34 嘘をつかれる
「キ、キース様、どうしてこちらに?」
ミラベル伯爵令嬢の顔は気の毒になるくらい引きつっている。
「何やら不穏な空気を感じて、ついつい割って入っただけです。ところで、私の友人が何か失礼なことでもしましたか?」
キースはなぜか、ミラベル嬢に対して敬語を使っている。
父親の爵位はキースの方が上なのにどうして?
疑問に思っていると、ミラベル伯爵令嬢のリボンタイの色が私たちと違うことに気づく。
ミラベル嬢のリボンタイは緑色だ。キースが敬語を使っているということは、学園内では彼女先輩なのかもしれない。
「あ、いえ、その」
ミラベル伯爵令嬢はゆっくりと、ロボットみたいにぎこちない動作でキースに身体を向けた。
言い訳でも考えているのか黙り込んでしまう。
キースはしばらくの間、彼女からの返答を待っていた。しかし、石の道の上に茶色の液体がこぼれていることに気が付き、私を見つめた。
あ、それ、私がぶちまけたやつだわ。
そう思って、持っていたカップを軽く振ってから、キースににっこり笑ってみせる。キースはお前かと言わんばかりに呆れた表情になったが、すぐに私のスカートや足を指差して不思議そうな顔をする。
「それ、どうした」
「ん?」
「制服、汚れてるだろ」
「ああ、これ」
いいことを聞いてくれまわ。よし、ここは素直に伝えることにしましょう。
私は満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「ミラベル伯爵令嬢に」
「私ではありません! 彼女がお茶をこぼしたんです!」
ミラベル伯爵令嬢は目を潤ませてキースを見つめながら頭を振る。
空になったカップをずっと持ち続けているのもなんなので、テーブルに返しにいきながら思う。
あらあら。
さっきまでの鬼の形相はどこいったの?いきなり、女を出してこないでほしいんだけど。
余計に真相をキースに伝えたくなるじゃないの。
すると、頭の中の天使の私が言う。
そんなことを言ったら、どっちが悪役かわからないじゃないの。
――いや、悪役は向こうでしょ。
「どうなんだよ。自分で汚したのか?」
キースはミラベル伯爵令嬢の言葉を無視し、カップを置いて、キースの横に戻ってきた私に尋ねた。
妄想の世界から戻ってきた私は、正直に答える。
「そうね。キースはどのくらいから、私たちの会話が聞こえてたの?」
「アリスがやり返した、か何か言ってるくだりあたりから」
「そう。本当についさっきなわけね」
肝心のシーンが見られていない。そのことがわかって安心したのか、ミラベル伯爵令嬢は私を見て、口元に笑みを浮かべた。
勝った気になるのが早すぎない?
まあ、いいけど。
私は正直に話を続ける。
「ミラベル伯爵令嬢を怒らせてしまったみたいで、お茶をかけられちゃったのよ」
「お茶をかけられた?」
「ひどいですわ! 私が嫌いだから、そんな嘘をつくのでしょう? キース様! どちらが嘘をついているか、他の方に確認していただいて結構ですわ!」
キースの前では悲劇のヒロインぶっているらしい。
両手で顔を覆い、泣き真似をしているミラベル伯爵令嬢に呆れてしまう。
これだけ演技が上手ければ役者になれそうね。
ミラベル伯爵令嬢の訴えを聞き、キースは無言でガゼボの中にいる、取り巻きたちに目を向けた。
案の定、彼女たちはそろって、ミラベル伯爵令嬢の味方をする。
「そうです! キュレル子爵令嬢がお茶をこぼしただけです! ミラベル様は嘘を言っておられません!」
「そうですわ! キュレル子爵令嬢が嘘をついているのです!」
後ろめたさがあるのか、決してキースのほうは見ず、斜め下に視線を向けている。
ミラベル伯爵令嬢はこれで勝ったと思ったのか、キースにすり寄ろうとする。
「キース様、私は何もしていませんわ!」
何が何もしていないよ!
イラッとしてしまい、ついつい言い返してしまう。
「確認しますが、ミラベル伯爵令嬢や、ガゼボの中にいる方々は私が嘘をついていると言い張るんですね?」
「そうですわ。これだけ証人がいるのに、あなた1人だけの証言では信憑性はなくってよ?」
「私は嘘をついてなんていません。もう一度確認しますが、あなたは嘘をついてないし、彼女たちも嘘をついてないと言うんですね?」
念押しして確かめ、ガゼボの中にいる子たちが頷いたのを確認してから、キースに話しかける。
「キース。私、彼女たちが嘘をついてるっていう証拠を持ってるわ」
「なんですって!?」
キースに話話しかけたのだが、ミラベル伯爵令嬢が驚いた顔で聞き返してきたのだった。




