25 職員室で叫ばれる
私たちの教室は二階にあるが、職員室は渡り廊下を渡った隣の校舎の一階にあった。
職員室に行くなんて、本当に久しぶりのことだ。
少し緊張しつつ扉を開けてみる。
雰囲気や机の配置などは日本の学校と変わらないが、室内の広さと机の数が比べ物にならなかった。
在学生が多いから、先生の数が多いのも当たり前か。
先生も交代で昼休みをとっているようで、席に着いている人は少ない。
「どうするつもりなの?」
担任の先生でも探すのかと思っていたら、哲平は私を連れて中に入り、職員室の扉を閉めた。
「ちょっと聞いてるの?」
「聞いてるよ」
哲平は私の手首から手を離し、今度はその手で私の肩を抱き寄せて叫んだ。
「せんせー、昼休み中にすいません! この度、イグス・イッシュバルドとアリス・キュレルは婚約いたしました!」
え?
何を言ってんの。
そんなの知ってるんじゃないの?
イッシュバルド家ってかなり有名なはずよね?
ほんと、こいつ何を考えてるのよ。先生の前ではさすがに無理なのであとで殴る。
そう心に決めたあとは、とりあえず笑っておく。
先生たちはきょとんとした顔で、私たちを見つめている。
そんな先生たちに哲平は続ける。
「なので、俺の可愛い婚約者に手を出すような輩がいたら、イッシュバルド家が相手になるって全校生徒に伝えておいていただけますか」
抱き寄せられたままの状態なので、私も作り笑顔のまま、頭を哲平の胸に寄せてみる。
ああ、ちゃんと笑えてるだろうか。
呆気にとられていた先生たちだったが、一番近くにいた先生が、無言でこくこくと首を縦にふると、波紋が広がるように、周りの先生も無言でうなずいた。
「では、失礼します」
哲平に頭を押されたので、付けていた頭を離した。
可愛い婚約者にする態度じゃないでしょう。
心の中で文句を言いつつも、彼と一緒に頭を下げて職員室を出た。
扉を閉めてすぐに、職員室内から先生たちの驚きの声が聞こえてきた。
「はー、疲れた」
哲平が隣で大きく息を吐いた。
平気な顔をしていたけど、やっぱり緊張はしてたのね。
事前に説明は欲しかったが、ここはちゃんと礼を言わないといけないわよね。
小さく息を吐いてから哲平を見つめる。
「どうした?」
「ありがとう」
「どういたしまして。知らせておくことで少しは牽制にはなるだろ。だけど、ラス兄さんが言ってたとおり、あんま無茶すんなよ」
後頭部をぽんぽんと撫でられた。
普段は私よりも子供っぽいくせに、こういう時は余裕ぶるから、なんだか癪に障る。
いやいや。せっかくの厚意なんだから、感謝の気持ちを忘れちゃいけないわ。
それにこれでだいぶ動きやすくなった。平民にも周知されれば、今までと同じようにアリスを舐めてかかることはないはずだ。
「さて、次は誰をやっつけようかしら!」
「……なんでそんなに好戦的なんだよ。とりあえず、まずは昼飯だ。腹減った」
「腹が減っては戦はできぬ、よね」
「なんでもかんでも戦いに繋げるな」
哲平は心底呆れたような顔をして私を一瞥した。
食堂の場所はキースから聞いているらしい。
迷う様子のない哲平の横を歩きながら、どうして私が好戦的になっているかという話をすると、哲平が訝しげな顔をして聞いてくる。
「新学期の朝からいじめなんて、どんだけ暇人なんだよ。ターゲットにされる理由でもあるのか?」
「わからない。わからないけど、チラッと見たのよね。机の中に入っていたゴミの中に気になるものを」
「なんだよ」
「キースに近づくなって書かれた紙があった」
その言葉を聞いて、哲平が真剣な表情で私を見た。
正確には、キース様に近づくな。
だったけど、意味は同じでしょう。
ノアと仲が良いせいで、キースとの距離がアリスは他の女性より飛び抜けて近かったのだと考えられる。
それに、思ったよりもキースはイケメンだった。しかも、辺境伯家の嫡男だ。
性格も悪くなさそうだし、当たり前だがモテるだろう。
「アリスが彼と仲良くしていたのが気に入らないんだと思うわ」
「……やっかみかよ」
「まだわからないけどね」
「くだらね。そういうのキースは嫌いそうだけどな」
「そういうのを好きっていう男だったら腹パン食らわせたい」
「やめろ」
話しているうちに食堂に着いた。
人でごった返す食堂の中で、うんざりしながらもキースとノアの姿を探すことにした。




