第38話:3人娘と経費精算
ガタゴトと車輪をきしませ、大型の幌馬車は王都レ・ルミナスへ続く街道をひた走っていた。乗り込んでいるのは、俺、ミラ、ミミィ、ライラ。そしてレッドアイズのセリア、ガイン、ロイス、ヘレナ、ヴォルク。計九名と、一匹の子犬だ。
「うぐっ……ちょ、ちょっとミラ、狭い……!」
「ふぇぇ……ご、ごめんなさい先生ぇ……! 私、身体が大きくて……!」
ぎゅうぎゅう詰めの座席で、俺の右腕にミラの超爆乳がムギュッと押し付けられていた。馬車が段差で跳ねるたび、布地越しに暴力的な柔らかさと質量が波打つ。
逆隣のミミィも、ショートパンツから伸びる引き締まった太ももを、俺の太ももにぴったりと密着させて座り直した。
「先生、私の足、当たって邪魔じゃないですか?」
「じ、邪魔じゃない! 全然大丈夫だから気にするな!」
俺は天井を仰ぎ、必死に鼻血を堪えていた。
(いかんいかん、このままじゃ王都に着く前に俺の理性が爆発炎上しちまう……! 仕事だ、仕事に集中するんだ!)
雑念をねじ伏せるため、俺は三人のスキルツリーを鑑定することにした。
「よし、王都での戦いに備えて、三人の現状を【深淵透視】で確認しておくぞ」
「はいっ! お願いします先生!」
「ふぇぇ、よろしくお願いしますぅ……!」
ミラの背中に手を触れ、魂の深淵へ潜行する。黄金に輝くスキルツリーが広がっていく。
(おおっ、防衛戦を経て、また一段と幹が太くなっているな)
Lv.4に昇格したばかりなのに、もう次の【主脈Lv.4の強力な新枝脈】がアンロック寸前まで芽吹いていた。主脈Lv.が上がれば、高威力のスキルが手に入る。一方で、下位の枝脈をすべて習得する【コンプリート】を達成すると、基礎ステータスに大きな全体補正がかかる。
(Lv.4の新スキルで一撃をさらに伸ばすか、Lv.3の基礎枝脈をコンプリートさせて安定性を底上げするか……嬉しい悩みどころだな)
育成の選択肢を頭に刻み、次にミミィの背中へ手を置いた。
(どれどれ……ミミィのツリーは……って、うおっ!?)
覗き込んだ瞬間、俺は内心で目を見張った。
白銀狼王戦で【主脈Lv.3】に昇格したばかりのミミィのツリーに、テイマー系統の強力な枝脈が、新たに二つも開放されていたのだ。
(さすがはランク6の白銀狼王をテイムしただけあるな! 得られた経験値の桁が違いすぎる)
「くぅ〜ん……わんっ!」
ミミィの膝で丸くなっていた銀色の子犬が、ミラの豊かな胸元とミミィの太ももの間に、甘えるように頭をグリグリと潜り込ませた。
「あっ、こら白銀ちゃん、くすぐったいよぉ……えへへ」
「ふぇぇ、あったかくて可愛らしいですぅ……」
向かいの席のロイスとガインが、半眼になって口を尖らせた。
「おいマルク、あの野郎、かつて樹海を統べた狼王の威厳をどこへ捨ててきやがったんだ?」
「全くだぜ。あんな柔らかい場所に挟まれやがって畜生、犬コロの分際で羨ましすぎるポジション取りしてやがるぜ!」
「お前ら、子犬相手に本気で嫉妬するなよ」
俺は苦笑し、最後に窓際で外を警戒していたライラの肩に手を触れた。
(そういえば、ライラには運営や金策、二人の指導を頼みっぱなしで、スキル指導が後回しになっていたな)
ツリーを見ると、あと一歩で開放できそうな専門系・暗殺系の枝脈がいくつか詰まっていた。
「ライラ、呼吸と重心の切り替えをもう少し意識しろ。専門系の枝脈が通って、【主脈Lv.3】がコンプリートできるはずだ」
「……ご指導、感謝いたします」
ライラは淡々と頷き、無表情のままジッと俺の目を見つめて小声で囁いた。
「マルク様。一つ、ご相談があるのですが」
「ん? なんだ?」
「私もミラ様やミミィ様のように、【経験値注入】によって育成スピードを一段階引き上げていただきたいのですが」
「うっ、いや、俺としてもお前を一気に強化したいのは山々なんだけどな……」
俺は頭をポリポリと掻き、困ったように声を潜めた。
「防衛戦で稼いだストックを、経験値大食らいのミミィが全部吸い取っちまって、今は完全に空っぽなんだよ」
「なるほど。ミミィ様がすべて捕食したのですね」
「そういうことだ。次の討伐やダンジョンで経験値をガッツリ稼いだら、次は必ずお前に注ぎ込んでやるから、少し待ってくれ」
「承知いたしました。楽しみにしております、マルク様」
小さく一礼したライラから手を離した頃、馬車が減速した。
「へい、お疲れさん! 昼休憩の宿場町に着いたぜ!」
「よし、昼飯にするかい! クラン経費なんだから、みんな遠慮なく美味いもんを食べな!」
セリアが胸を叩き、全員で酒場食堂へ雪崩れ込んだ。
だが――その威勢の良さは、わずか数分で絶望へ叩き落とされることになった。
「すみませーん! ローストビーフ特大盛りを五皿と、大ソーセージ盛り合わせ五皿、あとパンとシチューをあるだけお願いしますぅ!」
「ふ、ふぇ!? じ、十人前……!?」
厨房が戦場のような騒ぎになる。料理が運ばれてくるや否や、ミラの両手が残像を結ぶ速さで、肉とパンを胃袋へ吸い込み始めた。
「ごきゅっ、ごきゅっ、ふぇぇ……おいしいですぅ! すみませーん、ローストビーフもう五皿おかわりですぅ!」
ガチャン、ガチャンと、天井に届きそうな勢いで空皿のタワーが積み上がっていく。
「嘘だろ?」
ガインが肉を口に運んだまま固まり、ロイスはジョッキを取り落とした。
「あいつ、一人で全部飲んでんのか? 小隊一個分の食料が消えたぞ!?」
「お、お会計になります……」
店主がおずおずと差し出した伝票の数字を見た瞬間、セリアの煙管がポロリと床へ落ちた。
「……ひ、一食で……!?」
セリアの顔がみるみる土気色に染まり、額から滝のような油汗が吹き出した。
「ふざけんじゃないよぉぉぉぉっ!! あんた、昼飯一回でうちの金庫をどれだけ削る気だい!?」
セリアは激怒して立ち上がり、羽根ペンで紙に書き殴った。
「決定だよ! 今この瞬間より、レッドアイズに【一食あたりの経費上限値】を設定する! 超えた分は、全部あんたの借金にツケとくからねマルク!」
「おいセリア、契約違反だぞ! 全額持つって言ったじゃないか!」
「限度ってもんがあるんだよ、この馬鹿野郎がぁぁっ!」
阿鼻叫喚の怒号の中、お腹いっぱいのミラは「ふぇぇ……ごちそうさまでしたぁ……」と幸せそうに微笑んでいた。
新たな経費制限という足枷を嵌められつつ、馬車は再び王都へ向けて走り出した。
満腹のミラがすやすやと寝息を立て始めた、その時だった。
ピクリ、とミミィの膝の上の子犬が耳を立て、鋭く唸った。
「ぐるるっ」
同時に、窓の外を監視していたライラの瞳が鋭く細められた。その手が、即座に腰のダガーへ伸びる。
「――マルク様。前方の森林部より、異常な魔力反応。複数です」
車内の空気が、一瞬で凍りついた。
俺も即座に【深淵透視】を前方へ展開し、背筋に冷たいものが走るのを覚えた。
「全員、武器を取れ! 来るぞ――!」
経験値注入抜きで、もともとミラは大食いです。
規格外の才能を持つミラがオーグで芽が出なかったのは、食費に怯えてPTが組めなかったことも一因です。
<重要なお願い>
冒険の先が少しでも気になった方は、リアクション、☆、ブックマークお願いしますm(__)m




