第14話:煩悩礼拝堂と市場の買い出し
三人のスキル鑑定を終え、俺たちは街の案内に出発するため、教会の正面玄関へ向かった。だが、礼拝堂を抜けた瞬間、俺は思わず足を止めて絶句した。
「……やっぱり増えているな」
堂内には、男たちの低く熱っぽいざわめきが満ちていた。
普段は数人の信者しかいない礼拝堂に、男たちが詰めかけている。
男たちの視線は、祭壇の十字架など微塵も見ていない。
俺の後ろに控える三人娘へと、露骨に注がれていた。
歩くたびに上下に波打つ、ミラの超爆乳。短すぎるショートパンツから伸びる、ミミィの太ももとヒップライン。そして、黒装束越しにも分かる無駄のないプロポーションと、氷のような美貌のライラ。
(……そりゃ男共が群がるわけだ! 清らかな礼拝堂が一瞬で煩悩の溜まり場になっちまってるぞ!)
俺は天を仰ぎ、内心で深々と頭を下げた。
(すまないウルズ様……! この教会をこんなエロ教会に変えてしまったのは俺です……!)
しがないゲーマーだった俺を、この剣と魔法の世界へ転生させてくれた。
それは創造神ウルズ様だと、俺は勝手に思い込んでいる。
だからこそ、恩神の聖域を邪念まみれにするのは耐え難い罪悪感だった。
「マルク様? いかがなさいましたか」
「……いや、なんでもない。邪念を振り払っていただけだ。行くぞ」
男たちの嫉妬の視線を浴びて、俺たちは教会を後にした。
「さて、まずは明日から本格的に依頼を受けることになる場所――『冒険者ギルド』へ行くぞ」
「はいっ! ギルドですね!」
ミミィが、跳ねるように返事をする。
冒険者ギルドの扉を押し開けると、中は冒険者でごった返していた。だが、俺たちが足を踏み入れた瞬間、フロアの雑音が潮が引くようにピタリと止まった。
「お、おい……見ろよ、あのデカい胸の娘……」
「隣の子もめちゃくちゃ可愛いぞ……!」
「黒ずくめの女もとんでもねぇ美人じゃねぇか……って、なんでマルク先生が連れてんだ!?」
突き刺さる視線を無視し、俺は三人を依頼掲示板の前へと誘導した。
「明日はまず、ミラとミミィの基礎動作と連携を確認したい。だから、このあたりの低ランクの討伐から受ける予定だ」
「低ランクの依頼……! 私、今まで荷運びばかりでしたから、自分の名前で依頼を受けられるなんて夢みたいです!」
ミミィが掲示板に張り付き、瞳をキラキラと輝かせる。
一方、ミラは大槌の柄を両手で握り締め、おどおどと身を縮こまらせた。
「あ、あの……低ランクの魔物でも、私、暴走して周りに迷惑をかけたりしないでしょうか……?」
「大丈夫だミラ。お前が力を制御できるようになるための訓練なんだからな。俺がしっかり後ろから指示を出す」
「ふぇぇ……はい、先生の指示通りに頑張りますぅ……!」
「ライラ、お前はギルドの仕組みは把握しているか?」
「はい。教会の潜入訓練にて、各都市のギルド規定および依頼の査定基準はすべて頭に入っております」
「……潜入訓練とか物騒な単語をギルドの真ん中で平然と口にするな」
ギルドの雰囲気を掴ませたところで、俺たちは次の目的地、中央市場へ向かった。
市場には肉の焼ける煙が立ち込め、野太い呼び込みが響いていた。
「わぁぁっ! すごい活気ですね! 先生、あのお肉の串焼き、すっごく美味しそうです!」
ミミィが屋台を指差した、その隣から。「ぐぅぅ〜……」と、豪快な腹の虫が鳴り響いた。
「ひゃうんっ!?」
ミラが真っ赤になって、両手でお腹を押さえる。
「あ、あの……ち、違うんですぅ……! 朝ごはんも食べたはずなのに、身体が急にエネルギーを欲しがっちゃって……!」
「ははは、仕方ないさ。主脈が急激に拡張した後は、肉体が大量の栄養を求めるんだ。よし、奢ってやるから好きなだけ食え」
「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございますぅ……!」
過剰な魔力消費と急激なレベル変動は、凄まじいカロリーを消費する。魔力回路が定着するまでは、定期的に高カロリーな食事で肉体の損耗を防ぐ。それも、鑑定士としての重要な健康管理だ。
二人に串焼きやパンを買い与えて食べ歩く。
ふと、ライラが静かすぎることに気がついた。視線を向けると、ライラは串焼き屋の店主を冷徹な眼差しで凝視していた。
「……ライラ、何をしてるんだ?」
「対象(店主)の筋肉の付き方、刃物の扱いから見て、暗殺者または他国の工作員である可能性は極めて低いと判断しました」
ライラは淡々と続ける。
「また、周囲の屋根伝いに三箇所の狙撃ポイントと、二箇所の即時離脱ルートを確認完了しました」
「……お前、頼むから少しは普通の買い出し気分を味わってくれ」
「私はマルク様の護衛ですので」
真顔で言ってのけるライラに、俺は深くため息をついた。
最後に向かったのは、冒険者御用達の大型武具店だった。店の奥から、槌が金床を打つ高い金属音が響いてくる。
「いらっしゃい!……って、うおっ!? な、なんだい嬢ちゃん、そのとんでもねぇ体格は!」
店主のドワーフが、ミラを見るなり目を丸くして飛び出してきた。
「す、すみません……大槌の歪みを見ていただきたくて……」
ミラが背中から巨大な戦槌を下ろすと、ドワーフは感嘆の声を上げた。
「こりゃあすげぇ業物だ! だが、使い手の怪力に耐えかねて柄の結合部が軋んでやがるな。すぐに補強してやるよ」
ドワーフは、ミラの胸元に目を留めた。
「……それより嬢ちゃん、防具はどうする? 胸当てのサイズがどう見ても合ってねぇぞ」
「うぐっ……そ、そうなんです……市販の防具だと、胸がどうしても入らなくて……」
ミラが恥ずかしそうに腕を組むと、強調された双丘がさらに凶悪な谷間を作り出した。ドワーフ店主はメジャーを片手に固まり、俺も必死に視線を逸らす。
「こ、これは特注で革を継ぎ足すしかねぇな……! おい兄ちゃん、金はかかるがどうする!?」
「……教会の経費で落とすから、一番頑丈なやつで仕立ててやってくれ」
俺が財布を出す隣で、ミミィが革の手袋や短剣を真剣に選んでいた。
「先生、装備は、こういうのがいいんでしょうか?」
「ああ。これはいいできだな。冒険者の装備は命運を分ける最重要要素だ。ケチらずいいやつを選べよ」
「はいっ! これにします!」
一方、ライラは投擲用のダガーを手に取り、指先で弾いて音を確かめていた。
「……鉄の純度は悪くありませんが、重心がわずかに切先寄りです。投擲時のブレを考慮し、柄頭の重りを削る必要がありますね」
「へっ、嬢ちゃん、見た目によらず目利きができるじゃねぇか……!」
三者三様の準備が、着々と整っていく。武具店を出る頃には、空は綺麗な夕焼けに染まっていた。
「よし、これで明日からの準備はすべて整ったな」
俺は夕日に照らされる三人を見渡した。
「明日は朝からギルドへ向かい、初の実戦訓練を開始する。全員、今日はしっかり休んで備えておけよ」
「はいっ! 明日が待ちきれません!」
「ふぇぇ……足手まといにならないよう、しっかり頑張りますぅ……!」
「万全を期して臨みます、マルク様」
大器晩成のテイマー候補ミミィ、主脈Lv.8の勇者候補ミラ、そして教会の凄腕アサシン・ライラ。
この規格外すぎる三人娘を率いる、俺の指導教育が始まるのだ。
また話が進んでませんねぇ。
ちなみにウルズ様の設定は、無性の神です。
ノルンの3女神の一人ですが、あっちの世界では無性設定です。ご神体はバリバリ女性ですけどね。
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