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スキルダイバー~追放された深淵の鑑定士は最強レギオンを作り上げる~  作者: 国木田。
動乱のレッドアイズ

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第46話:アーク・ドラグニール(下)

 『主脈覚醒の儀』の狂乱が終わり、大講堂の喧騒が引き潮のように引いていく。高位鑑定士たちも、貴族の生徒たちも、重苦しい空気を引きずって三々五々と立ち去っていった。


 相談席に残された俺は、机に肘をつき、頭を抱えて深い溜息を吐いた。


(……上限Lv.4。どうスキャンし直しても、今視認できる限界値はLv.4止まりだ)


 俺の【深淵透視《ディープサーチ》】は、他人の魂の深淵を100%の精度で見抜く。


(専属タンクとして想定している最低ラインは、潜在限界Lv.6以上……できればLv.7だ。Lv.4じゃ、とてもじゃないが話にならん)


 アタッカーには、潜在限界【主脈Lv.8】の勇者候補ミラ。中衛には、ランク6の白銀狼王を手懐けたテイマー・ミミィ。索敵と暗殺は、大司教直属の精鋭アサシン・ライラが担う。


 そんな怪物が揃う前線に、潜在限界Lv.4のタンクを放り込めばどうなるか。大迷宮の深層や、悪魔『V.O.L.P.S』の手先との実戦で、真っ先に盾ごと圧殺されて崩壊するだろう。


「……マルク様。難しいお顔をされていますが、あのアーク・ドラグニール様に何か気になる点でもおありですか?」


 背後のライラが、感情の読めない瞳で静かに問いかけてきた。


「……いや。なんでもないさ」


 俺は言葉を濁し、視線を逸らした。「あいつは凡骨に見えるが、実は……」などと、根拠もなく語ることはできなかった。


「ライラ、少し付き合え。あいつの顔をもう一度見ておきたい」

「かしこまりました」


 学園の廊下を抜け、人の途絶えた最上階の階段を駆け上がる。重い鉄扉を押し開けると、夕暮れの冷たい風が頬を叩いた。茜色に染まる王都を見下ろすように、屋上のフェンス際に見慣れた分厚い背中が佇んでいた。


「……アーク」


 声をかけると、少年はびくりと肩を震わせ、慌てて袖で両目を擦った。振り返ったアークの目元は、真っ赤に腫れ上がっていた。


 だが、俺を認識した瞬間、彼は即座に背筋を伸ばし、胸に手を当てて居住まいを正した。


「……これは、教会の神官様。先ほどはお見苦しい結果をお見せしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」


 声はかすれ、微かに震えていた。それでも、礼節には一切の乱れがない。


「一人で泣いていたのか?」

「……恥ずかしながら。己の不甲斐なさに、少しばかり涙が零れてしまいました」


 アークは自嘲気味に口元を歪め、夕日の空を見上げた。


「……これから、どうするつもりなんだ? 公爵家からは何か言われたのか?」


 アークは、力なく首を横に振った。


「娯楽小説のように、即座に勘当されたりはしません。我が家は王国屈指の武門、『ドラグニール公爵家』。体面が何よりも重んじられますから」


「……つまり、どうなるんだ?」


「名門の恥を外に晒さぬよう、一生屋敷の奥で飼い殺しにされます」


 アークは淡々と続けた。


「政略結婚をさせられ、血筋を繋ぐ種馬として、何一つ為せずに朽ちていく……それが、私に定められた現実です」


 その拳は、爪が掌に食い込んで血が滲むほど固く握りしめられていた。


「だが……お前は、その運命を受け入れるのか?」

「――いいえ」


 アークは顔を上げた。

 その瞳の奥には、絶望の涙を焼き尽くすほどの、澄んだ決意の炎が宿っていた。


「私は今夜、屋敷を出て冒険者になります」


「冒険者だと? 公爵家の地位も、贅沢な暮らしも全て捨ててか?」


「はい。たとえ私の器が、主脈Lv.4で頭打ちになる凡骨であろうと構いません」


 アークは拳を胸に当てた。


「幼い頃から、人々を守りたいと剣を振るい続けてきました。泥に塗れてでも、この命を懸けて民の盾になりたいのです!」


 少年の魂の叫びが、屋上の風に乗って響き渡った。


(……くそっ、なんて真っ直ぐな奴だ)


 胸の奥が熱く締め付けられる。俺はもう一度、アークの胸元へ意識を集中させた。


(――【深淵透視《ディープサーチ》】)


 鑑定眼が、上位鑑定士ですら簡単に到達できない魂の最深部へと潜行していく。その瞬間、視界の奥底で、魔力のノードがピクリと脈動した。


(……やはり、高位鑑定士たちは一つ見落としをしている……)


 三人の高位鑑定士たちが見落としていた、隠しノード。主脈Lv.4の終端、本来なら行き止まりのはずの場所に、異常な光を放つ特殊職業が刻まれていた。


(主脈Lv.4で解放される上位職――【天騎士】!!)


 脳裏に、前世の『マスターズ・レギオン』の記憶がフラッシュバックした。


(間違いない……! このツリーの歪み方、俺がゲーム時代に率いていた四天王の一角――『黄金天騎士《ゴールド・ロードナイト》リアンナ』と全く同じ構成だ!)


 前世のゲームには、「限界突破仕様」を持つNPCが存在した。初期の潜在限界値は低い。だが特殊な覚醒条件を満たせば、魂の枠そのものを拡張して上限Lv.を引き上げられる隠し仕様だ。何を隠そう、四天王リアンナもまた、限界突破キャラクターだったのだ。


 だが――歓喜と同時に、俺は冷酷な現実を思い出して息を呑んだ。


(……当時のリアンナの初期限界値は【Lv.6】だった。そこから限界突破してLv.8の怪物になったんだ)


 アークの初期限界値は、紛れもなく【Lv.4】。


(Lv.4からの限界突破なんて、前世のゲームでも前例がないぞ……! あまりにもギャンブルが過ぎる!)


 前世では、多くのプレイヤーが「こいつは隠しキャラではないか」と夢を見て、意味ありげな低ランクNPCを必死に育成したその結果、九割以上が限界突破を引き出せずに爆死した。育成リソースと時間をドブに捨て、引退していったのだ。


 その苦い歴史から、プレイヤー間には『限界突破を狙うなら、最低でも初期潜在Lv.6以上でなければ割に合わない』という定説が確立された。


(Lv.4のアークを育てるのは、泥沼のガチャに突っ込むようなものだ。トリガーが引けなければ、ただのLv.4の壁役で終わる……)


 理性が、「やめておけ」と警告を鳴らす。


 その時、脳裏に懐かしい声がふっと蘇った。


『さぁ、民のため行きましょう、主様――!』


 黄金の鎧を纏い、大盾を構えて前線へ駆け出していく、あの誇り高いリアンナの笑顔。夕日を背に、理不尽な運命に抗って「民を守りたい」と叫ぶアーク。その姿に、俺はかつて共に戦場を駆け抜けた黄金天騎士の面影を、痛いほど強く重ねていた。


(……ふざけるな。何が定説だ。何がリスクだ)


 俺は心の中で獰猛に笑った。


(俺のガチャ運は前世から終わっているが――こういう育成の勝負どころで、俺の『ゲーマーの勘』が外れたことなんて一度だってあったか!?)


 何より、このアークの真っ直ぐな眼差しと高潔な魂を、見捨てることなど到底できなかった。


「……アーク」


 俺は一歩、少年に歩み寄った。


「は、はい……?」


「お前、さっき『民の盾になりたい』と言ったな」


「ええ……! 嘘偽りはありません!」


「名門公爵家の地位も、家族も、過去の栄光も全部捨てて、泥水を啜りながら地獄の特訓に耐える覚悟はあるか?」


 アークは息を呑んだ。

 だが、その瞳に迷いは一瞬たりとも浮かばなかった。


「たとえこの身が引き裂かれようとも、覚悟の上です!」


「よし」


 俺はニヤリと笑い、少年に右手を差し出した。


「なら――俺のパーティに来い、アーク。世界中がお前を『無能の凡骨』と見捨てようと、俺だけはお前の真の価値を知っている」


「えっ……? し、神官様……?」


 呆然と目を見開くアークに、俺は確信に満ちた声で告げた。


「お前は凡骨なんかじゃない。俺が貴族のくだらない常識をぶち壊して、お前を本物の『黄金の天騎士』に育て上げてやる」


 夕暮れの屋上に、奇跡の始まりを告げる風が吹き抜けていった。

NGシーン

 理性が、損得勘定が、「やめておけ」と警告を鳴らす。


 その時、脳裏の奥から懐かしい声がふっと蘇った。


『さぁ、民のため行きましょう、マルク殿――!』


 黄金の鎧を纏い、大盾を構えて前線へ駆け出していく、あの王国騎士団隊長ガルツの笑顔。


 夕日を背に、理不尽な運命に抗って「民を守りたい」と叫ぶアーク。


 その姿に、俺はかつて共に戦場を駆け抜けたガルツの面影を、痛いほど強く重ねていた。


(……ふざけるな。)


<重要なお願い>

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