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気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します  作者: 風見ゆうみ


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32  伯爵令嬢にキレられる

 警戒し始めたミラベル伯爵令嬢に尋ねる。


「ミラベル伯爵令嬢が私を呼び出したのは、キース様に近づくなと伝えたかったということでよろしいでしょうか」


 屋上だから日差しを遮るものがないため、とにかく暑い。正体がバレることはないが、あまり怪しまれるのも良くない。アリスの件で収穫はなさそうだし、今日のところは帰りたくなってきた。とっとと話を終わらせようとすると、ミラベル伯爵令嬢が叫んだ。


「わかったのなら良いのです! もし、また同じ事があれば、前と同じような目に遭わせますから、そのことをお忘れなきように!」

「前と同じような目に……というのはどういう意味でしょうか」


 やっと私の興味がある話をしてくれそうなので、わざとらしくとぼけてみせた。すると、彼女の綺麗な顔が醜く歪んだ。


 こわ………。本性を現したってとこ?


「どうやら、また痛い目に遭いたいようですわね」


 ミラベル伯爵令嬢は、いつの間にか私の左右にいた護衛たちに目で合図をした。護衛達は手慣れた様子で「失礼します」と声を揃えて言ったあと、私の腕をつかんだ。


 公爵令息の婚約者にこんなことをして無事に済むと思ってるのかしら。

 

「失礼しますと言えば何をしてもいいとでも思ってるんですか? イッシュバルド公爵家に報告しますよ」


 私に言われて思い出したらしい。護衛たちの私をつかむ手の力が緩んだので振り払って距離を取る。

 走って逃げてもすぐに追いつかれるでしょうね。二人がまた私の腕をつかみにくる前に、この状況を何とかしましょうか。


「お二人のお名前は?」


 私に尋ねられた二人は判断を仰ぐように、ミラベル伯爵令嬢を不安そうな表情で見つめた。ミラベル伯爵令嬢は護衛たちには何も答えず、私を睨みつける。


「そんなことは、今は関係ないでしょう!」

「関係はありますわ。どこのどなたに何をされたか、私の婚約者に伝えようと思いますので」

「別に伝える必要はないわ」

「申し訳ないのですが、私の婚約者は心配性なので、詳しく伝えないと納得してくれないんです。あ、もしかして、公爵家にばれたら困るんですか?」


 ミラベル伯爵令嬢は悔しそうな顔になり、護衛たちは怯んだように私から少しだけ遠ざかった。

 

 彼らは命令されれば従わなくちゃいけないんだろうけど、私を傷つけた時の代償と、ミラベル伯爵令嬢の命令に背いた時の代償と、どちらが自分たちに良くないのか、瞬時に判断したんでしょうね。


「何なのよ! あなたが、キース様に近付かなければ、それでいいことなのに、どうして逆らうのよ!」

「ですから、今日は向こうから話しかけてきたとお伝えしたはずです。それに、ノアはいいんですか?」


 キースとの仲を気にするならば、ノアを無視するのはおかしい。巻き込みたいわけではないが聞いてみた。

 ミラベル伯爵令嬢は眉尻を下げて俯く。


「彼女は……、いいんです」

「……そうですか。よろしければ、ノアは許される理由をお聞かせ願えますか」

「彼女は平民です。今は両親の都合でキース様と一緒に住んでいるだけでしょうし、大人になればいつかは出ていくでしょう」

「どういうことです?」

「平民と貴族の結婚が許されるわけないでしょう! それにキース様は辺境伯令息であって高位貴族ですからね!」


 貴族が望めば、平民が相手でも結婚は可能だと思ってたわ。

 平民であってもその人自身が優秀であれば、いいってわけじゃないのね。


 だけど、キースはノアが好きみたいだし、ノアが嫌じゃなければ結婚しそうな気がするんだけど、どうなのかしら。


 そういえば、貴族って婚約者がいて当たり前な世界っぽいけれど、キースには婚約者はいないんだっけ?

 それにミラベル伯爵令嬢にだって、婚約者がいてもおかしくないと思うのよね。それなのに、どうしてこんなにキースにこだわるのかしら。

 

「ミラベル伯爵令嬢には婚約者がいないのでしたっけ?」 


 まずはそれを確かめてみた。


 ミラベル伯爵令嬢は痛いところを突かれたのか私を睨みつける。


「今の婚約者とは婚約解消するつもりです。そして、改めて、キース様との婚約を父にお願いするつもりですわ。ですから、あなたのようにキース様の周りをウロウロする人間がいては困るんです!」

「私には婚約者がいるので、あなたにとっては無害だと思いますけど? それに、余計なお世話でしょうが、あなたがキースを好きでも、彼はあなたを選ばないと思いますが?」

「何ですって!?」

「キース様はあなたのような人は好まないと思うと言ったんです」


 意地悪ではなく素直に思ったことを口に出しただけだ。しかし、言ってはいけないこともある。

 本人も自覚があったのか、般若のような表情になったかと思うと、目の前のカップを手に取った。

 そして、私の目の前までやって来ると、入っていた中身のお茶らしきものを、私の顔にかけてこようとしたのだった。

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