第43話:盾職《タンク》の原石を発見せよ!!
「いっち、にっ、さんっ、しっ! 肩甲骨を下げて、息を吐きながら小さく骨盤を回す!」
「ふぇぇ……いっち、にぃ、さん、しぃ……! せ、先生、これで合ってますかぁ……!?」
「ご、ろく、しち、はち! 先生、以前より動きがすごくコンパクトになりましたね!」
レッドアイズ王都本部の中庭に、朝の掛け声が響き渡っていた。
ミラとミミィだけでなく、ガイン、ロイス、ヘレナ、そしてヴォルクまでが並んで『スキル体操』を反復している。
だが、ガインが太い首を傾げ、腕を組んで声をかけてきた。
「おいマルク、今日の体操、前とフォームが変わってねぇか? 腕の振りも腰の落とし込みも、ずいぶん小さくなってるが……」
「俺も思った! 魔力伝達を高める最新バージョンってやつか!?」
ロイスが目を輝かせて食いついてくる。
「……え、ええ、まあ……効率化を追求した結果の微調整だよ」
俺は引きつった笑いで、曖昧に頷いた。
(最新バージョンなわけあるか……! 理由なんて一つしかねぇよ!)
ミラの服を突き破らんばかりの爆乳と、ミミィの引き締まった太もも。それが従来のダイナミックな体操で激しく波打てば――朝から直視に耐えられないレベルの『歩く公害級お色気テロ』が、中庭で発生してしまう。俺の鼻血と理性を守るため、動きの振り幅を極限まで抑えた省エネ仕様に変えただけだった。
屋敷の窓際から、ヒソヒソと冷ややかな声が漏れ聞こえてきた。
「……ねえ、見てよ。またあの変な体操をみんなでやってるわ」
「前任のくせに居座ってさ……ネロ先生が来て忙しいのに、また余計な仕事が増えるんじゃないの?」
「本当よね。クランをクビになった下級鑑定士の分際で、偉そうに指図して……恥ずかしくないのかしら」
事務や経理を担う間接部門のスタッフたちだ。
(まあ……間接部門の連中からすりゃ、俺の評価なんてそんなもんだよな)
俺は苦笑交じりに息を吐いた。表向きの俺は、三流の教会鑑定士だ。そんな男がネロを差し置いてでかい顔をすれば、厄介者に見えて当然だった。
「よし、今朝の体操はここまでだ!」
「はいっ!」
二人の声が揃った。汗を拭う二人にタオルを渡し、俺は集まってきたガインたちを振り返った。
「ガイン、ロイス、ヘレナ、ヴォルク。今日から数日間、ミラとミミィの面倒を見てやってくれないか」
「あん? マルク、お前は一緒に来ねぇのか?」
ガインが腕を組み、不思議そうに眉を寄せる。
「ああ。俺は教会の定期業務の『巡礼鑑定』で、王都中を回らなきゃならない。ライラだけ連れていくよ」
「ふぇぇ……先生と離れ離れですかぁ……?」
不安そうに眉を八の字にするミラ。子犬を抱えて寂しそうにするミミィ。俺は二人の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だ。修羅場をくぐってきた先輩たちと訓練するのは、何物にも代えがたい経験になるからな」
「おう、任せときな! うちの看板として恥じないように、みっちり王都の立ち回りを叩き込んでやるぜ!」
ガインが豪快に胸を叩き、ヴォルクも静かに頷いた。
「先生、いってらっしゃいですぅ! 訓練、一生懸命がんばります!」
「白銀ちゃんと一緒にお留守番してるね!」
二人の元気な声に見送られ、俺とライラは本部を後にした。巡礼鑑定の依頼書を片手に、冒険者ギルドや大通りの酒場を巡り始める。表向きは教会の巡礼業務だ。だが真の目的は、自立パーティに必要な【専属の盾役】の発掘だった。
「次の方、どうぞ」
広場の巡礼テントで、俺はやってくる冒険者たちの肩に手を置き、次々と【深淵透視】を展開していった。
(……【主脈Lv.3】、潜在限界もLv.3止まり。枝脈の伸ばし方が無計画でぐちゃぐちゃだな)
(次……主脈Lv.2の重装戦士。攻撃スキルばかり優先して、タンクに一番重要な【体軸維持】や【ガード・パリィ】を完全に腐らせている……これじゃ壁役にならん)
何十人とスキャンしても、凡庸なツリーばかりだった。
(……はぁ、やっぱりそう簡単にはいかないか)
大都市レ・ルミナスといえど、ダイヤの原石が道端に転がっているはずもない。俺は長く王都で巡礼鑑定をしてきた。頭角を現した前衛は、とっくに大手クランや騎士団に囲い込まれている。
ガインを見出した時も、彼はすでに荒削りながら実力を発揮していた。
完全に落ちこぼれとして埋もれていた『本当の原石』を発掘できたのは――治癒士として覚醒したリアーチカを含め、過去にほんの数人しかいないのだ。
夕暮れ時、露店の片付けが始まる中、俺は石畳のベンチに腰を下ろして深く溜息をついた。
「これは難しいな……都合よく高ポテンシャルの未覚醒タンクが見つかるわけもないか」
俺は空を仰いだ。
「ある程度才能には目を瞑って、スキル体操と【経験値注入】で無理やり土台を底上げして育てるしかないか……」
項垂れる俺の隣で、記録用の羊皮紙をめくっていたライラが淡々と告げた。
「……マルク様。本日の予定は終了ですが、明日の巡礼鑑定の対象先についての連絡が入っております」
「ん? 明日はどこだ? 商業ギルドの倉庫番か?」
「いえ。明日の巡礼先は――『王国貴族学園』の生徒たちとなります」
「――何!?」
俺は思わずベンチから跳び起きた。
「王国貴族学園の生徒たちだと!?」
王国貴族学園。王都中の名門貴族の令息令嬢や、推薦を受けた特待生が集まる最高峰の教育機関だ。才能が集まる場所だ。噛み合わせが悪く『落ちこぼれ』と烙印を押された大器晩成の原石が、眠っている可能性は高い。
「……ライラ、明日の準備を急ぐぞ」
「はい、マルク様」
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