28 お願いする
その日の放課後。呼び出された場所に行く前に、まずは哲平の所へ行くことにした。
彼女たちからお誘いを受けたのは、哲平たちと別れたあとなので、放課後の呼び出しについて哲平は知らないからだ。
さすがに何も言わずに行ったら怒られるだろうし、私を教室まで迎えに来る可能性があるから、哲平には話しておいたほうがいいと思った。
彼のクラスに行くと、教室には哲平とキースしかおたず、二人で何か話をしていた。私に気が付いたキースが手招きしてくれたから、中に入って先に用件を哲平に告げる。
「ターゲットに呼び出されたから今から行ってくるわ」
「は!? ターゲットに呼び出された?」
哲平が目を丸くして聞き返してきたので、笑顔で答える。
「そうなのよ。今日、お昼にキースとご飯食べてたのが気に食わなかったのかもしれないわね」
「何だって?」
キースに聞こえないように小さな声で言ったつもりだったんだけど、キースの耳に入ってしまった。まあ、すぐ近くにいるのだから当たり前か。
椅子に座っていたキースが勢いよく立ち上がった。
「俺も行く」
「来なくていいわよ。女の喧嘩に男は必要ないわ」
「でも、アリスが呼び出されたのは俺のせいなんだろ」
思い詰めたような顔をしているキースを、私はこれ見よがしに大きくため息を吐いて見つめる。
「別にキースのせいじゃないわよ」
「俺と食事をしていたからだって、今言ってただろう」
「ああ、はいはい。わかったわよ。もしかすると、それが原因かもしれないけど、だからといって、あんたのせいじゃないの! 私が誰と話すか話さないかは、自分で決めることであって、人に決められることじゃないの!」
たぶん、呼び出された理由はキースと仲良くしていたから、で間違いないと思う。
もちろん、それで呼び出されるのはいい迷惑だけど、アリスはそれに耐えてきた。
離れれば良かったのに、そうしなかったのは、アリスがキースのこともノアのことも好きだったからだと思う。
「キースやノアと話すのも私の勝手よ。だから、あなたは気にしなくていいの。それとも、私に話しかけるなって言いたいわけ?」
「そんなんじゃねぇけど」
キースが大きく肩を落として、しょぼくれた顔をする。
せっかくのイケメンが台無しだわ。
きっと彼は正義感が強いんでしょうね。だから、私のことも放っておけないってとこかしら。
本当のアリスは何者かのせいで犠牲になったわけだし、また同じようなことが起こるかもって心配してくれているのかもしれない。
「キース、大丈夫よ。こんなことでどうこうなるくらいなら、神様は私をわざわざアリスに転生させたりしないわよ。私はアリスを嫌な目に遭わせた奴らをやっつけるのが自分の使命だと思ってるし、私にはそれが出来ると思ってるから」
だって、そうじゃなきゃ、こんなに上手く権力者が味方についたり、私たちの中身が別人だなんて突拍子もない話を簡単に信じてくれたりしないでしょ。
心の中でそう思ってから、キースに続ける。
「悪いと思うなら、このまま待っててよ。で、戻ってきたらどうしてキースが日本語を知ってるのか、その理由を教えてくれない?」
「……わかった」
「ありす、場所だけ教えろ。あまり遅いようなら見に行くから」
キースとの話の途中で、哲平が割って入ってきたので、少し考えてから真上を指差す。
「屋上にあるガゼボに来いと言われたのよ。そろそろ行かなきゃいけないわね」
答えてから、自分のカバンを哲平に預けて踵を返すと、キースに呼び止められる。
「待て、アリス。どこのガゼボだ?」
「屋上のガゼボ」
「だから、どこのだよ。ガゼボって校舎ごとにあるぞ?」
「校舎って何棟あるっけ?」
「五棟」
行くのが嫌になることを言われてしまった。
そんなの知らなかったわ!
屋上のガゼボって、情報量が少なすぎるでしょ!
他にミラベル伯爵令嬢は何か言ってたっけ。
彼女との会話を思い返してみる。
『屋上のガゼボにいらしていただける?』
と言われた記憶しかない。
もしかして、どこのガゼボかわからなくて困る私でも見たかったとか?
そんな理由だったとしたら嫌だから、私自身は動かないほうがいいかしら。
「よし、哲平、じゃなくて、テツ」
「ん?」
私が声をかけると、哲平が不思議そうな顔をして首を傾げた。
「とにかく、どこのガゼボかわからないし、私の代わりに見てきてくれない?」
胸の前で手を合わせて可愛くお願いしてみたつもりだったが、哲平の眉間に深いシワが刻まれた。




