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スキルダイバー~追放された深淵の鑑定士は最強レギオンを作り上げる~  作者: 国木田。
下位鑑定士と少女たち

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第4話:潜在能力Lv6の泣き虫少女

「はい、午後の一番の方、どうぞー」


 午後の列が再び並ぶ。俺の前に腰掛けたのは――先ほど壁際で泣きじゃくっていた少女だった。


「あっ……よ、よろしくお願いします……」


 赤く腫らした目を伏せ、少女は消え入りそうな声で頭を下げた。鑑定の現場で泣かれるのには慣れている。特別扱いする気もなかった。だが――間近で彼女の姿を見た瞬間、俺の思考は完全に止まった。


(……ちょ、待て待て待て)


 上半身は薄い革当てだけで、手足も折れそうなほど細く見えていた。だが、短い防具から伸びる太ももは、驚くほど『肉感的』だった。椅子がかすかにきしみ、柔らかい肉の張りが強烈に伝わってくる。


(あんなものを見せられたら、今日の夜は眠れなくなってしまうぞ……)


 俺は表情を引き締め、羽ペンを構えた。


「ええと……お名前は?」

「ミミィ……ミミィといいます」

「はい、ミミィさんね。本日のお悩みは?」


「あの……同じ時期に冒険者になったクランの仲間たちが、みんな主脈Lv.3に上がって前線で活躍してるんです……」


 そこまで言うと、ミミィの目から再び大粒の涙がこぼれ落ちた。机の上に、小さな水たまりができる。


「なのに、私だけずっとLv.2のままで……新しいスキルも全然覚えられなくて……どうしたらいいか分からなくて……」


「なるほど……」


「最初のLv.2に上がるのすら、人一倍時間がかかったんです……やっぱり私には、才能なんてないんでしょうか……」


 しゃくり上げるミミィを前に、俺の頭の中で計算式が組み上がっていく。


(……仲間が同時期にLv.3へ上がったってことは、パーティ全体でそれなりに危険な戦闘をこなしてきた証拠だ)


 同じ負荷と経験を共有しながら、彼女一人だけ成長が極端に遅れている。


(もしや……典型的な『大器晩成型』なのか?)


 前世の『マスターズ・レギオン』には、酒場で仲間をスカウトする際の『鉄則』があった。序盤の成長に必要な経験値が重い者ほど、後半に解放される潜在レベルの上限が高い。そういう法則だ。


(……確かめる価値はあるな)


 俺の真の職業は、教会の凡庸な下位技能鑑定士《スキルリーダー》などではない

 

 前世の『プレイヤーとしての権限』を宿した、この世界で唯一無二の存在――【技能深淵化士《スキルダイバー》】なのだ。表面をなぞるだけの鑑定士とは違う。魂の深層へもぐり込み、主脈を暴き、枝脈を作り直すことすらできる力だ。


(それでは……その力の一つをお見せしようか)


 俺はミミィの涙を見つめ、心の中で静かに引き金を引いた。


「――【深淵透視《ディープサーチ》】」


 キィンと高い耳鳴りが響く。凍りつくような冷たさの中、俺の意識はミミィの魂の深層へと沈み込んでいった。【深淵透視《ディープサーチ》】は、魂の器が許す『主脈の限界値《ポテンシャルキャップ》』を暴き出す技能だ。


 暗闇の奥を、ミミィの主脈へ黄金の光が伝っていく。


 Lv.3を軽々と越え、Lv.4を通過。さらにLv.5を突き抜け――光の大樹は【Lv.6】の領域に届いて静止した。


(各国の筆頭騎士団長クラス……Lv.6だと!? やっぱり大当たりだ!)


 こんな出張所で埋もれていていい器ではない。さらに俺は、主脈の根元に刻まれた職業名《クラスノード》へ視線を走らせた。


(……おお? こいつ、しかもレア職業持ちじゃないか……!)


 踊り出しそうな感情を押し殺し、俺は深く息を吸い込んだ。


「……よし、落ち着いて聞いてくれ、ミミィさん」


 努めて穏やかな声を作る。


「は、はい……」


「正直に言うと、君が【主脈Lv.3】に上がるのは、まだ先の話だ」


「そ、そんな……やっぱり、私には才能が……」


 再び涙をこぼしそうになるミミィに、俺はすかさず言葉を重ねた。


「早とちりしちゃいけない。主脈の上がりが遅いのは、君の器が大きい証拠だ」


 ミミィが顔を上げる。


「それより……君のツリーには今、複数の【枝脈】が同時に芽吹きかけている」


 正確には3つのスキルが開花しかけているが、混乱を避けるため数は伏せておく。


「枝脈が……? でも、私には新しい技なんて全然……」


「主脈の数値ばかりが強さじゃない。枝脈を一つ獲得するだけで、戦闘力は格段に上がるんだ」


 俺は言葉を続けた。


「君の枝が実れば、主脈がLv.2のままでも、Lv.3の冒険者と並ぶ活躍ができるはずだ」


「本当ですか……!? 私、まだ戦えるようになれますか……!?」


「ああ、保証するよ」


 俺は微笑んだ。さらに、彼女の珍しい職業を開花させるための布石を打つ。


「ところでミミィさん、君は動物は好きかい?」


「えっ……? は、はい! 犬も猫も、馬も大好きです!」


「なら、できるだけ動物と触れ合う時間を作るといい。動物の世話や家畜の護送の依頼があれば、積極的に受けておくんだ」


「動物のお世話……? わかりました! 私、やってみます!」


 さっきまでの絶望が嘘のように、ミミィは顔を輝かせて深々と頭を下げた。


 その後、午後の巡礼鑑定は冒険者や傭兵たちに絶賛され、大盛況のうちに幕を閉じた。


◇


 夜。


 静まり返ったオーグの街のウルズ教会。

 俺は神官や職員を礼拝堂から下がらせ、扉を閉ざした。蝋燭の火が、祭壇をぼんやりと照らしている。祭壇に置かれた、ウルズ教の『ご神体』の前に立つ。精神を研ぎ澄まし、額に指を当てて念を送り込んだ。ご神体は信仰の対象であると同時に、教会本部と秘密裏に交信する通信機でもあった。


 波長を合わせ、脳内にノイズが走った瞬間、俺は念じた。


(――マスター、聞こえますか)


『……繋がりましたね、マルク。巡礼の初日、ご苦労様でした』


 頭の中に響いたのは、威厳と冷徹さを併せ持つ、聞き慣れた女性の声だった。赤ん坊の頃、教会の前に捨てられていた俺を拾い、育て上げてくれた義理の母。そして、教会の大幹部だ。


(報告があります。本日、主脈【Lv.6】、さらに希少職【テイマー】の潜在能力を持つ原石を発見しました)


(……主脈Lv.6ですので、教会が捜索している『勇者』にはなり得ませんが、極めて強力な才能です)


『主脈Lv.6のテイマー……ふふ、初日から上々の収穫ですね。よくやりました、マルク』


 母の声が、微かに満足げに揺れる。


『その娘――ミミィは、教会の者が密かに監視下に置き、しかるべき対応をとります。あなたはこれ以上深入りする必要はありません』


(了解しました。……それでは、通信を――)


『待ちなさい、マルク。もう一つ指示があります』


 通信を切ろうとした俺を、母の声が制した。


『現在、オーグの街の周辺一帯で、魔物の異常な増加が報告されています。近いうちに、ギルド主導で大規模な討伐が実施されるはずです』


『……あなたも教会鑑定士として、その討伐に参加しなさい』


(討伐への参加……!?)


 俺は思わず眉をひそめた。危険な前線など、ご免被りたいのが本音だ。

 だが――俺は即座に思考を巡らせた。


(待てよ……大規模な討伐戦の混乱、大量の魔物、そして多数の冒険者のスキルツリーが活性化する現場……)


 それはまさに、【技能深淵化士《スキルダイバー》】の隠された権能を使うための条件を、完璧に満たす環境だった。


(……断る理由がなくなっちまったな)


 俺は内心で苦笑し、ご神体に念を送った。


(……了解しました、マスター。討伐に参加し、役目を果たします)


『期待していますよ、マルク』


 ぷつりと念波が途切れ、礼拝堂に静寂が戻った。

 俺は暗がりの中で、自らの手のひらを静かに見つめ直した。


◇


(マスター――エレオノーラは、俺の能力をほぼ正確に把握している)


 宿の硬い寝台で目を覚まし、俺は昨夜の通信を思い返していた。


 育ての母、エレオノーラ。彼女は俺のすべてを知っている。俺がただのLv.3鑑定士ではなく、常識外れの育成と深淵への干渉能力を秘めていることもだ。だからこそ、たまにこうして危険な任務を平然と放り投げてくる。


「……まあ、断れない立場なのは百も承知なんだがな」

メインヒロインの一人、ミミィの登場です。


<重要なお願い>

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カクヨム様でも掲載させていただいております。

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