35 魔法に感動する
キースは私を無言で見るだけで何も言わない。
話を続けろという意味だと解釈し、ミラベル伯爵令嬢のことは無視して彼に話す。
「何かあった時のためにと思って、録音してたのよ」
胸ポケットから単語カードくらいの大きさの長方形の白い石を取り出し、手のひらの上にのせて彼に差し出す。
「……魔石か?」
「そう。ラス様からもらってたの」
キースは私の持っているものが何かすぐに気が付いたみたいだった。
「証拠になるやつだよな。俺が持っていてもいいか?」
「もちろん」
キースは私から魔石を受け取り、自分の胸ポケットに入れた。
騎士たちを使って、ミラベル嬢が私から魔石を奪い取ろうとしないように自分が持っておくと言ってくれたんだと思う。
ほんと、こういうとこは紳士よね。というか、貴族はそんなものなのかしら?
いや、アリスの元婚約者みたいに、クソみたいな奴もいるか。
ちなみに魔石というのは、魔法を付与された石のことである。使い方はいたって簡単。魔力を流せば、その石に付与された魔法を発動することができるのだ。
一般的には石に付与できる魔法は1つだけらしい。
でも、私の持っていた魔石は一般のものよりも少し大きめで、録音機能と録音したものを再生する機能……というか、魔法がかけられている。
魔石は一般に販売はされているが、日常生活に必需品として扱われるもの以外はとても高いらしい。
だから、ラス様にもらった魔石の値段は怖くて聞けてない。
「高いものだから再生機能もあるし、今までの会話を聞いてもらったら、どっちが嘘を言ってるかわかると思うの」
キースに微笑んで言うと、私の表情とは反対に、ミラベル伯爵令嬢の表情が凍りついた。
「う、嘘よ、そんな……。録音と再生が出来る魔石だなんて、子爵令嬢が手に入れられるはずがかいわ!」
「嘘かどうかは再生してみればわかりますよ。そんなに疑うなら今ここで再生しましょうか。だって、あなたも嘘なんてついてないんでしょう?」
自分でも性格が悪いな、と思いつつも、ミラベル伯爵令嬢の返事は待たずにキースにお願いする。
「というわけだから、今すぐ再生してもらっていい?」
「ああ」
キースは胸ポケットから魔石を取り出し、録音機能をオフにした。そして、今度は再生するためにキースが魔石に魔力を流した。
最初のほうは、衣擦れの音や雑音しか聞こえなかった。しかし、少ししてから、ミラベル伯爵令嬢や私の声が聴こえ始めた。
「やめて!」
ミラベル伯爵令嬢が悲鳴を上げて、キースの手から魔石を奪い取ろうとしたが、彼は彼女に目を向けもせずに、ひらりと躱した。
キースに知られたくないのはわからないでもない。でも、どうしたものか。
キースに視線を向けると、少し考える様子を見せてから再生を止めた。
「最後まで確認しなくても、それだけ動揺していれば、アリスの言っていることが正しいとわかりますね」
そう言って、キースはミラベル伯爵令嬢に冷たい視線を向けた。ミラベル伯爵令嬢は涙目になって訴える。
「キース様、聞いて下さい、わたくしは!」
「貴女とここでこれ以上話すことはありません。持ち帰ってそれなりの対応をさせてもらいます。今日はこれで彼女と一緒に失礼させていただきます」
キースは私を見つめ、付いてこいと言わんばかりに目で訴えてきた。
もう今日はここまでにしろと言いたいみたいね。
「あ、キース、あれだけ片付けないと駄目なの」
私がぶちまけたお茶を指差すと、キースはため息を吐き、何か呪文みたいな言葉を話した。
すると、水分だけが浮かび上がり、私の目の高さくらいまできたところで一瞬で消えた。
「い、今の何!?」
「いいから行くぞ」
「も、もう一度やってくれない? すごい! 片付けが楽チンだわ!」
「……後でな」
見慣れないものだから、つい興奮しながら歩き出したキースの背中に拍手した。すると、ミラベル伯爵令嬢が叫んだ。
「キース様! お待ち下さい!」
キースは足を止め、振り返って言った。
「あなたがどんなお話をされたか、この魔石を家に持ち帰り、内容を父に確認してもらいます。必要であれば、あなたのお父上にご連絡をさしあげる可能性がありますので、家に帰って待っていただければと思います」
「そ、そんな……、あの、キース様!」
「人にお茶をかけるような人と長く話すつもりはありません」
冷たく言い放つと、キースは校舎に続く扉に向かって歩き出す。
キースを追いかける前に振り返って、ミラベル伯爵令嬢の様子を確認する。彼女は、呆然とした表情で立ち尽くしていた。
キースのお父さんは辺境伯だし、辺境伯のほうからイッシュバルド家に連絡が行けば、ミラベル伯爵家は終わりだ。
いじめなんてくだらないことをするから、痛い目に遭うのよ。
「アリス」
いつの間にか、扉にたどり着いていたキースに急かされ、私は急いで彼のもとへ向かった。




