38 処分が決まる
話を終えたキースは、子爵夫妻に突然訪問した非礼を詫びてから帰っていった。
日本ほど治安がいいわけではない。話し終えた時にはすっかり暗くなっていたので心配にはなったが、イッシュバルド公爵家の護衛が付いていってくれたので安心だろうと言われ、そう信じることにした。
次の日の朝、キースを無事に送り届けたと報告を受け、徹夜してくれた護衛の人たちに礼を言い、特別手当を出してもらえるよう、哲平に頼んだ。
その後、登校して馬車を降りたところで、真っ青な顔をしたミラベル伯爵令嬢が駆け寄ってきた。
「キュレルさん! 昨日は大変申し訳ございませんでした!」
深々と頭を下げたミラベル伯爵令嬢と、その姿を黙って見つめる私に、周りの生徒の視線が集まる。
大勢の前で謝れば許さざるを得ない。
そう思っているのでしょうけど残念でした。それは相手が一般的な人だからこそ成り立つもの。
自分で言うのもなんだが、私は普通ではない。
「昨日は、ですか? 昨日だけじゃないでしょう?」
「そ、それは、その、過去のことも含めて、誠に申し訳ございませんでした! 反省していますので、何卒温情をお願いいたします!」
「心の傷がそう簡単に癒えると思いますか? あなたはやめてほしいと頼んでもやめてくれませんでしたよね?」
頭を上げてもいいとは言っていないが、ミラベル伯爵令嬢は頭を下げるのをやめた。
そして、泣きながら訴える。
「このままでは、わが家は終わりよ! あなたも人の心があるのなら許してちょうだい!」
「……もう遅いのよ」
私はぼそりと呟いた。
死んでしまった人を生き返らせることはできない。だから、彼女が許されることなど一生ない。
私は私で、人をそこまで追い詰めた人間から、没落は嫌なんて言われても心に響かない。
「いじめなんてする必要のないことをしたのはあなた。責めるなら過去の自分を責めるのね」
私はそう告げると、彼女に背を向けて歩き出した。
「ごめんなさい、許して!」
ミラベル伯爵令嬢は泣きわめいていたが、学園の守衛に止められ、追いかけてくることはなかった。
昼休みにキースから詳しい話を聞いた。
夜遅い時間ではあったが、子爵邸から帰宅してすぐに、キースはお父さんに魔石を渡して判断を仰いでくれていた。
内容を聴いた辺境伯はいじめに対しての常習性を疑い、朝から学園側に連絡を入れ、登校したミラベル伯爵令嬢に伝わった。
なんと、学園の創業者はキースの家系で、キースのお父さんのお祖父さんなのだそうだ。
……ややこしいわね。とにかく先祖だ。
すぐに学園側はミラベル伯爵令嬢を退学処分にすることに決めたが、彼女の処分を決める決定権がキュレル家に委ねられた。
それを知ったミラベル伯爵たちは無かったことにしてほしい、とお父様たちにお願いにきた。
もちろん、お父様はそれを断ったため、彼女の姿を学園内で見かけることはなくなり、停学処分となっていた取り巻気たちも嘘のように大人しくなった。
激怒したミラベル伯爵から、修道院に行くように命じられたミラベル伯爵令嬢とは、二度と会うことはなかった。




