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スキルダイバー~追放された深淵の鑑定士は最強レギオンを作り上げる~  作者: 国木田。
下位鑑定士と少女たち

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第33話:V.O.L.P.S

 オーグの街を襲った白銀狼王のスタンピード事件から、ちょうど一週間が経った。街の復興が進む中、大氾濫の発生源――『苔生す緑鱗の迷宮』の異常を解明すべく、大規模な合同調査隊が結成された。


 迷宮の入り口前に集結したのは、セリア率いる『レッドアイズ』と、王都から緊急派遣された有力クランの面々。そして、甲冑を纏った王国騎士団の部隊だった。


「全員、気を引き締めよ! 我が騎士団の威信にかけ、迷宮の異変を速やかに解明し、王国の安寧を取り戻すのだ!」


 先頭で朗々と号令を飛ばしているのは、王国騎士隊長ガルツだ。


 デス・オーガの一撃で豪快に沈められた過去を持つ男だが、その鋼のメンタルに挫折の二文字はないらしい。相変わらず無駄に眩しい威厳を放ち、銀色の大剣を掲げている。


 俺たち一行は、ミラとミミィの経過観察と休養、そして街の防備待機を名目に、今回の合同調査への同行を見送っていた。


「頼んだぜガルツ隊長、セリア。無理だけはしないでくれよ」


 見送る俺に、セリアは煙管をくわえてニヤリと笑った。


「心配いらないさ。さっさと原因を突き止めて、土産話でも持って帰ってやるよ」


 ガルツの号令とともに、総勢数十名の合同部隊が、苔むした石造りの入り口をくぐっていった。


◇


 浅層から中層へ進むにつれ、ベテラン冒険者たちの間に拭いきれない違和感が広がっていった。


「……おかしいな。前回来たときと様子がまるで違う」


 ガインが両手斧を構え、周囲を警戒する。


 俺たちが探索した直前と比べても、迷宮の生態系は明らかに狂っていた。


 3階層付近にいるはずの小型爬虫類系モンスターが姿を消している。代わりに、深層にしか生息しない『猛毒大百足』や『甲殻蜥蜴』の変異種が、落ち着きなく通路を徘徊していた。


 しかも、魔物たちは縄張り争いもせず群れを成している。まるで何かに怯えるように、あるいは『特定の通路』を避けるように。


「魔物の数が多いな……スタンピードの余波による混乱か?」


 レ・ルミナスのクランリーダーが呟く。だが、セリアは険しい表情で首を横に振った。


「いや、違うね。混乱ってよりは……何かに追い立てられて、無理やり陣地を追いやられているような気色の悪さだよ」


 警戒を最大限に引き上げ、調査隊はやがて第5階層へ到達した。

 目の前に広がったのは、何度も踏破されている既知エリア――第5階層のボス部屋、ドーム状の大空洞だった。


 見慣れたはずの広間。


 しかし、足を踏み入れた瞬間、調査隊の全員が息を呑んだ。


「……な、なんだありゃあ……!?」


 かつてフロアボスが鎮座していた大空洞の中央。そこに、以前は絶対に存在しなかった異質な物体が突き刺さっていた。


 禍々しい紫黒の魔力を放つ、高さ3メートルを超える『人工の魔力励起杭』。


 表面には不気味な古代文字が刻まれている。そこから放射状に伸びた赤黒い魔法陣のラインが、岩肌を侵食するように脈動していた。 周囲には、人間の革靴の足跡や錬金薬品の結晶。そして――複数の魔獣を無理やり縫い合わせたような、異形の変異死骸が散乱していたのだ。


「人工物だと……!? 馬鹿な、ここは迷宮の第5階層だぞ!?」


 ガルツが愕然と声を上げる。


 白銀狼王の暴走は、自然現象などでは断じてなかった。

 誰かがこの装置を打ち込み、迷宮の魔力を強制的に引き絞って、ダンジョンの核を狂わせた。明確な悪意による「人災」だったのだ。調査隊は証拠となる杭の破片と薬品の残滓を回収し、重苦しい空気のまま街へ帰還した。


◇


 オーグの街の宿屋の一室。


 セリアとガルツから調査の顛末を聞いた俺は、テーブルに置かれた黒紫色の杭の破片を凝視していた。


「……どうだいマルク。教会の知識か何かで、この不気味な杭に心当たりはあるかい?」


 煙管を置いたセリアが、真剣な眼差しで尋ねてくる。

 俺は断面から漂う異質な魔力波長を、【深淵透視《ディープサーチ》】で読み取った。内心で、冷たい戦慄を覚える。


(……間違いない。前世の『マスターズ・レギオン』に登場した、あの組織のアイテムだ)


 ゲーム内で、ダンジョンの核を汚染し、人工キメラを生み出すために使われていた禁忌の遺物。


「……ああ。詳しい出所までは断定できないが、間違いなく人為的に作られた危険な魔導具だ。自然発生したものじゃない」


 俺の返答に、ガルツは重々しく頷いた。


「やはりそうか……王都の騎士団本部へも急ぎ報告書を上げるが、マルク殿、教会側へもこの事実を伝えていただきたい」


「分かりました。至急、本部に連絡を入れます」


 二人が部屋を出て行った後、俺は教会の礼拝堂へ向かった。

 扉を厳重に閉ざし、祭壇のご神体の前に立つ。精神を研ぎ澄まし、額に指を当てて念波を送り込んだ。


(――マスター、聞こえますか。マルクです)


『……繋がりましたね、マルク。オーグの迷宮調査の結果ですか?』


 頭の中に響いたのは、義母エレオノーラの凛とした声だった。

 俺は詳細を伝えた。第5階層で見つかった魔力励起杭。人造キメラの製造痕跡。そして、スタンピードが人為的に誘導された可能性。


『……そうですか』


 エレオノーラの声は驚くほど静かだった。どこか予期していたかのような、冷徹さを帯びている。


『よく報告してくれました、マルク。その件に関して、あなたがこれ以上深追いする必要はありません』


『次の指示は追って連絡します。それまでは三人――ミラ、ミミィ、ライラの育成に専念しなさい』


(了解しました)


 ぷつりと念波が途切れ、礼拝堂に静寂が戻る。


◇


 ――一方、遥か遠く聖都。


 白亜の尖塔がそびえる教会本部の最奥、薄暗い執務室。

 革張りの椅子に腰掛けたエレオノーラは、窓の外の夜景を見下ろしていた。手元のグラスで、深紅のワインを静かに揺らす。


 月光に照らされた横顔に、冷ややかな影が差した。


「……ついに――|『V.O.L.P.S』《原初の泥の悪意》が動き出したというわけですか」


 ワインを口に含み、エレオノーラは夜の闇へ独り呟いた。


 静寂の中、大陸全土を揺るがす巨大な暗雲の胎動が、音もなく始まろうとしていた。

<重要なお願い>

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