第13話:深淵鑑定と三人娘
翌朝、俺は宿舎となっている教会の中庭へ足を運んだ。青草の匂いが、朝露に乗って漂っている。中庭には、旅装束を整えたミラとミミィ、そして黒装束のライラが待機していた。
「さて、本日は生活圏となる王都の案内をして、明日から本格的にギルドの依頼を受けることにする」
俺はライラに向き直った。
「ライラ、育成の当面の目標や期限について、マスターから何か具体的な指示は出ているか?」
「いえ。『すべてマルクに一任する』とのことです」
淡々と答えるライラ。
(あのエレオノーラがそんな生易しい指示を出すわけがない……要は結果を出さなきゃ後で何をされるか分からんやつだ)
内心で冷や汗を流していると、ミラが巨躯を縮こまらせて呟いた。
「あ、あの……私なんかが、本当に先生の足手まといにならないでしょうか……?」
「もうっ、ミラったら! あの巨大なオーガを一撃で倒しちゃった戦士なんですから、もっと胸を張ってください!」
ミミィが、ミラのお尻をパチンと叩いて励ます。
「ひゃうっ!? も、もう、ミミィさん叩かないでくださいぃ……!」
頬を染めるミラに苦笑しつつ、俺は咳払いをして場を引き締めた。
「よし、育成メニューを組む前に、三人のスキルツリーの現状を【深淵透視】で確認させてくれ。まずはライラ、お前からでいいか?」
「どうぞ。私の職業は【アサシン】、主脈は【Lv.3】です」
前に進み出たライラの細い肩に手を触れる。
ひんやりとした体温が伝わってきた。
黒い革鎧の下には、無駄な脂肪を削ぎ落とした鋼のしなやかさがある。ミミィの肉感とも、ミラの豊満さとも違う、刃物のような危険な色香が漂っていた。 俺は邪念を振り払い、彼女の魂の深淵へと潜行した。
(……げっ、やっぱりこいつも潜在能力の限界値が【主脈Lv.6】に達してやがる……!)
しかも、ツリーの深奥にはアサシン系統の最上位職の種が眠っていた。
(なるほどな……エレオノーラがわざわざ俺の手元に預けて鍛えろと命じたわけだ)
「次はミミィ」
「はいっ! 先生、よろしくお願いします!」
ミミィは屈託のない笑顔で駆け寄り、無自覚にゼロ距離まで身を乗り出してきた。ショートパンツから覗く太ももと、我儘ヒップのラインが至近距離で主張してくる。
(ぐっ……! いかん、目のやり場に困る……! 耐えろ俺の理性……!)
俺は天井を仰いで視線を逸らし、彼女の背中にそっと手を触れて潜行した。
(ほう……あれから自力でスキルを二つも獲得しているな)
前世の『マスターズ・レギオン』で、テイマーは序盤こそ最弱と蔑まれる職だった。
だが育成が進めば、複数の魔獣軍団を従えて単騎で戦況を覆す。典型的な大器晩成型クラスだ。主脈はまだLv.3に届いていない。それでも成長曲線は極めて順調で、才能の開花は近い。
「最後はミラだな」
「は、はいっ……! よろしくお願いします……!」
おずおずと進み出てきたミラの肩に、正面から触れようとした瞬間。規格外の超爆乳が、俺の腕に触れそうになった。
(うわっ!? す、凄まじい質量だ……正面からじゃ無理だ!)
俺は慌ててミラの背後へ回り込み、服の上からそっと背中に両手を当てた。だが、背後からでも尋常ではない柔らかさが掌に伝わってくる。上気した白い首筋の艶めかしさに、俺の心拍数は一気に跳ね上がった。
(落ち着け……! 集中しろ……!)
深呼吸をして潜行する。大討伐の激戦を経たミラのツリーは、主脈Lv.4へ到達する寸前まで成長していた。
ついでに、彼女の生体コンディションにも意識を向ける。筋肉痛や【経験値注入】の反動は完全に抜け切っており、肉体状態は万全だった。
本来、疲労度や損傷状態を可視化するのは、技能鑑定士ではなく【治癒診断士】の専門領域だ。超高性能な人間ドックのような専門職である。
だが、俺は前世でNPCの体力表示や状態異常アイコンを常に見ていた。その仕様のおかげで、【技能深淵化士】の力だけで肉体の損耗まで看破できてしまう。まさに反則的なチート性能だ。
「ふぅ……」
俺が息を吐いて手を離すと、すかさず横から冷徹な声が飛んできた。
「……マルク様。先ほどから心拍数が著しく上昇しています。任務遂行のため、邪念の排除を推奨します」
ライラが無機質な瞳で、じっと俺を見つめていた。
「なっ……! 邪念なんてあるわけないだろ! 真面目に鑑定してたんだよ!」
必死に咳払いで誤魔化し、俺は三人に向き直った。
「ゴホン! よし、三人の現状はだいたい把握できた」
「ど、どうでしたか先生……?」
ミラが心配そうに尋ねてくる。
「ミラとミミィは、急激な成長に身体操作が追いついていない。まずは基礎の身のこなしと、連携訓練を見直してもらうぞ」
「はいっ! 先生の言われた通りに頑張ります!」
「ふぇぇ……私、頑張ってついていきますぅ……!」
「そしてライラ、お前は教会の訓練で基礎が完成している。実戦では二人の立ち回りをカバーしつつ、索敵と警戒を担当してくれ」
「承知いたしました。マルク様の指示に従います」
三者三様の頼もしい(?)返答を受け、俺はこれからの日々に思いを馳せた。
(主脈Lv.8の勇者候補に、Lv.6の晩成テイマー、そしてLv.6の教会の暗殺者か……)
とんでもない爆弾三人娘を抱えた、波乱の育成の日々。
それが、いよいよ本格的に幕を開けたのだった。
話が短い上に進まなくてすいません。
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