23 お返しする
「ねぇ、聞いてるの?」
「え? あ、それは……その」
反応がないので再度問いかけると、赤色の髪の女……ではなく、女性が視線を彷徨わせた。
「聞こえなかったみたいだから、もう一度言うわね。訳の分からないことをした暇人は、あんたたちなのかと聞いてるんだけど?」
「……ど、どうしたの、アリス。記憶がないのはわかったけど、性格も違わない?」
驚いた顔で言葉を発したのはノアだった。
ノアはそりゃあ困惑でしょうね。
今まで大人しかったアリスが、突然、クラスメイトに噛みつきはじめたんだもの。
私は笑みを浮かべて答える。
「昔の私がどんな性格だったかわからないけれど、私は大丈夫。ノアは自分の席に戻ってくれていいわよ」
「そういう訳にはいかないでしょ」
さすがに見て見ぬふりはできないのか、ノアが困った顔をした。
私が四人組に視線を戻すと、私の質問に対する答えが返ってきた。
「別に暇人なんかじゃないわ。ゴミ箱だと間違えたの。ごめんなさいね」
グループの中ではリーダー格の人間なんだろう。
さっき答えようとした赤髪とは別の女が、鼻で笑って言った。
口だけの謝罪で、ちっとも悪いと思っていないみたいね。
それならそれで、やり返させていただくことにしましょうか。
「あら、そう。じゃあ、お返しするわね。自分でゴミ箱に捨ててくれる?」
「……どういうこと?」
私はにっこりと微笑み、机の中に入れられていたゴミを抱え持った。
そして、彼女たちの頭の上にぶちまけて答える。
「こういうこと」
「な、何するのよ!?」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てるものだから、視線が一斉に集まった。みんな、口を閉ざし、黙って私たちを見つめている。
「ゴミ箱を間違えたっていうから返しただけだけど?」
「どう考えたって、ここはゴミ箱じゃないでしょう?」
「じゃあ、私の机の中だって、どう考えたってゴミ箱じゃないと思うんだけど? もしかして目が悪いの?」
リーダー格の女は頭にのったゴミを払いながら涙目になって叫ぶ。
「私たちだって好きでやってるんじゃないわ!」
「あら、誰かに指示されたとでも言うわけ?」
「何をいまさら! そうに決まってんでしょ!」
「誰に指示されたの。ちゃんと言ってくれないとわからないんだけど?」
冷たい声で尋ねてみたが、名前を口に出すことができないらしい。
リーダー格の女は顔を真っ赤にして泣き始めた。
何で泣くのよ。
私が悪役みたいになるからやめてほしいんだけど。
あれかしら。
名前を言っちゃいけない人がこの世界にも存在するとか?
一人が泣き始めると、他の子たちまで泣き出した。
なぜか私が加害者状態になっている。
「……言えないんならいいわ。それなら、あんたに指示をした相手に、これ以上ふざけた真似はするなって伝えて。何か文句があるなら、直接お前が言いに来いってね」
静まり返った教室内に私の声が響き渡る。
あー、スッキリした。
というわけで、後片付けをしましょうか。
気持ちを切り替え、笑顔でノアに話しかける。
「ノア、ゴミ箱はどこにあるの?」
「え? あ、あっちにあるから、持ってくるね!」
「ありがとう。ごめんね。片付けるの手伝ってくれる?」
「もちろん。ちょっと待って」
ノアは驚いて目を丸くしていたけれど、すぐに我に返って、教壇近くにあったゴミ箱を取りに行ってくれた。
ゴミ箱を持ってきてくれたノアと一緒に、机の中に入っていたものや、クラスメイトにぶちまけて床に転がったゴミを拾う。
すると、リーダー格以外の子たちが一緒に拾い始めた。
そして、私の隣にしゃがむと、小さな声で言った。
「……ごめんなさい。言い訳にしかならないけど、どうしようもなかったのよ。平民は言うことをきかないと貴族から……」
どうやら私をいじめろと命令されていたみたいね。
「色々とあるみたいだし、無理に口にしなくてもいいわよ。そのかわり、こんなことを他の誰にもしないで。もし、やれと言われたら私に相談してちょうだい」
私の言葉が聞こえていたのか、他の二人も「ごめんなさい」と小声で謝ってきた。
やってはいけないことをやったのは確かだけど、平民が貴族の命令を断るのは難しいんでしょうね。
小瓶の黒幕と、いじめの黒幕は同じだと思ったが、そうでもないようだ。
なぜそう思ったかというと、アズール男爵令嬢は違うグループに属しているようだからだ。
とにかくまずは、平民を脅してまでアリスをいじめていた貴族が誰か、探し出すことにしましょうかね。




