第28話:樹海の主・白銀狼王の降臨
一方、後方の支援天幕では――。
「ふぇぇ……! 先生が、先生が前線で戦ってますぅ……! 私、早く行かなきゃ……!」
「私も行きます! 先生を一人で危険な目に遭わせられません!」
リアーチカの治癒を受けていたミラとミミィが、居ても立ってもいられず天幕を飛び出そうとした。
しかし――。
ガシィッ!
二人の襟首と肩が、細いながらも鉄万力のような力で掴まれた。
「ひゃうんっ!?」
「きゃっ!?」
「――待ちなさい。どこへ行く気ですか」
二人を引き戻したのは、穏やかな微笑みを完全に消したリアーチカだった。
「ダメです! 今のあなたたちが中途半端な回復のまま突っ込んでも、先生の組み立てた連携ラインを乱すだけです!」
普段の柔らかな雰囲気が嘘のように、鋭い眼光が二人を射抜く。リアーチカは杖を掲げ、光の魔力を二人の身体へ濃密に送り込んだ。ミラの筋肉疲労の残滓と、ミミィの足腰の疲労が、温かな光で洗い流されていく。
「先生の指揮を信じなさい! いいですか、あなたたちは先生の切り札なのでしょう?」
リアーチカは二人の目を真っ直ぐに見据え、重みのある声で諭した。
「ならば、先生が合図を出すその瞬間まで、万全の力を溜めておくのが今のあなたたちの役目です。大人しく座って治療を受けなさい!」
「ふ、ふぇぇぇ……ご、ごめんなさいですぅ……!」
「は、はいぃ……っ!」
トップ治癒士の迫力に完全に気圧され、ミラとミミィは敷布の上で正座して回復に専念するのだった。
◇
前衛がヘビーファングの群れを押し返し、戦局がこちらへ傾いたかに見えた――まさにその時だった。
ヒュオオオオオオオッ……!
戦場を吹き抜ける風が、凍てつく猛吹雪へと変貌した。初夏の陽気が一瞬で氷点下へ急降下する。吐く息は白く凍り、兵士たちの鎧にびっしりと霜が立ち始めた。
金属が軋むような、冷酷な静寂が戦場を支配する。
前世の『マスターズ・レギオン』で、気候そのものを塗り替えるモンスターは、特定の神域に君臨するごく一部の存在に限られていた。その一体が、樹海最深部の氷嶺に生息するランク6の絶対的捕食者。通常攻撃を弾き返す氷雪結界を纏い、咆哮一つで天候を操る神域の幻獣だ。
ズズゥゥゥン……! ズズゥゥゥン……!
重厚な地響きとともに、樹海の奥の闇から巨影が姿を現した。
体長五メートルを優に超える、丘陵のような偉容。月光のように透き通った白銀の毛並みを靡かせ、知性と冷酷さを湛えた黄金の双眸が、前線の人間たちを見下ろしていた。この一帯のウルフ系モンスターの頂点に君臨する絶対王者――『白銀狼王』。
その巨躯から放たれる凍てつく魔力と濃密な殺気だけで、大気が激しく軋みを上げた。
「……っ!? な、なんだあのプレッシャーは……!? 手足が凍りつきそうだぞ……!」
ガインが息を呑み、ヴォルクが大盾を構え直して冷や汗を滲ませる。ライラですら表情を微かに歪め、即座に俺の前へ割って入った。絶望的な強者の威圧感に、歴戦の戦士たちすら足がすくみかけた――その刹那。
ジュウウゥゥゥッ!
激しい蒸気の噴出音が響き渡った。
ドォォォォォォンッ!!
戦場の後方から、氷嵐を力ずくで焼き払う灼熱の熱波が吹き荒れた。凍てついた石畳が瞬時に赤熱し、水蒸気を噴き上げて氷を溶かし尽くしていく。紅蓮の闘気が、戦場全域の冷気をねじ伏せて空間を支配した。
「――おいおい、ずいぶんとデカい犬コロのお出ましじゃないか」
力強い足音とともに、燃えるような赤髪の女戦士が悠然と前線へ歩み出てきた。肩に担いだ巨大な両手剣から、真紅の魔力が陽炎のように噴き上がっている。
セリアは煙管の灰を指先で弾いて消した。大剣の切っ先を地面に突き立て、獰猛な笑みで白銀の王を真っ向から睨み据える。
「待ちくたびれたよ。……ようやくアタシの出番かい?」
深紅の女傑の参戦に、凍りついていた戦場の熱気が一気に最高潮へと跳ね上がったのだった。
レッドアイズのリーダーセリア。
主脈はLv.5でガインとの二枚看板です。
Lv.5自体国家戦力と言われるレベルで、さらにマルクが育てたLv.4クラスのLv.3が大量に居るので、中堅クランの中でも飛びぬけた武闘派集団という設定です。
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