第54話:決起!!レッドアイズ連合
「ただいま。戻ったぞ」
夜のレッドアイズ本部に、俺は豹人族の美女――ミャロを連れて帰還した。書類を提出し、正式に直属パーティの専属治癒士として登録を済ませてある。
「ふぇぇ! 新しいお仲間さんですかぁ!? 私、前衛戦士のミラって言いますぅ!」
「私はミミィ! こっちは相棒の白銀ちゃん! わぁ、耳も尻尾もフサフサでかっこいい〜!」
「アークと申します。前衛の盾役を務めております。よろしくお願いいたします!」
食堂に集まった面々が、三者三様にミャロを歓迎した。
部屋着から規格外の双丘を零れさせて手を振るミラ。
尻尾に興味津々で目を輝かせるミミィ。
礼儀正しく一礼するアーク。
「チッ……妙な掃き溜めね。まあ、あの薄暗い地下牢で腐るよりはマシかい」
ミャロは豹耳をピクリと動かし、腕を組んで鼻を鳴らした。
「これで……ついに揃ったな」
俺は面々を見渡し、胸の内で静かに拳を握りしめた。
前衛アタッカー:ミラ(主脈Lv.4・戦士/潜在Lv.8)
前衛タンク:アーク(主脈Lv.2・戦士/潜在Lv.4)
斥候・暗殺:ライラ(主脈Lv.3・アサシン/潜在Lv.6)
テイマー兼中距離:ミミィ(主脈Lv.3・テイマー+ランク6白銀狼王/潜在Lv.6)
専属治癒士:ミャロ(主脈Lv.2・精霊呪療士/潜在Lv.6・聖霊導医)
全体指揮とスキル調整:マルク
前世の『マスターズ・レギオン』には及ばずとも、バランスの良い『六人編成』がここに完成したのだ。
「よし! 大規模レイド演習に向けて、地下訓練場で連携訓練を行うぞ! ミャロの霊気治癒のタイミングも合わせる必要があるからな!」
「おおっ!」
全員の声が揃い、俺たちは地下訓練場で深夜に及ぶ追い込み訓練を開始した。アークの精密な【受け流し】を起点に、ミラの豪快な踏み込み、ライラの死角からの牽制、ミミィと白銀の挟撃が目まぐるしく交差する。
当初、俺は戦闘経験のないミャロが、この過酷なペースについてこられるか危惧していた。
だが――。
「おい前衛! 右の隙が空いてるよ! さっさと足元を固めな!」
「は、はいっ!」
ミャロは獣人特有の動体視力と鋭い嗅覚で戦況を瞬時に把握し、ノータイムで霊気バフと即時治癒を前線へ飛ばしていた。
(戦闘経験ゼロの素人のはずなのに、初日からこの動きだと……!?)
俺は開いた口が塞がらなかった。
(前世のゲームでも獣人は露骨に優遇されていたが……この世界でも運営の獣人贔屓がひどすぎるだろ……!)
理不尽な種族スペックに内心でツッコミを入れつつ、訓練は日付が変わる直前まで続けられた。
◇
全員の調整と特訓を終えた俺は、体力が完全に底をつき、這う這うの体で自室のベッドへ倒れ込んだ。
「あー……死ぬ……全身の筋肉が軋んで、指一本動かせねぇ……」
天井を見上げて限界の溜息を吐いていた、その時だった。ガチャリと扉が開き、薄着の部屋着姿の女性陣が雪崩れ込んできた。
「先生〜! お疲れの先生のために、みんなでマッサージしてあげますねぇ!」
「ちょ、ミラ!? お前たち、その格好は……!」
制止する間もなく、ベッドの上に三人の美女が飛び乗ってきた。
むにゅうぅぅぅんっ……!!
「ぶふっ!?」
まず、ミラの柔らかすぎる超爆乳が、背中と後頭部に容赦なく押し付けられた。
「ふぇぇ、先生、背中がすごく張ってますぅ! もっと力を抜いてくださいねぇ!」
揉み解されるたびに、暴力的な弾力と甘い香りが脳髄を揺さぶる。さらに、生足ショートパンツのミミィが俺の腰に跨がってきた。
「私は足腰を踏んであげますね! よいしょ、よいしょ!」
引き締まった太ももと汗ばんだ素肌が密着し、健康的な温もりが直に伝わってくる。
「ふん、情けない声を出しちゃってさ。あたしが極上のツボを教えてやるよ」
とどめとばかりに、ミャロが妖艶な肢体をくねらせ、俺の肩口へ指を滑り込ませてきた。グリグリッと痛烈に秘孔を突かれ、耳元に熱く蠱惑的な吐息が吹きかけられる。
(だ、誰か助けてくれ……ッ!!)
超爆乳、眩しすぎる生足、大人の危険な色香。怒涛の波状攻撃に、疲労回復どころか全身から冷汗が噴き出し、脳内に非常警報が鳴り響く。
(だ、駄目だ! こんな刺激に耐えられるか……!!)
俺は血涙を流し、心の底から固く決断した。
(明日の朝一番……もう一度高級娼館へ駆け込むしかない……ッ!!)
その時――。
扉の隙間から部屋の惨状を目撃したアークが、顔面を真っ赤に沸騰させていた。
「う、うわあああああああッ……!?」
初心な十五歳には劇薬すぎる光景だった。アークは部屋を飛び出し、夜の中庭へ全力疾走していった。
そして――。
「うおおおおおおおおおおッ!! 全集中ッ! 雑念退散ッ!! うおおおおおおッ!!」
満天の星空に向かって絶叫し、狂ったように剣を素振りするアークの雄叫びが、夜の静寂を切り裂いた。
(アーク……本当にすまん……ッ!)
マッサージの快楽と苦悶に悶えながら、俺は心の中で少年に深く謝罪した。
(お前も男として……今まさに極限の試練と戦っているんだよな……!)
男二人の命懸けの葛藤も露知らず、女性陣は呑気に顔を見合わせていた。
「ふぇぇ? アークさん、こんな夜遅くにすごく熱心ですねぇ」
「若い男は元気があり余ってて結構なことじゃないかい。ほらご主人様、次は腰の奥を解してやるよ」
「ぎゃああああああっ!!」
奇妙な連帯感の中、一行はいよいよ悪意渦巻く『大規模レイド演習』へと乗り込むのだった。
◇
「いいかい、あんたたち! 全員揃ったね!」
レッドアイズ本部の大会議室に、セリアの凛とした怒声が響き渡った。
長机には、王都近郊に口を開ける大迷宮――『黄昏の巨石回廊』の攻略マップが広げられている。セリアを筆頭に、前衛隊長のガイン、斥候頭のロイス、重装歩兵のヴォルク、後方支援のリアーチカ、専属鑑定士のネロが顔を揃えていた。
その対面には、俺の直属部隊――ミラ、アーク、ライラ、ミミィ(+白銀)、そして新加入のミャロが整列している。
セリアは腰の長剣の柄に手を置き、長机をバンッと叩いた。
「明日の『大規模レイド演習』は、ただの合同訓練じゃないよ。あたしたち平民クランを見下す貴族どもを、叩きのめす絶好の舞台だ!」
セリアの瞳には、獰猛な野心がギラギラと燃え盛っていた。
「圧倒的な戦果と最速踏破を叩き出して、クランランクを一段引き上げてやる! 王都中にあたしたちの名を刻みつけてやるんだよ!」
「はっはっは! いいねぇマスター、そうこなくっちゃ面白くねぇ!」
ガインが豪快に笑い、戦斧を肩に担ぎ直す。
「……で、マルク。あんたの直属部隊の仕上がりはどうなんだい? 新入りを二人も連れ込んできたって聞いたが」
セリアの鋭い視線が、俺の背後の少年と獣人の美女に向けられた。
「ああ。紹介するよ。前衛タンクのアークと、専属治癒士のミャロだ」
促されたアークが、一歩進み出て胸に手を当てた。
「アークと申します。マルク先生の教えを受け、我が命を賭して前衛の盾を務めさせていただきます」
その立ち姿を見た瞬間、ガインとヴォルクの表情がニヤついた。
数日前とは、放つ気迫が根本から違う。
無駄な筋緊張が削ぎ落とされ、足裏から背骨、肩甲骨に至る重心のラインが大地と同化していた。
ただ立っているだけで、城壁を幻視させる『鉄壁の佇まい』だった。
「へッ、いいじゃねえか」
ガインが目を剥いて笑う。
「なかなかその領域に入れる新人はいねぇぞ!」
「ああ」
普段は寡黙なヴォルクすら、眉を跳ね上げていた。
「あれは……本物の『盾』の気配だ」
アークの隣で腕を組むミャロが、気怠そうに豹耳を動かした。
「……ミャロだよ。チッ、面倒な仕事に巻き込まれたもんだね」
悪態をつきながらも、そのしなやかな肢体からは、澄み切った自然霊の魔力が静かに立ち上っていた。
「な、なんて魔力の純度なの!?」
リアーチカが息を呑んだ。
「荒々しくも研ぎ澄まされた治癒の波動! この人、ただの獣人じゃないわ、かなりの導医よ!」
驚愕の声が会議室に満ちる中――ただ一人、部屋の片隅で顔面を真っ青に染めている人物がいた。
専属鑑定士、ネロだ。
(な、何だこれ!? 何が起きているんだッ!?)
ネロは心臓を鷲掴みにされたような恐怖と焦燥で、全身を震わせていた。
(こんな数日で、あの公爵家の落ちこぼれが、どうして歴戦の騎士みたいな気迫を放っているんだ!? あの獣人の女だって、ただの奴隷上がりのはずなのに……なんであんな高位の魔力を纏っているの!?)
最悪のシナリオが、ネロの脳裏を猛スピードで駆け巡る。彼女は『白銀の聖剣』で、アークを無能、マルクをペテン師と罵り、肉壁にしろと密告してきたばかりなのだ。
もしマルクの部隊が本物で、大迷宮で大活躍してしまえばどうなるか。鑑定士としての眼力は地に堕ち、貴族を謀った裏切り者として、王都から抹殺されるのは自分自身だ。
(あり得ない……あり得ないよ!! 三流雑用係が、こんな短期間でこんなに育て上げられるはずがない……!!)
ギリッ、ギリギリッ……!
周囲に悟られないよう、ネロは親指の爪を血が滲むほど強く噛み締めた。
(見てろよ……! どれだけ小手先の技を磨いたところで、大迷宮の深層は甘くない! 絶対に全員無様に圧殺させてやるんだから……!!)
ネロの怨嗟の視線に気づきながらも、セリアは獰猛な笑みを崩さなかった。
「ふん、最高じゃないか! マルク、あんたの直属六人部隊には、今回の演習で『単独遊撃・先行突入役』を任せるよ!」
「了解。期待以上の戦果を持ち帰ってみせますよ」
俺は不敵に笑い、請け負った。
「よし! 野郎ども、武器の手入れを怠るんじゃないよ! 明日の朝一番で、大迷宮『黄昏の巨石回廊』へ乗り込むよッ!」
「おおおおおおッ!!」
割れんばかりの歓声が、大会議室を揺るがした。
セリアの野望、俺の育成、そしてネロの暗い悪意が交錯する中、一行はいよいよ決戦の大迷宮へと駒を進めるのだった。




