第25話:レッドアイズ参戦
樹海を抜け、視界が拓けて街道へ出た、その時だった。
――カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!
遠く離れたオーグの街の方角から、けたたましい非常警鐘が連続して鳴り響いてきた。乱れた鐘の音が、狂ったように危機を告げている。
「鐘が鳴ってる……! 街の警鐘だ!」
ミミィが叫ぶ。
「ライラたちの急報が間に合ったんだな!」
俺たちは痛む足に鞭を打ち、街道を全力で駆け抜けた。
◇
一方その頃――オーグの街の冒険者ギルドは、この世の終わりのような絶望に呑み込まれていた。
「フォレストウルフの群れが五百頭以上……!?」
「しかも先頭にいるのは、あの樹海の主……『白銀狼王』だと……!?」
ギルドの酒場兼受付ホールには、冒険者、自警団の兵士、避難してきた商人たちがごった返していた。誰もが、青ざめた顔で立ち尽くしている。
オーグの街は、樹海浅層の素材を採る冒険者のための小さな宿場町に過ぎない。常駐戦力は、主脈Lv.2からLv.3止まりの小規模パーティが数組と、貧弱な装備の自警団が数十名程度。マルク達が救出した『鉄蠍の尾』も、このレベル帯である。
しかも街を囲むのは、木材と土嚢を積み上げただけの脆弱な簡易防壁なのだ。
「無理だ……! こんな街で籠城したって、あんな大軍に押し寄せられたら数分で壁を破られる!」
「防壁を越えられたら終わりだ……俺たち全員、食い殺されるんだ……!」
「逃げよう! 今すぐ南の街道から逃げ出すんだ!」
「馬鹿言え! ウルフの足から逃げ切れるわけねぇだろ! 背中を見せたら一瞬で喉笛を掻き切られるぞ!」
怒号と悲鳴が飛び交い、男たちが互いの胸倉を掴み合って喚き散らす。
「静まれ! 全員静まれぇぇっ!」
白髪交じりのギルドマスター・バッカスが、カウンターを拳で叩いて叫んだ。だが、その表情には深い苦悩と諦めが滲んでいた。
隣の自警団長が、脂汗を流して耳打ちする。
「ギルド長……どうするんです!? あの丸太の防壁じゃ十頭の突進すら耐え切れません! 誰を防壁に残して、誰を地下室へ逃がすんですか……!?」
「それを今、決断できるわけがないだろう……!」
絶望は瞬く間に伝播した。床にへたり込んで祈る商人。
武器を取り落として震える若手冒険者。
誰もが街の壊滅を確信し、諦めの溜息を吐き出していた――その瞬間だった。
ドガァァァァァンッ!!
ギルドの頑丈な二重扉が、凄まじい轟音とともに蹴り破られた。
扉の破片が床を滑り、ホールが一瞬で静まり返る。
舞い散る木屑の向こうから、石畳を焦がすほどの熱波が押し寄せてきた。
そして――凛とした、どこか呆れたような女の声が響いた。
「おいおいおい……男のくせに、揃いも揃ってずいぶんと湿気たツラしてやがるじゃねぇか」
煙を切り裂いて入ってきたのは、深紅の長髪をポニーテールに束ねた、長身の女戦士だった。紅蓮の魔力を帯びた両手持ちの大剣を、無造作に肩に担いでいる。鋭い真紅の瞳が、怯える冒険者たちを一人一人睨みつけた。
その威圧感と闘気だけで、ホールの全員が呼吸を忘れて硬直する。
「セ……セリア様……ッ!?」
受付の奥から、ギルド職員が震える声で叫んだ。
女の名はセリア。
王都レ・ルミナスで活動する中堅の戦闘クラン――『レッドアイズ』の頂点に君臨する、クランマスターその人であった。セリアの背後から、黒と紅の鎧に身を包んだ精鋭たちが続々と姿を現す。
「やれやれ……マスターは相変わらず派手な登場がお好きですね」
眼鏡の副官が、呆れたように肩をすくめて詠唱具を構える。
「へ、これだから田舎のギルドは困る。防衛戦の手順すら頭に入っていないとはな」
大斧を担いだ巨漢の重装兵が、鼻を鳴らした。
その一挙手一投足が、いくつもの死線を潜り抜けてきたプロフェッショナルのそれだった。
「た、助かった……! レッドアイズの主力部隊が、補給のためにこの街に立ち寄っていたんだ……!」
「本物の……本物のクランだ……!」
騒いでいた冒険者たちが、救世主の出現に息を呑む。セリアは大剣の切っ先を石畳に豪快に突き立てた。獰猛な肉食獣のような笑みで、全員を見渡す。
「おい、情けねぇ雑魚共! いつまで小便漏らしそうな顔してやがる! 犬コロが群れてきたくらいで、泣き言垂れ流してんじゃねぇよ!」
覇気に満ちた怒号に、冒険者たちが背筋を伸ばす。
「これより、この街の全指揮権はあたしら『レッドアイズ』が預かる! 死にたくねぇ奴は防壁に並べ! あたしの大剣が届く範囲は、誰一人死なせねぇよ!」
セリアの力強い言葉が、絶望に沈んでいた人々の胸に希望の火を灯した。
オーグの街に、深紅の英雄による反撃の狼煙が高らかに打ち立てられたのだった。
開戦!!レッドアイズVS白銀狼王
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