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スキルダイバー~追放された深淵の鑑定士は最強レギオンを作り上げる~  作者: 国木田。
下位鑑定士と少女たち

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第34話:Queen of All Beasts

 朝の清々しい光が差し込むオーグの街公園に、規則正しい掛け声が響いていた。


「いち、に、さん、し! 肩甲骨を下げて、足裏全体で地面を捉える!」

「ご、ろく、なな、はち……! 【体軸維持】と【足腰強化】ですぅ……!」


 ミミィが張り切った声でテンポよく号令をかけ、ミラが豊かな胸を揺らしながら懸命にそれに続く。背後では黒装束のライラが、手本を示すように無駄のない動きで静かに呼吸を整えていた。


 今朝はマルクが教会の定期業務のため、朝早くからライラを置いて一人で外出している。残された三人娘は、白銀狼王戦での激闘と過酷な筋肉痛を乗り越えた身体をほぐすため、いつもの『スキル体操』を反復していたのだ。


「ふぅ……! 身体がすっごく軽くなりましたね、ミラ!」


「はいですぅ! あんなにバキバキだった筋肉痛が嘘みたいに消えちゃいましたぁ!」


 屈伸運動を終え、額の汗を拭いながらミミィが晴れやかな笑顔を浮かべた、その時だった。


「くぅ……? わんっ! わんっ!」


 足元の芝生の上で丸くなっていた手のひらサイズの白銀――元・白銀狼王が、ピクリと耳を立てて飛び起きた。銀色の子犬は落ち着きなく足元を駆け回り、ミミィの靴の爪先に頭をすりつけながら、興奮したように激しく尻尾を振り始めたのだ。


「ふぇぇ!? し、白銀ちゃん、どうしたんですかぁ!? お腹が空いちゃったんですかぁ!?」


 突然の騒ぎに、大柄なミラがおろおろと両手を振ってあたふたとし始める。

 だが、ミミィの異変は白銀だけが察知したものではなかった。


「……あれ……? な、何だろう……身体の奥が……」


 ミミィはその場に立ち止まり、自らの胸元を両手でぎゅっと押さえた。


 ドクンッ、ドクンッ……!


 心臓の鼓動が、空間全体に波紋を広げるように重く脈動する。

 次の瞬間、ミミィの華奢な身体の中心から、淡く温かな黄金の光の粒子が溢れ出した。


「ミミィ様……!?」


 ライラの漆黒の双眸が見開かれる。

 白銀狼王戦の極限状態で、マルクの【経験値注入《エクス・インジェクション》】によって一時的に主脈Lv3へと引き上げられた経験。あの時に細胞と神経へ刻み込まれた高位の感覚が、激闘を経て休息を取った今、本人の器の成長と完全に噛み合って定着を果たそうとしていた。


 光の大樹が、彼女の魂の奥底で力強く枝を伸ばしていく。


【主脈Lv.2】から――真の【主脈Lv.3】へ。


 大器晩成の少女の魂が、自らの力で分厚い殻を破り、正式な覚醒を果たした瞬間だった。ふっと光が収まり、中庭に朝風が吹き抜ける。ミミィは震える両手を目の前に掲げ、呆然と自らの指先を見つめていた。


「私……本当に……Lv.3に……上がれたんだ……」


 言葉にした瞬間、視界が滲んだ。


 冒険者になったばかりの頃の、悔しくて惨めだった日々が、怒涛の濁流となって脳裏をよぎる。同じ時期にギルドへ入った仲間たちが、次々と主脈Lv.3へと昇格して前線で華々しく活躍していった。それなのに、自分だけはずっとLv.2のまま取り残され、新しいスキルも覚えられなかった。


『お前は才能がない』

『足手まといだから、後ろで荷物でも運んでろ』


 ギルドの片隅で雑用を押し付けられ、誰にも期待されず、悔しさに唇を噛み締めて一人で泣いていたあの夜。そんな自分を見つけ出し、『君の器は大きい証拠だ』と温かく笑いかけてくれたマルク先生。


 動物たちと触れ合い、必死に泥臭い基礎を反復し、信じて走り続けてきた道のり。


「よ、よかった……っ! 私……私だって……ちゃんと冒険者になれたよぉ……っ!」


 張り詰めていた糸が切れ、ミミィの大きな瞳から、大粒の涙がポロポロと零れ落ちて石畳を濡らした。


「ミミィちゃん……っ!」


 ミラが大きな身体をかがめ、涙を流すミミィを優しく抱きしめた。


「おめでとうございますぅ……! ミミィちゃん、ずっとずっと、すっごく頑張ってましたもんねぇ……!」


「うわぁぁん……ミラ……!」


 ミラの柔らかな胸元に顔を埋め、子供のようにしゃくり上げて泣くミミィ。その足元で、白銀も嬉しそうに「くぅ〜ん!」と鼻を鳴らし、二人の足首にすり寄っていた。


 普段は鉄壁の無表情を保つライラも、その時ばかりはふっと目元を柔らかく緩め、静かに歩み寄った。


「おめでとうございます、ミミィ様。主脈Lv3への昇格……貴女が流した汗と努力が、正しく結実した証です」


「ライラさん……っ! ありがとう……二人とも、本当にありがとう……!」


 涙を拭い、顔を上げたミミィが、満面の笑みを咲かせた――その刹那だった。


――ぐぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜……ッッ!!


 静まり返った中庭に、大砲の轟音かと思うほどの、豪快で長い腹の虫が響き渡った。


「「…………」」

「ひゃうんっ!?」


 ミミィは一瞬で顔を真っ赤に染め上げ、慌てて両手でお腹を押さえて小さく丸まった。主脈の拡張に伴う急激な超代謝――マルクの言う、あの「お腹が減ってたまらなくなる反動」が、ミミィの小さな身体にも容赦なく押し寄せてきたのだ。


 ミラが目を丸くし、それから満面の笑顔で自分の胸をポンと叩いた。


「ふふっ、お祝いです! みんなで食堂へ行って、お腹いっぱい美味しいご飯を食べましょう!」


 その言葉に、ミミィは恥ずかしさを吹き飛ばし、涙の乾いた瞳を爛々と輝かせた。


「うんっ! 今日ばかりは、ミラの食べる量にも絶対に負けないよ!」

「ふぇぇ!? 負けませんよぉ〜!」


 二人は手を取り合い、跳ねるような足取りで食堂へと向かって駆け出していった。

 その無邪気な後ろ姿を見送りながら、ライラは深いため息をつき、やれやれと首を横に振った。


「……またマルク様への請求書の額が、跳ね上がりますね」


 冷淡にぼやきつつも、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。


「私も、お供いたします」


 ライラもまた、朝の光の中へと軽やかに走り出していった。


 後に、大陸中のあらゆる幻獣や神獣の心を通わせ、世界の命運を左右する戦場において、百の魔獣軍団を従えて微笑んだ希代の英雄――。


 【百獣の愛姫】ミミィ。


 世界にその名を轟かせることになる少女の、これはまだ小さく、けれど誇り高き最初の一歩であった。

ここまでご愛読ありがとうございました☆

第一章終了となります。

第二章では、さらなる仲間(盾と治癒士)を加えてマルク達が躍進の冒険を続けていきます。


<よろしければ第一章の評価をお願いいたします。>

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リアクションも大歓迎です。今後の継続のためよろしくお願いいたします。

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