第29話:紅蓮一閃!!セリアVS白銀狼王
「ガイン、まだ身体は動くかい?」
セリアが大剣を構えたまま、隣の重戦士長へ鋭い視線を投げた。
「正直……魔力もスタミナもカツカツでキツイですが……頭の背中くらいなら、意地でも守ってみせますよ!」
ガインは荒い息を吐き、血脂にまみれた両手斧を握り直す。そこへ、傷だらけの大盾を背負った巨漢が一歩進み出た。
「無理すんな若造。ここからは俺が交代してやるよ」
ヴォルクが盾を地面にドスンと突き立て、不敵に鼻を鳴らす。
「ガイン、お前は街の防壁をここまで守り抜いた立派な前衛だ。ここは一歩引いて、先輩に花を持たせな」
「クソッ……頼みますよ、ヴォルクさん……!」
ガインは悔しげに奥歯を噛み締めたが、素直に後退して斧を下ろした。
「久しぶりにマスターの盾役を務めさせてもらうぜ。俺の背中なら、いくらでも踏み台にして突っ込みな!」
「いいねぇ、頼もしいよヴォルク! よし、アタシとヴォルクの二人で正面から突っ込む!」
セリアは素早く指示を飛ばした。
「ガインは後方へ下がってリアーチカの治療を受けな。ロイスとヘレナは両翼から援護! ――いいね、マルク!?」
俺は即座に戦況マップを再構築し、頷いた。
「ああ、それでいこう! 突撃の最高のタイミングは俺が指示する!」
「了解だ! 腕が鳴るねぇ!」
セリアの全身から、紅蓮の魔力が激しく立ち上る。その横では、防衛網の隙間から飛び込んできたウルフの首を、ライラの短剣が音もなく切り裂いていた。
「マルク様、周囲の警戒は万全です。指揮に集中してください」
「助かるぞライラ!」
俺は防壁の上の防衛隊へ、喉が張り裂けんばかりに怒鳴った。
「防壁の上の魔導士、弓兵、全員撃ち方用意! 俺の合図に合わせて、白銀狼王の顔面へありったけの一斉射撃を叩き込めぇぇっ!」
「お、おおおおっ!」
防壁の上から、どよめくような返事が返ってくる。
「撃てぇぇぇぇっ!」
号令とともに、火球、氷槍、風刃、鋼の矢が雨あられとなって白銀狼王の頭上へ降り注いだ。
――グルルルルァッ!
白銀狼王は鬱陶しそうに黄金の瞳を細め、巨大な顎を大きく開いた。
ゴォォォォォォッッ!!
口内から放たれた極大の【氷雪嵐ブレス】が、大気を凍らせて放射状に吹き荒れる。一斉射撃の弾幕は、冷気の衝撃波で一瞬にして相殺された。木製の防壁が、パキパキと白く凍りついていく。
しかし――それこそが、俺とセリアが最初から狙っていた『陽動』だった。
「今だセリア、ヴォルク! ブレス直後の硬直を狙って突っ込めぇぇっ!」
「任せなァッ! 【重壁突進】ッ!」
氷煙を突き破り、ヴォルクが大盾を構えて弾丸のように突進する。狼王の巨体がわずかに揺らいだ。その瞬間、後ろに張り付いていたセリアが、大盾の縁を足場に高く跳躍する。
「喰らいな、デカ犬! ――【紅蓮一閃】ッ!」
真紅の炎を纏った両手剣が、白銀狼王の眉間へ振り下ろされた。
ギャリリリリッ!
激しい金属摩擦音が響き、狼王の顔面を覆う氷雪障壁に亀裂が走った。
「グルルァッ!?」
激痛に顔を歪めた狼王が、前脚を振り上げた。氷の棘を帯びた爪で、セリアを薙ぎ払おうとする。
「ロイス、右目を狙え! ヘレナ、左前脚の接地地点に粘着泥を敷け!」
「へっ、もらったぜ! 【急所穿ち】!」
「――【泥濘拘束】!」
ロイスの投擲短剣が狼王の右目の視界を奪う。ヘレナの魔法が足場を崩し、爪の軌道を大きく逸らした。セリアとヴォルク、そしてロイスとヘレナの完璧な連携が、ランク6の幻想魔獣と一歩も引かずに拮抗していた。
(よし……戦況は完全に噛み合っている)
【深淵透視】で戦場全体を俯瞰しながら、俺は自身の魂の奥で起きている異変を感知していた。同じ陣営の味方がモンスターを倒すたび、経験値の一部が俺の魂のストックへ自動で蓄積される。
何百頭ものウルフや上位個体が討伐されたこの防衛戦で、蓄積量はかつてない速度で跳ね上がっていた。
(この膨大なストックを今ここで使えば……セリアやガインの主脈を一気に引き上げ、狼王を力ずくで瞬殺することも理論上は可能だ)
だが、俺は即座にその選択肢を切り捨てた。
(いや、それは絶対に悪手だ。ただの教会の下っ端鑑定士が、他人の主脈を一瞬で跳ね上げる奇跡を大勢の前で披露してみろ)
(セリアへの説明はもちろん、エレオノーラや上層部からどんな追及を受けるか分かったもんじゃない)
秘密を公にするリスクが高すぎる。何より――俺の頭の中には、別の明確な勝ち筋があった。
(白銀狼王はただの討伐対象じゃない……あの特性、ここで力押しで殺しきってしまうより、もっと美味い使い道がある……!)
その鍵を握るのは、いま後方で回復を終えつつある「あの少女」の存在だった。
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