

「助けてくれ、誰か助けてくれぇぇっ!」


 中ボス部屋『巨石の広間』は、完全な阿鼻叫喚の地獄と化していた。


 『白銀の聖剣』の崩壊を皮切りに、一般冒険者や騎士団の部隊も各所で分断され、次々と消耗していく。四方は、数百頭の人造キメラと赤黒く暴走したゴーレムに包囲されていた。


「くそっ……! 我が、ドラグニールが……こんな得体の知れない化け物どもに……ッ!」


 孤軍奮闘していたジュリアスも、ついに毒爪を浴びて膝をつき、血塗れの剣を取り落とした。プライドも武威も打ち砕かれ、エリートたちはただ絶望に震えるしかなかった。


 その一方で、レッドアイズの防衛陣の背後では、醜悪な狂乱劇が繰り広げられていた。


「嘘よ……! 嘘よ嘘よ嘘よッ!!」


 ネロが床を這いずり回り、半狂乱になって叫んでいた。


「ボクの【上位技能鑑定】が通用しないはずがない! 何だよこの化け物は!? スキル系統が滅茶苦茶で、エラーしか出ないじゃないか!」


 継ぎ接ぎされたキメラの異常構造を解析できず、彼女のプライドは完全に崩壊していた。


「おい、前衛! 何突っ立ってるのよ! 早く盾になってあいつらを食い止めてよ!」


 ネロはガインやアークに向かって、狂乱の形相で喚き散らした。


「ボクは国家鑑定士なのよ! 平民のゴミとは命の価値が違うんだ! 盾になりなさいよ! 身代わりになりなさいよぉぉっ!」


 その醜態に、ガインが忌々しそうに唾を吐き捨てる。


「……反吐が出るぜ。誰がてめぇみたいなクソ女のために命を張るかよ」


 その時、一頭のキメラが防衛陣の隙間を突き、鎌腕を振り上げて飛び込んできた。


「ひぃぃぃぃっ! 嫌ぁぁぁぁっ!」


 ネロは隣の団員を力任せに突き飛ばし、自分一人だけ結界の隅へ逃げ込もうと駆け出した。


「誰か死になさいよ! ボクの代わりに喰われなさいよぉぉっ!」


 味方を盾にして逃げ惑うネロの背後へ、キメラの毒針が音もなく迫る。


「きゃあああっ!?」


 ドガァァァァァンッ!!


 寸前で紅蓮の業火が閃き、キメラの胴体を一刀両断にした。大剣を振るったセリアは、床にへたり込んだネロを、氷のように冷徹な真紅の瞳で見下ろした。


「……見損なったよ」


 低く冷たい声が、怒号の響く広間に突き刺さる。


「味方を突き飛ばして逃げるような奴はさ……『レッドアイズ』の看板を背負う資格なんざ、爪の先ほどもありゃしないんだよ」


「セ、セリアマスター……? ボ、ボクは――」


「黙りな。あんたは今この瞬間をもって――クビだよ。二度とあたしたちの前にツラ見せるんじゃないよ!」


 非情な宣告に、ネロは顔面を土気色に変えて項垂れた。エリート鑑定士の権威が、地に堕ちた瞬間だった。


 周囲では、キメラの群れが一斉に咆哮を上げ、生き残りを根こそぎ喰らうための総突撃の態勢に入っていた。


 誰もが死を覚悟し、絶望に目を閉じる。だが――そんな極限の中、俺は冷静に自立六人部隊の状態をスキャンし終えていた。


(……戦力は、完全に揃っているな)


 仲間たちの背中を見つめ、俺は確かな手応えに口元を吊り上げた。


 まず、前衛アタッカーのミラ。合同訓練と激戦を経て、【主脈Lv.3】の基礎枝脈がコンプリート寸前に達している。一撃の安定性と破壊力は、並のLv.4アタッカーを遥かに超えていた。


 次に、テイマーのミミィと白銀。ミミィに新スキルの覚醒はまだないが、ロイス直伝の脱力と体幹操作で、立ち回りのキレが別次元になっている。何より白銀のLv.アップが凄まじく、広域凍結の拘束力と精度は群を抜いていた。


 斥候のライラは、すでに【主脈Lv.3】の枝脈を完全にコンプリート寸前。極限まで無駄を削いだ歩法は、主脈Lv.4の斥候を凌駕している。


 前衛タンクのアークは、Lv.2の基本3スキルを完璧に使いこなす。この防衛戦の中で、さらにタンク系スキルを1つ獲得していた。主脈Lv.2でありながら、実質Lv.3並の鉄壁の盾役だ。


 極めつけは、専属治癒士のミャロだ。獣人の種族スペックに加え、今回の実戦経験で、早くも自然に【主脈Lv.3】へ昇格していた。


(戦闘経験ゼロの奴隷上がりから、数日でLv.3昇格だと……? 本当に前世の運営の獣人贔屓は狂ってるぜ、公式チートかよ……!)


 内心で歓喜のツッコミを入れつつ、俺は一歩前へ踏み出した。


 アークが大盾を構え直す。ミラが大槌を握り締める。ライラがダガーを抜き、ミミィと白銀が前を見据え、ミャロが不敵に爪を研ぐ。


 準備は、完全に整った。


「ここからだな……」


 絶望に沈む広間の中心へ、俺は堂々と歩み出た。


「エリート様方。……そろそろ、本物の戦い方ってやつを教えてやるよ」


 魂の奥底に眠る全権能のリミッターを、力ずくで引き抜く。


(――制限完全解除。【戦域統率《バトル・タクト》】、全域展開ッ!!)


 ドクンッ……!


 瞬間、俺の身体から波動が噴き上がり、大空洞全体を駆け抜けた。

<重要なお願い>

冒険の先が少しでも気になった方は、リアクション、☆、ブックマークお願いしますm(__)m


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