21 挨拶する ②
「おはよう」
笑顔で挨拶した私に、ノアらしき少女は爽やかな驚いた顔をする。
「おはよう、アリス! いつ髪を切ったの!?」
「休み中に気分転換したくなって切ったの」
「雰囲気が違ったから、一瞬、アリスかどうかわからなかったよ! でも、似合ってるしすごく可愛い! あと、スカートも短くしたの?」
尋ねてきた彼女のスカート丈は、ふくらはぎほどの長さだ。
私はちょうど膝下といったところだから、短いと言われれば短い。
少し不安になって周りを見てみる。すると、少数派ではあるが、私よりもスカート丈の短い子がいたので胸をなで下ろした。
この学園には平民も通っているし、平民の子である可能性が高いが、浮いてないのであれば良しとしよう。
……いや、貴族の令嬢としては浮いているか。
「……アリス?」
「あ! ごめん。えっと」
ところで、あなたはどちら様? ノアで合っているのよね?
この国には写真がない。代わりに絵を描いてもらう。
アリスの両親からノアの肖像画を見せてもらっていたのに、全く似ていないから判断がつきにくい。
「おい、ありす」
内心焦っている私に気が付いたのか、哲平が私の名を呼んで近寄ってきた。
そして、ノアらしき人物を見て尋ねる。
「失礼だが、どちら様かな?」
「……あ、はじめまして。私はアリスの友達の、ノア・タカナシと申します」
慌てた様子で頭を下げるノアを見たあと、私と哲平は素早く視線を交わした。
やっぱり彼女がノアだった。
哲平はすぐにノアに視線を向けて応える。
「ああ、ありすから聞いてるよ。アリスと仲良くしてくれてたんだよな。これからもよろしくな」
哲平はとびきりの営業スマイルをノアに向けた。
ノアは一瞬だけ頬を染めたあと、説明を求めるように私を見つめた。
辺境伯家にお世話になっているとはいえ、平民のノアにしてみれば、誰この人になるわよね。
「紹介するわ。新しい婚約者で本名はイグス・イッシュバルド。でも、その名前は嫌いみたいだから、テツって呼んであげて」
「イ、イッシュバルドって! も、もしかして、公爵家の!? て、テツ様、で良いですか?」
目を見開いて尋ねたノアに、哲平は手を横に振る。
「様とかはいらない。呼び捨てでいいから」
「えっと、でも貴族の方、ですよね」
ノアが困った顔をした時だった。
「ノア」
彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。
声がした方向に振り返ると、黒色だけどやや紺色に近い髪を持つ長身のイケメンが立っていた。
彼はノアの腕を引っ張り、自分の後ろに回させたあと、なぜか私まで庇うように哲平との間に立った。
警戒した様子の哲平に、現れた男が話しかける。
「コイツらに何か用か」
「……用も何も、俺はありすの婚約者だから、婚約者の友人に挨拶しただけだ。何か文句あんのか」
ひりついた空気が流れたが、ノアの発言で空気が一変する。
「ちょ、ちょっとキース! キースが迎えに行かないといけないって言ってた人、この人だよ!」
「え? 嘘だろ!?」
なんとなくそうかと思ってたけど、やはり彼がキースだった。
ノアと話しているキースを見て思う。
うーん。これはかなりのイケメンだわ。日本でなら、モデルとかアイドルにいてもおかしくないくらい整った顔立ちをしている。
というか、私の好みの顔なだけかもしれないが。
長身痩躯のモデル体型でこの顔ならさぞかしモテるのだろうな、と勝手に納得する。
ノアにブレザーの裾を引っ張られたキースは、慌てて哲平に向かって頭を下げた。
「失礼しました。俺は」
「キースだろ? ありすから話は聞いてる。ノアが可愛いのはわかるけど、これからはもうちょっと落ち着いて対処するべきだな」
「申し訳ございませんでした」
わかっていたことだけど、公爵家の権力はやっぱりすごいのね。
「アリス、いつの間にイッシュバルド卿と知り合ったんだ?」
キースが眉間に皺を寄せて尋ねてきた。
「最近」
「最近って……」
呆れた顔をするキースの横に立ち、ノアが小首を傾げる。
「アリス、今日何だかおかしくない? 休み前も様子が変だったし何かあったの?」
「えっと、そうね。気持ちの変化かしら?」
「……気持ちの変化?」
ノアは納得していない様子だったが、笑って誤魔化した。
アリスには良い友達がいたのに、どうしてあそこまで苦しめられたんだろうか。
ノアたちに知られないようにしていたとしても我慢しすぎだわ。
さあ、味方の顔は覚えたし、新たな学園生活を始めましょうか。




