第30話:前線復帰!! 頭上を跳ぶ鉄槌
後方の支援天幕では、リアーチカの手でミラとミミィの体力と魔力が回復し、出撃の合図を待っている。
(セリア、ヴォルク、ロイス、ヘレナ……みんなには少し骨を折ってもらうことになるが、このまま戦線を維持して奴を削ってもらおう)
俺は薄く笑い、前線へ次の指示を張り上げた。
「セリア、深追いするな! ヒット・アンド・アウェイで障壁を削れ! ヴォルクは左回りで狼王の視界を誘導しろ!」
「言われなくても分かってるよ! しぶとい犬コロだねぇ、骨の髄まで叩き割ってやるよ!」
◇
「……ふぅ。よし、これで治療完了です!」
支援天幕の中、杖を下ろしたリアーチカが額の汗を拭い、晴れやかに笑った。
「お二人とも、立ってみてください」
「は、はいですぅ……!」
「はいっ!」
恐る恐る立ち上がったミラとミミィは、手足を動かしてすぐに目を見張った。
「す、すごいです……! 身体が羽みたいに軽くて!」
ミミィがその場で軽くステップを踏み、声を弾ませる。
「ふぇぇ……あんなに痛かった肩も腰も、全然痛くないですぅ……!」
ミラも大槌を軽々と持ち上げた。
リアーチカは表情を引き締め、前線へ視線を向けた。
「お待たせしましたね。お二人とも、もう完全回復です。――行ってよし!」
力強い太鼓判とともに、リアーチカが天幕の入り口をバッと開け放つ。
「先生が、あなたたちの力を必要としています。背中は私たちが支えますから……思いっきり暴れて、あの怪物をやっつけてきなさい!」
「はいっ!」
二人の返事が、力強く重なった。大槌と剣を握り締め、二人は俺の待つ戦場へと駆け出していった。
「先生っ! 戻りました!」
「マルク先生、完全回復ですぅ……!」
駆け戻ってきた二人を見て、俺は力強く頷いた。
「よし、二人とも回復したな! いくぞミラ!」
俺はミラの背中に素早く右手を密着させた。魂の奥で渦巻く膨大な経験値ストックの、バルブを一気に開放する。
「――【経験値注入】ッ!」
「ひゃうんっ!? な、なにこれ……背中がカッカと熱いですぅぅ……!」
大量の経験値が奔流となって流れ込む。ミラの主脈Lv.4の回路が、太く安定した輝きを放ち始めた。
――CONGRATULATIONS!! LEVEL 4 COMPLETE!!
毛細血管のようだった新枝脈【剛力解放】が、瞬く間に極太の回路として定着していく。中堅エース級の出力を、常時発動できるレベルまで引き上げたのだ。
「ひぇぇぇっ!? ま、また後で身体が痛くなっちゃうやつですかぁぁ……!?」
半泣きで悲鳴を上げるミラに、俺はすかさず声をかけた。
「安心しろ、今回は前回ほど無理な昇格はしてない! 反動は少ない! 思いっきり暴れてこい!」
「ふぇぇ……ほ、本当ですかぁ!? 行ってきますぅ!」
駆け出すミラを見送り、俺は隣のミミィに向き直った。
「ミミィ、君はここで待機していてくれ。この作戦の最後で、君が一番重要になる」
「えっ……!? わ、私ですかぁ……!?」
ミミィが目を白黒させてうろたえる。
「で、でも、私も戦えます! 剣も持ってますし、足も動きます!」
「分かっている。だからこそ、ここぞという決定打の瞬間に君の力が必要なんだ。俺の合図があるまで、絶対に動くなよ」
「は、はいっ……! よく分からないですけど、信じて待ってます!」
ミミィが真剣に頷いたのを確認し、俺は前線へ視線を戻した。
白銀狼王の猛攻を受け続けたヴォルクの装甲がきしみ、限界を迎えかけていた。
「くそっ……! 重ェ一撃だ……盾の骨組みが持たねぇぞ……!」
狼王の氷爪が大盾を削り、火花と冷気が吹き荒れる。
そこへ――。
「オラァッ! そこまでだ犬コロッ!」
ドガァァァンッ!
豪快な斧の一撃が割り込み、狼王の前脚を強引に弾き飛ばした。
「休ませてもらったぜ、ヴォルクさん!」
「ガイン! ありがてぇ、助かったぜ若造!」
リアーチカの治療を受けた重戦士長が、歴戦の盾役の隣に並び立つ。主脈Lv.5の鋼の重戦士と、歴戦の大盾使いによる鉄壁の二枚看板だ。二人が呼吸を合わせ、狼王の突進をガッチリと受け止めた――その刹那。
「えぇぇぇいっ! これでも喰らいなさいですぅぅぅっ!!」
二人の頭上を飛び越え、主脈Lv.4コンプリートの出力を得たミラが豪快に跳躍した。唸りを上げる大槌が、狼王の左前脚の関節部へ正確無比に叩き込まれる。
バキィィィンッ!
「グルルァッ!?」
関節をへし折られた狼王が苦痛に吠え、巨体が大きく左へ傾いた。
一気に、形勢がこちらへと傾く。
「……へっ、やりやがるねぇ!」
セリアが感嘆の口笛を鳴らし、肩で息をするヴォルクへニヤリと笑いかけた。
「おいヴォルク。あんな重撃を叩き込める逸材なら、あんたを借りてでも育てたがるマルクの気持ちがよく分かったよ」
「がっはっは! ダシにされたのは癪だが、同感だぜマスター! 荒削りだが、ありゃあ本物の大器だぞ!」
ヴォルクも大盾の石突きを地面に突き立て、白い歯を見せて笑った。その一撃は、戦場全体の空気を決定的に塗り替えていた。絶対の王が膝を屈したことで、防壁を囲む数百頭のウルフたちの統率が目に見えて乱れ始める。凶暴だった群れから、突進の圧力が急速に失われていった。
「おい、前衛の足並みが乱れてるぞ! 押し返せ!」
「ウルフどもの勢いが落ちた! 今だ、畳み掛けろォッ!」
自警団や防衛隊から歓声が上がり、矢と魔法の掃討射撃が勢いを増す。
『レッドアイズ』の遊撃部隊や待機組も、次々と中央へ集結し始めていた。
「マスター! 左右の小隊、粗方片付けましたぜ!」
「ロイス、ヘレナ、退路を塞ぎなさい! 逃がすんじゃないよ!」
セリアの号令を受け、ロイスの投擲刃が狼王の足元を牽制する。ヘレナの炎壁が、退路を完全に焼き塞いだ。左右を精鋭に囲まれ、正面にはガインとヴォルクの鉄壁の盾。頭上には、規格外の大槌を構えたミラ。
だが――追いつめられた白銀の王が、黄金の瞳を狂乱の赤へと染め上げた。
ヒュオオオオオオッッ!!
戦場全域から、熱が一瞬で奪われる。狼王の全身から立ち上る冷気が渦を巻き、極大の氷嵐へと膨れ上がっていった。
周囲の人間も防壁も、すべて一撃で凍結粉砕する超広域破壊魔法の詠唱体勢だ。
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