20 挨拶する ①
朝食後、制服に着替えて鏡で自分の姿をチェックする。
丈は膝下にしてもらったので、少し可愛く見える気がする。
廊下から哲平の声が聞こえた。
「おい、ありす行くぞ」
「了解!」
身だしなみのチェックを急いで済まし、鞄を持って部屋の扉を開ける。
真正面の壁に背中を預け、制服姿の哲平が立っていた。
「おはよう」
「はよ」
廊下に出て、哲平をまじまじと見つめる。
あの微妙な喧嘩からは、外見は全然違うはずなのに、哲平本来の姿に似てきているような感じがしてしまう。
髪型や仕草が同じだから、そう感じてしまうんだろうか。
私の視線に気がついた哲平は、壁から背中を離し眉間に皺を寄せた。
「何見てんだ」
「いや、なんかイグスさんの身体なのに、一瞬、哲平に見える時があるのよね」
首を傾けて答えた私に、哲平は眉間の皺を深くする。
「こえぇこと言うなよ。と言いたいとこだけど、俺もお前の本来の姿で見えたりすることがある」
「そういえば、この身体で初めて会った時も、あんたはそんな感じだったわね」
そんな話をしていると「お時間です」とメイドが私たちを呼びに来た。
当たり障りのない会話をしながら階段を降り、エントランスホールへ向かう。
執事のロッカが扉を開けてくれたので、メイドから鞄を受け取って外に出た。
綺麗な装飾がされた馬車が一台止まっているのが見え、私は目を丸くする。
子爵家の馬車とは比べ物にならないくらい豪華だ。磨き上げられているのか、太陽の光を受けて輝いているように見えた。
「この豪華さ、馬車に必要ある?」
「知らねぇよ。貴族社会ではああいう見栄も必要なんじゃねぇの? 公爵家の令息の俺が乗るんだから仕方ねぇだろ」
アリスの家から学園までは徒歩で行くには1時間以上かかるので、馬車で通っていた。
哲平は公爵家の次男だから、通学途中に何かあってもいけないということで、公爵家から馬車と御者、護衛騎士も派遣されている。
「じゃあ、またあとでね」
手を振ると、哲平は不思議そうな顔をした。
「乗ってかねぇのか?」
「そっちに乗っていったら、うちの御者さんの仕事がなくなっちゃうでしょ」
「ふーん」
後ろに停まっているキュレル家の馬車に向かおうとしたが、哲平が何か面白くなさそうな顔をしているので立ち止まって尋ねる。
「何よ。何が気に入らないの?」
「……お前、スカート短くないか?」
「……高校の時ってこれよりも短くなかった?」
「いや、そうだけど。まぁいいわ。またあとでな」
哲平はそう言うと背を向け、後ろ手に手を振り、馬車に乗り込んでしまった。
何を言おうとしていたのか気にはなる。
しかし、遅刻するわけにはいかないので、キュレル家の馬車に乗り込んだ。
学園へは馬車で30分程で着いた。
貴族も多くいるからか、学園の中には馬車の乗降場所がある。
そこで馬車から降りると、迎えの時間の話をしてから、御者と別れた。
「遅かったな」
先に着いていた哲平が、私に向かって歩いてきた時だった。
「アリス!」
名を呼ばれて振り返る。
大人しそうだけれど可愛らしい顔立ちの女の子が、私に向かって手を振っているのが見えた。
艶のある長い黒髪を揺らせて、私の所へ駆け寄ってくる。
「久しぶりね! 元気にしてた?」
親しげに話しかけてきた彼女を、私はまじまじと見つめた。
もしかして、この子がノアなの?
ちらりと哲平に視線を向ける。哲平は難しい顔をしてノアを見つめていた。
助け舟を出してもらおうかと思ったが、こいつは女性が苦手だった。
できれば、女性と接触したくないだろう。
とにかく、近づいてきた彼女がノアかどうか確かめなければならない。
だけど、どう確かめたらいいのかしら。
まずは挨拶だけして、少しずつ探りをいれていくことにした。




