27 呼び出される
「まだわからないわ。だけど、あなたのことを好きな子か、もしくは……」
言葉を止めて考える。
ずっと気になっていたことがあった。
一部の女子はノアにアリスへのいじめを知られるのを嫌がっていた。
それはたぶん、キースにアリスが誰かにいじめられているという話をされるのを嫌がったからだろう。
いじめをしていることを好きな人には知られたくない。そういう精神が働いていたんじゃないかと思う。
それなら最初からやらなきゃいいのに。そのことに気づけない馬鹿なのか。無理やりやらされているのかはわからない。
小瓶の件については、アリスではなく、ノアをターゲットにしている。……ということは、黒幕は何人かいるのだろうか。
アリスをいじめることを優先している人物とノアを狙っている人物。
少なくとも二人は黒幕がいることになる。
「どうかしたのか?」
黙り込んだ私の顔を心配そうにキースがのぞき込んできた。
顔が良くて人のことを思いやれる性格だから、女子に好かれる理由がよくわかる。
「何でもないわ。さっきの話の続きだけど、アリスが死んでしまった件に限っては、あなたのせじゃないと思う」
「ということは、アリスがいじめられてたのは、俺のせいなのか」
ため息を吐いたキースのトレイを見ると、皿の上に載った料理はほとんど残っている。
食欲がなくなる気持ちはわかるし、こんな落ち込んでいる様子じゃ、なぜ日本語を知ってたかなんて今は聞きづらい。
「キースのせいじゃないわよ。もし、あなたが原因だったとしても、悪いのはあなたじゃない。しなくてもいいことをした奴が悪い」
慰めにはならないかもしれないが、思ったことをそのまま言ってみると、キースは微笑する。
「ありがとな」
「ノアの件に関しては、俺もアリスもノアに危害がいかないように手伝うから。お前も今はノアを守ることだけ考えろ」
ずっと黙っていた哲平がそう言うと、キースも小さく「わかった」と言葉を返した。
食堂の大きな壁時計を確認すると、休み時間が終わりに近付いていたので、慌てて立ち上がる。
「あんたたち、ちゃんと食べてから教室に戻りなさいよ! あと哲平、あんたは家に帰ったらどうなるかわかってるわよね」
「わからないっす。なんか、ありすさん、怖いっす」
全然、謝るつもりなさそうだわ、コイツ。
べしんと、ふざけてくる哲平の頭を叩いたあと、文句を言う彼を無視して、トレイと食器を返しに向かった。
バイキング形式の食事を終えたあとは、自分で返却口に食器を返すことになっている。
返却口にトレイと食器を置いた時、私の隣に立った人物がいた。
目を向けると、綺麗な顔立ちの女子生徒が立っていて、トレイを返却口に返そうとしていた。
彼女の表情が強張っていることに気づき、彼女に目を向けたままトレイから手を離す。隣に立つ彼女は、私の手に自分の手を当てようとしたので、素早く手を引っ込めた。
彼女がトレイを持つ手の中指と薬指の間に何かが見えた。
凝視してみたところ、指の間に挟んであるのが針だとわかった。
「どうかしまして?」
その女は貼りつけたような笑みを浮かべて、私に尋ねた。
どうかしまして、って、針を指の間に挟んでいる、あなたの頭のほうがどうかしまして、でしょうよ。
と言いたいところが、何とか言葉をのみ込んで笑顔で首を横に振る。
「何もありませんが?」
「よろしければ今日の放課後、お時間いただけないかしら」
どうしていきなり、そんな話になるのよ。
あなたは人に話しかける時は、わざわざ針で人を脅さないといけないわけ?
「あら、何かしら。知らない人と話す時間なんてないんですけど?」
「な、なんですって?」
「どうしても私とお話がしたいなら、まずはお名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
他の人の邪魔になってはいけないので、返却場から食堂の出口に向かいながら言った。
紫色の長い髪を後ろでアップにし、宝石だろうかキラキラしたピンクの花のコサージュをつけた女性は、私の質問が気に入らなかったのか、眉間に皺を寄せた。
「あなた、私を馬鹿にしているの?」
そうですが、何か?
と言いたいけど、本当に誰だがわからないので、首を横に振る。
「いいえ、ついド忘れしてしまいまして」
「ど忘れなんて失礼ね! この方はロゼ・ミラベル様よ!」
いつの間にか、彼女の後ろに取り巻きらしき人物が五人いて、その中の一人が私にそう言った。
目の前の彼女が、ロゼ・ミラベル伯爵令嬢。
笑みがこぼれるのを抑えられなかった。
現れてくれてありがとう。探さなくて済んだわ。
あんたもアリスの日記に出ていた、私の復讐候補の一人だからね。
あなたのお呼び出し、喜んでお受けいたしましょう。




