37 打ち明けられる
キースを応接室ではなく、哲平の部屋に案内した。二人掛けのソファにキースを一人で座らせ、私と哲平は向かいのソファに並んで座った。
メイドがお茶を淹れて出ていくと、キースの口からとんでもない発言が飛び出した。
「ノアは十年ほど前に俺が召喚したんだ。で、ノアの出身地はニホンって国らしい」
「「召喚!?」」
私と哲平は声を揃えて聞き返した。
召喚、というのはあれよね。小説や漫画でよく読んだりしてたやつよね。
――という事は。
「ノアは聖女だったの?」
「は?」
キースは眉間に皺を寄せて私を見つめた。私は少し興奮気味に拳を握りしめて答える。
「私たちの国の読み物には異世界に召喚される子って聖女だったりするのよ! だからノアも聖女か何かなのかなって思ったんだけど違うの?」
ノアは顔も可愛いし、性格も良い子だ。聖女であってもおかしくない。
「残念ながら違う」
キースは目を伏せて頭を振って続ける。
「その、なんつーか、召喚された理由は俺に関することなんだよ。願いっつーか」
「何よ。まさか、可愛い彼女が欲しいとか願ったんじゃないでしょうね」
「……うっ」
キースが言葉を詰まらせたので、飲もうとして手に取ったカップをソーサーに戻して尋ねる。
「何よ、その反応は。まさか、本当にそうなんじゃないでしょうね? そうだったらかなり迷惑な奴なんだけど!?」
「うう。あながち、間違ってない」
「「はあ!?」」
またもや哲平と声を揃えて聞き返すことになってしまった。
キースに詳しい説明を求めると、彼が7歳の時に願いを叶えてくれる本というものを、たまたま見つけたらしい。
そんな怪しい本なんて存在するの?
と、ツッコミたくはなるが、私にとってこの国自体がファンタジーの世界だ。その辺の胡散臭さには目をつぶっておくことにする。
それに7歳なら子供だし、そんな話を信じてもおかしくはない。
キースはその本に「運命の人と出会いたい」と可愛いお願いをしたそうだ。すると、ノアとノアの両親が召喚されてしまったらしい。
キースが拾った怪しい本が悪いものではなかったと前提して、運命の人なら、いつか必ず出会うはず。それなのに召喚しないと出会えなかったってことよね。
何だかややこしいわ。
それにしても、私や哲平の時といい、何かの意図が働いてるんじゃないかと思うくらいに、日本人ばかりが集まっている気がする。
「……アリス?」
「どうした?」
考え込んで無言になっていた私の顔を、キースと哲平が不思議そうに覗き込んできた。
しまった。自分の部屋でゆっくり考えているわけじゃなかった。
私は二人に謝罪してから続ける。
「ノアが良い子で良かったわね。私だったら、私の人生なんだと思ってるんだってぶん殴るかもしれないわ」
「いや、それがそのことをノアに言えてなくて」
キースがしゅんとした様子で頭を垂れた。
「はあ!?」
「なんで言ってねぇんだよ!?」
私と哲平が抗議すると、キースは頭を抱えながら答える。
「小さい頃は半信半疑だったから言えなくて、今の段階になると恥ずかしさと申し訳なさで言えんくなった」
「「へたれが」」
私と哲平の声が重なった。
「でも、正直に言ったら嫌われるかもしれないだろ」
すっかり元気をなくしてしまったキースに訴える。
「申し訳無いって気持ちはわからないでもないけど恥ずかしさはないでしょ! 誰かにとられる前にとっとと好きくらい言いなさいよ! 運命の相手だって言いにくいのはわかるわ! だけどね、私はそんな意気地なしに育てた覚えはないわ!」
「育てられてない」
「お前はおかんか」
キースに否定され、頭を哲平に軽く叩かれたけど気にしない。
ノアはかなり純粋な子だし、変な男と付き合うよりか、何かあった時に容赦なくぶん殴れるキースがいいわ。
「キース、おかんはあんたの味方だからね」
「おかん、ってなんだ?」
身を乗り出し、キースの両手をつかんで言うと、彼は不思議そうな顔をした。
あ、おかん、って、この国では言わないのか。もしくは貴族の間では言わないだけ?
日本でも限られてくるだろうし、知らなくても当たり前か。
「おかんって言うのは、お母さんのことよ! あ、それから、ノアには私たちの話はまだしないでね。話すなら自分の口から話すわ」
「わかった。一応、お前らもノアの話は本人から聞くまで知らないフリしといてくれ」
「了解」
「わかった。じゃあ今日はもういいだろ。事情はわかったし、あんまり遅いと家の人が心配すんぞ。あと、伯爵令嬢のこともあるしな」
哲平はキースにそう言うと、つかをだままだったキースの手から、私の手を引き剥がす。
すると、キースが何か意味ありげな視線を送ってきた。
何なの? もしかして、哲平の機嫌を取れって? まったく、しょうがないわね。
「はい、よちよち、テツくん、ごめんねぇ。テツくんのキースくんなのに、手をつかんじゃったね、ごめんごめん。もうしないからねぇ?」
「お前、本気で怒るぞ」
悪ふざけしたら、哲平に睨まれ、キースには呆れられてしまったのだった。




