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気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します  作者: 風見ゆうみ


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33 教えてあげる

 素早く後ろに避けたものの、地面に落ちたお茶が跳ね、スカートの裾に当たった。

 

 熱くなくて良かった。

 こんなことで火傷したら最悪だもの。

 ぷつんと切れてしまって殴ろうとしたかもしれないわ。


「そんなの、まだわからないでしょう!?」


 人にお茶をかけても悪いことをしたという気持ちはないらしい。ミラベル伯爵令嬢はカップをテーブルの上に乱暴に置いて叫んだ。


 まあ、私もきついことを言ったし、人を責められる立場ではないが、お茶をかけようとするのは~良くない。私の発言も含め、ラス様に報告させてもらおう。


「そうですね。キース様本人に聞いてみないとわからないでしょうね」

「そうよ! ちゃんとお父様からキース様に聞いてもらうつもりよ!」


 自分で聞きなさいよ、それくらい。


 と、心の中でツッコミを入れつつ、思ったよりもカップの中身が残っていたのか、湿ったスカートの裾が足にくっついて気持ち悪い。

 

 まったく、腹が立ったからって、お茶を人にぶっかけるなんてどうなのよ。

 ドラマかなんかの見過ぎじゃないの?

 って、この国にはドラマはないか。

 私も含め、貴族の作法より、気持ちを落ち着かせる方法を学んだほうがいい気がするわ。


「あの、こんな状態ですので帰らせてもらいますが、待ってくれている彼にはこの状態をなんと言えばいいのでしょう?」


 微笑んで尋ねると、まだ怒りが冷めやらない様子でミラベル伯爵令嬢は私を睨んで答える。


「手が滑っただけよ」

「わざわざ、ガゼボの中からカップを持って出てきて、その言い訳ですか」

「うるさいわね!あなたは私の言うことを黙って聞いていればいいのよ!」

「嫌です」

 

 なんで、納得がいかないのに、彼女の言うことをきかないといけないの?

 

 無言で彼女に近付いていくと、彼女を守るように騎士たちが立ちはだかる。


 私はそんな彼らの横を通り過ぎてガゼボの中に入った。

 ガゼボの中にいた子たちが唖然とした表情で私を見つめるので、笑顔で話しかける。


「こちら、いただきますね」


 あっけにとられている彼女たちの前に置かれているカップを手にとった。

 カップの中には紅茶が入っており、こぼさないようにしながら、ミラベル伯爵令嬢の元へ向かう。


 騎士たちに邪魔される前に、階段で躓いたフリをし、カップの中に入った紅茶を彼女の足元にぶちまけた。


 もったいないけど許してほしい。同じことをしないと彼女はわからないだろうから。


「な、何をするんですの!?」

「ごめんなさい! 躓きそうになってつい!」

「あなた、何をふざけているのよ!」

「ふざけてなんていません。それよりもどうでした? こんなことをされて嫌な気分になりませんでしたか?」

「はあ?」


 ミラベル伯爵令嬢は私の質問の意味がわからなかったらしく、眉間に皺を寄せた。


「あなたは嫌な気分にならなかったのかと聞いているのです。紅茶をかけられそうになって、ああ、躓きそうになっちゃったの、仕方がないわね、って、私を許してくれますか?」

「そんな訳ないでしょう! 明らかにあなたの場合はわざとじゃないの!」

「あなたは私にわざと掛けようとしてましたよね? それはわざととは言わないんですか?」


 ミラベル伯爵令嬢は悔しそうに唇を噛んだ。私に言い負かされるとは思っていなかったんでしょう。


「あなたは私にこんなことをされて、どう思ったんです?」

「腹が立ったに決まってるでしょう!」


 そうよね。

 本当に手が滑っただけで服にかかっちゃっただけでも、うわって気持ちになるのに、わざとやられたら余計にイラッとするわよね。


「私もそうなんですけど? あなたが私にやったことをやり返しただけですが?」


 しかも、こっちは制服が汚れて気持ち悪いことこの上ない。相手にかけなかったのは、精神が低レベルの人間と同じ土俵に立つ気はなかったからだ。

 苛立ってお茶をかけるなんて、私にはドラマかなんかの世界で十分。ただ、ちゃんと彼女にわからせなければいけなかった。


 あんたがなめきってる相手は、今までとは違う。それに相手が誰であっても、こんなことをしてはいけないのよ。


「やり返すだなんて低俗なことを!」

「いじめを正当化するような人に言われても、痛くも痒くもないですね」

「あなた、何なのよ、この口の利き方は! さっきから誰を相手にしていると思ってるの!」 


 軽い言い方をしたのが気に食わなかったのか、ミラベル伯爵令嬢はすごい剣幕で向かってきた。

 その時になってやっと、私は彼女の背後に誰かがいることに気が付いた。


「キース」


 その人物の名を口に出すと、ミラベル伯爵令嬢は動きを止めた。

 先程までの憤怒の表情は一瞬にして消え去り、みるみるうちに驚愕の表情に変わっていく。


「話に入ってもいいか」


 ばっちり視線が合い、キースが私に尋ねているとわかったので、私は無言でうなずいた。


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