第39話:王都への道
「止まれぇぇっ! 魔獣だ! 前方の街道が塞がれているぞ!」
御者の怒号とともに、幌馬車が急停止した。全員の身体が前のめりになる。
「うわっと……! 何事だ!?」
「きゃあっ!? ふぇぇ、先生ぇぇ……!」
前のめりになったミラの超爆乳が、俺の顔面に直撃した。視界が一瞬で、極上の柔らかさに包まれる。
「ひゃぅっ! せ、先生、大丈夫ですか……!?」
逆隣のミミィも、太ももを密着させて子犬を抱きしめ、身構える。
「ぐほっ……だ、大丈夫だ! それより外の様子はどうなってる!?」
俺は鼻血を耐えてミラの胸元から顔を離し、幌の隙間から外を覗き込んだ。前方では、先行していた大型商人隊の荷馬車が横転していた。護衛の冒険者たちが、血を流して倒れ伏している。
その商人隊を取り囲むように、十数頭の漆黒の巨影が森の奥から姿を現していた。
「グルルルルァッ……!」
黒紅の強靭な筋肉と、血走った赤い双眸。
通常のフォレストウルフとは一線を画す上位種――『ヘルウルフ』の群れだった。
「……あいつらは、オーグの防衛戦で白銀狼王の消失に伴って散り散りになった群れの残党ですね」
ダガーを抜いたライラが、冷徹に分析する。
「王を失って統率を欠いた上位個体が、飢餓に狂って街道の商人隊を襲撃しているようです」
ミミィの膝の上の子犬がピクリと耳を立て、かつての配下の暴走に低く唸った。
「くぅ……ぐるるるっ」
「あの子たち、お腹が空いて我を忘れてるんだね……」
ミミィが悲しそうに子犬の頭を撫でる。
「残党狩りかい! ちょうど腹ごなしに身体を動かしたかったところさ、あたしの大剣で一気に叩き割ってやるよ!」
セリアが紅蓮の大剣を担ぎ、馬車のステップへ足をかけようとした。
だが――俺は素早くセリアの肩を掴んで制止した。
「待て、セリア。ここは俺たちに任せてくれ」
「あん? 何を言ってるんだい、あいつらはただの野良犬じゃないよ。ヘルウルフだ!」
「知っているさ。だからこそ、契約通り俺たち『4人特務ユニット』の実戦テストをやらせてもらう」
俺は後ろの三人を振り返り、現在のスキル構成を頭の中で展開した。
名前:ミラ
職業:戦士(主脈Lv.4)
Lv.1:【荷運び】【体軸維持】【足腰強化】
Lv.2:【ヘビーチャージ】【ガード・パリィ】【ステップ・イン】【武器受け】【ジャンプ】
Lv.3:【爆砕連撃】【剛力破砕】
Lv.4:【剛力解放】
名前:ミミィ
職業:テイマー(主脈Lv.3)
Lv.1:【荷運び】【体軸維持】【足腰強化】
Lv.2:【ヘビーチャージ】【ガード・パリィ】【ステップ・イン】【ジャンプ】【ダメージ軽減】【ハイ・コンセントレーション】
Lv.3:【職業:テイマー】【魂魄の誓約】【使役空間】【精神感応】【生命リンク】
名前:ライラ
職業:アサシン(主脈Lv.3)
Lv.1:【物音消し】【指先感覚】【視力補正】
Lv.2:【投擲】【麻痺毒針】【気配遮断】
Lv.3:【急所穿ち】【影縫い】【腱断ち】
「セリアたちは商人隊の救護と、街道後方の警戒に回ってくれ。あいつらは俺たちの連携だけで片付ける」
「……へぇ、ずいぶんと自信満々じゃないか。いいよ、見せてもらいな!」
セリアが腕を組んで下がる。俺は意識を魂の奥底へ潜行させた。
(いくぞ……制限解除――【戦域統率】展開!)
不可視の指揮官オーラが、三人の全身を包み込む。基礎筋力・敏捷性・魔力伝達効率が、一律10%底上げされた。
「ミラは正面を粉砕! ミミィは狼王(子犬)と足止めと退路遮断! ライラは死角から【急所穿ち】だ! 『スキル体操』の脱力を忘れるなよ!」
「はいっ!」
三人の声が重なり、同時に馬車を飛び出して地を蹴った。
「グルァッ!?」
ヘルウルフの先頭三頭が、牙を剥いて跳躍してきた。
「ミミィ、左の二頭を止めろ!」
「はいっ! 【ジャンプ】ッ!」
ミミィが【ジャンプ】の跳躍力で木立へ飛び上がる。空中で、テイマーの固有スキル【精神感応】を発動させた。
ミミィの肩から飛び出した銀色の子犬が、空中で小さな口を大きく開く。
「きゃんっ!」
カチィィィンッ!
子犬の口から放たれた極小の氷雪嵐が、地面に着弾した。突進してきた二頭のヘルウルフの四肢が、一瞬で分厚い氷に閉ざされる。
「グルァッ!?」
足元を奪われた魔獣の頭上へ、巨大な影が音もなく落ちてきた。
「えぇぇぇいっ! これでも喰らいなさいですぅぅぅっ!!」
ミラの戦槌が、大気を引き裂く轟音とともに振り下ろされる。
Lv.1【荷運び】【体軸維持】で脱力した骨格から、Lv.4【剛力解放】とLv.2【ヘビーチャージ】が完璧に連動して炸裂した。
ドッゴォォォォォンッ!!
大地が直径五メートルにわたって陥没した。ヘルウルフの頭骨ごと肉体が粉砕され、光の粒子となって吹き飛ぶ。
「なっ……!? 一撃で上位狼をミンチにしやがった……!?」
後方のガインが目を剥いた。
混乱した残りの狼たちが、尻尾を巻いて森へ逃げ出そうとする。
「逃がすなライラ! 首筋の急所を突け!」
「了解。【物音消し】――【急所穿ち】」
風が抜けるような無音の足取りで、ライラが逃げるヘルウルフの真上へ滑り込んだ。アサシンの精密な身体操作から繰り出された短剣が、俺の指定した首筋の魔力結節へ正確に突き刺さる。
ドスッ!
残る二頭のヘルウルフが、声も上げずに崩れ落ちて絶命した。
戦闘開始から、わずか数分。
十数頭のヘルウルフの群れは、跡形もなく殲滅されていた。
「はぁ……はぁ……! せ、先生、倒せましたぁ……!」
満腹でパワーみなぎるミラが、大槌を担ぎ直して嬉しそうに微笑む。
「白銀ちゃん、ナイスアシストだったよ!」
「くぅ〜ん!」
ミミィが子犬を抱き上げて頬ずりする。ライラは血を払った短剣を、静かに鞘へ収めた。
「……凄げえな」
馬車の陰から見ていたロイスが、引きつった笑いで頭を抱えた。
「あいつら……オーグの防衛戦の時より、さらに動きのキレが増してやがらねぇか……!?」
「ああ……いい連携だ。数日でここまで仕上げるなんて、どんな調整をしやがったんだマルクは……」
歴戦の盾役ヴォルクすら、感嘆の息を漏らして首を振る。
セリアは紫煙をふぅっと吐き出し、苦々しく、だが満足そうに口端を吊り上げた。
「……フン、莫大な飯代を払わされてるだけの成果は見せてもらったよ。看板としてはまだまだだが、戦力としては上出来さね」
俺は毛皮と魔石を回収し、こっそり【アイテムボックス】へ放り込んだ。
(よしよし……魂のストックに、モンスターの経験値がちょっとは溜まったぞ)
再び満たされていくストックゲージを確認し、俺はライラへの経験値注入に向けた手応えを感じていた。
「あ、ありがとうございましたぁぁっ! 命の恩人です!」
商人たちが涙を流して駆け寄り、謝礼金の革袋を手渡してきた。
「セリア、ほらよ。これでさっきのミラの昼飯代の一部はチャラだぞ」
「へっ、ちゃっかり稼ぎやがって。まあ、受け取っておくよ」
商人たちの歓声に見送られ、幌馬車は夕暮れの街道を再び快調に進んでいった。そして――地平線の向こうに、夕日を浴びて黄金に輝く白亜の城壁が姿を現した。王国の中心にして、あらゆる冒険者と権謀術数が渦巻く大都市――『王都レ・ルミナス』。
その威容が、いよいよ目の前に迫っていた。
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