29 迎えが来る
「自分が行けよ」
可愛くお願いしたのに、哲平に遠慮なく拒否されてしまった。
私はため息を吐いて訴える。
「あのね、私がただ単にめんどくさがって行こうとしてないと思ってるかもしれないけど、違うからね! 私がうろうろしてたら、アイツ困ってる、やーい、って思われるかもしれないじゃない! そんなことを思われたら顔面殴りたくなるから嫌なの」
「そんな子供じみたことを考える相手なのかよ」
「いじめとかする奴らなら、精神なんて幼稚でしょ。それに私たちだって高校生の時なんてガキじゃなかった?」
苦笑すると、哲平は眉間に皺を寄せてうなずく。
「まあ、たしかにあの頃はガキだったな……と今になれば思う」
「でしょう? なら、遊ばれている可能性は無きにしもあらずよ」
「……となると、キースが行きゃいいんじゃね? もし、本当にどっかのガゼボにいて、ありすを待ってれば、キースを見て驚くだろうしな」
哲平はそこで一度話を区切って、キースに顔を向けて尋ねる。
「そういや、キースはそのミラベルっていう令嬢を知ってんのか?」
「社交場で顔を合わせたことはあるけど、詳しくは知らない。まあ、顔はわかるから見てきてもいいぞ」
キースは当たり前のように答えたが、私にとっては耳慣れない言葉の社交場というワードに、ついつい食いついてしまう。
「社交場ってなんかカッコいい響きね!」
「……お前らもそのうち行くんだからな」
「最悪」
「最悪だ」
キースの言葉に私だけじゃなく、哲平のテンションも下がった。
と、こんな話をしている場合じゃないわよね。
約束を守らないのもなんだけど、本人たちがその場にいない可能性もあるのよね。
キースに行ってもらうか、一緒に行こうか、それともすっぽかすか悩んでいた時だった。
ばん、と扉のほうから音が聞えて振り返る。すると、大きく肩で息をしている少女が立っているのが見えた。
リボンタイの色が違うから、学年が違うので、このクラスの生徒ではないだろう。
全部の学年の色を覚えているわけではないから、はっきりとはわからないが、私よりも幼く見えるし、たぶん年下だ。
「どうして、こんなところにいるんですか!」
息を整えた少女が、私を指差して叫んだ。
「……何の話?」
「ロゼ様との約束があるのに、こんな所にいるのはおかしいと言っているんです!」
「あ、もしかして迎えに来てくれたの?」
「あなたが来ないから探しに来たんじゃないですか! 早く来て下さい! ロゼ様がお待ちです!」
私の問いかけを無視して、彼女は私を急かした。
お迎えが来たのなら、探す必要もないし付いていくことにしましょうか。
「じゃあ、行ってくるわ」
哲平とキースに手を振ると、哲平は眉根を寄せる。
「付いていかなくていいのか?」
「子供じゃないんだから大丈夫よ」
「子供じゃないかもしれねぇけど、暴れ馬だろ、お前」
「失礼ね!」
話している間に迎えに来てくれた子の姿が見えなくなった。
置いていかれては困るので、哲平にもう一度手を振って教室を出た。
廊下で待っていた彼女は、私を一睨みしてから歩き出す。
先を歩く彼女に付いていくと同時に、私はシャツの胸ポケットに入れていた、あるものに触れた。
この世界は私たちでいう電力やガスは、生活魔法という魔法でまかなっている。平民だとか貴族だとか関係なく、ほとんどの人間が魔力を持っているからだ。
ただ、貴族は特に魔力量が多くて、攻撃魔法なども使える人がいるらしい。
アリスは貴族だし、もちろん魔力はある。
だから、問題なく胸ポケットに入れている小さな石に魔力を込めた。
この石は日本で言う、とある物ようなもので、電池の代わりに魔力を使う。
少し流すだけで一時間くらいは大丈夫だそうだから、十分だと思われる。
これが役に立つ発言を、相手がたくさんしてくれればいいんだけど。
さあ、どんなお話をしてくれるんでしょうね。
楽しみだわ。




