30 伯爵令嬢に叫ばれる
連れてこられたのは隣の校舎の屋上にあるガゼボだった。
キースに教えてもらえていなかったら、違うガゼボで待ってたと思うし、哲平の所に声をかけに行っておいて良かった。
私が通っていた学校は、屋上は開放されていなかった。
だから、屋上に足を踏み入れた時は、まるで悪いことをしているような気分になった。
夏の間はビアガーデンなどが行われる百貨店の屋上のように広いが、雰囲気はまったく違う。
この学園の屋上は、小さな庭園のようになっていた。
転落防止のためか、手すりではなく私の身長よりも高い白い塀に囲まれているせいで、残念ながら景色を眺めることは出来ない。
少し歩くと、真っ白なガゼボが見えてきた。
5人でお茶を飲みながら話せるくらいの大きさだ。すでに中にある椅子に複数人が座っていて、私の座る所などなさそうだった。
まあ、仲良くお話するつもりはないから、立ったままで全然いいんだけど。
ガゼボは少し高い位置にあり、彼女たちの目線に合わせるには、3段の階段をのぼらないといけない。
今日はいいお天気で、日差しが少しキツく感じる。日陰に入りたいところだけど、ガゼボの中は人でいっぱいだ。
狭い所は嫌いなので階段の手前で立ち、私は彼女たちを見上げた。
私が立ち止まると逃げられないようにするためか、令嬢たちの護衛らしき男たちが、私の左右に立った。
二人共、背が高いしゴツい身体つきなので威圧感がある。
学園の教室内には護衛が入ることは、よっぽどじゃない限り禁止されているが、屋上は良いようだ。
普通の令嬢なら、ここで怖気づいてしまうかもしれないが、こんな所で私をどうこうしようもんなら、動かぬ証拠になるだろうし、それはそれで良しとする。
「ロゼ様、連れてまいりました」
「ありがとう」
ミラベル伯爵令嬢は私をここまで連れてきた少女に礼を言うと、持っていたカップをソーサーに置き、私を見つめた。
同じ制服姿なのに、やはり伯爵令嬢というだけあって、とても上品に見える。
「お待たせいたしました。……で、どのようなご用件でしょうか」
「あら、まずは謝罪が必要じゃなくって?」
ミラベル伯爵令嬢はテーブルに置いていた扇を口元に当てて言った。
私を見つめる目は明らかに蔑んだものを見る時のものだ。
「何の謝罪でしょうか」
「あなたが中々いらっしゃらないから、わたくし、待ちくたびれてしまいましたの」
場所の指定をはっきりしてこなかったのは、そっちじゃないの。
しかも、学年によって終わる時間は微妙にズレるし、遅くなったと言っても私の授業が終わってからだと、10分くらいしか経ってない。
まあ、お待たせしたことは確かだし、謝っておいたほうがいいか。
「時間に遅れた上に、お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。ですが、ガゼボと言いましても、いくつかありましたから途方にくれていましたの」
謝罪はちゃんとしておくが、説明不足のそっちも悪いんだ、ということは伝えておく。
というか、貴族の令嬢の言葉遣いって、こんな話し方で合ってるんだろうか。
「あら、ちゃんと確認をしなかったあなたが悪いのに、こちらのせいだとおっしゃるの?」
「誘っていただけるのであれば、された側が迷わないように配慮されるのが普通ではないのですか?」
にっこり笑って答えると、ミラベル伯爵令嬢の眉間にシワが寄った。これくらいのことで苛立つようなら、大した敵じゃなさそうね。
あまり長々と話すつもりもないので、本題を促す。
「早速で申し訳ないのですが、婚約者を待たせておりますので、ご用件を伺ってもよろしいでしょうか? ただ、雑談するために呼び出された訳じゃないですよね?」
「もちろんです。そうでもなければ、あなたに話しかけたりなんてしませんわ」
ミラベル伯爵令嬢は扇を閉じて頷いた。すると、なぜか彼女を囲んで座っていた令嬢らしき子たちも頷いた。
真似をしないと怒られるの? よくわからないけど、貴族社会は大変ね。
「何か気に障ることでもしましたでしょうか」
「したに決まっているでしょう!」
勢いよく立ち上がり、ミラベル伯爵令嬢は叫ぶ。
「何度言ったらおわかりになるの?! キース様に近付かないで!」
私は言われた覚えがないけど、アリスは何度か言われているというわけね。
ミラベル伯爵令嬢はキースのことが好きで、彼と仲良くしていたアリスが気に入らなかったってとこ?
でもそれって、人をいじめていい理由にはならないわよね?




